予期せぬ襲来
里に帰った俺達は避難が無事に完了していることに安堵した。
もうこの里に残っているエルフはごく僅かのようだ。
と、ミューリがこちらに気づいてやってきた。
「スティーグ。ゴーレムはどうなったの?」
その顔には期待の色があった。俺達は五体満足だし、ゴーレムも追ってはこないので倒したと思ったのだろう。
だが、申し訳ないが脅威は去ってはいない。
「悪いがまだ倒してはいない」
「え・・・」
顔色が絶望に代わる。
俺が倒せなければこの里は終わりなのだ。気持ちはよくわかる。
「だが、時間は稼げる。住民の避難は終わったのか?」
「うん。もう残っているのはほとんどいないわ」
「そうか。時間がほしい。とりあえずどこかに入ろう」
ミューリは頷く。
一先ずは俺達が泊まるはずだった空き家に向かった。
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「オリハルコンのゴーレム!?」
戦った経緯を聞きミューリは絶叫した。
「それってあれでしょう? ドワーフが作ったっていう」
「正確には作ったのは旧人類だ。ドワーフはその管理を任されていた」
やはり長い年月が経つと情報は正しくは伝わらないようだ。
オリハルコンは今ではドワーフが作ったことになっているらしい。まあ、今はそんな事はどうでもいいが。
「つまり、あれは太古の昔に作られた超金属なわけですね?」
クレアの言葉に俺は頷く。
「あれは魔法はほとんど通さない。エルフでは刃が立たなかったのも納得だ」
「先生の魔法も効かなかった」
セリスが痛いところを突く。
「そんなとんでもないゴーレムがなんで現れたの? どうしてこの里を襲うのよ」
「それはわからないが、明確にこの里を狙っていることは間違いないだろうな」
俺は妖精郷の全体図を見せてもらった。
それによるとゴーレムは集落を一つ一つ確実に潰して回っている。
あれにそんな意志があるとは思えない。つまりは誰かが背後にいる。
それは当たり前か。オリハルコンだろうとなんだろうと相手はゴーレム。
言ってしまえば人形なのだ。作った人間が必ずいる。そいつの狙いはまだわからないが、あれをどうにかしないと話にならない。
「先生がカルドニアで使ったあの魔法はどうですか? あれならあのゴーレムにもダメージを与えられるんじゃないでしょうか?」
「そんな魔法があるの!」
滅びの光の事か。
ミューリは期待に胸を膨らませて俺を見る。
確かにあれは魔法の枠組みを超えた超魔法。あれならばゴーレムにもダメージを与えられるかもしれん。確信はないが。
「ダメだ。あれは範囲が広すぎる。あれを使えばこの辺り一帯が荒野になるぞ」
実はカルドニアで使った時は手加減を加えている。しかし、あのゴーレムに使うのであれば全力で放つ必要があるだろう。そうなれば、この妖精郷は浄土と化す。
守るべき場所がなくなってしまっては本末転倒もいいところだ。
「そ、そんなにすごいんだ・・・」
ミューリは冷や汗をかく。
以前ミューリの前で倒したゴロツキ崩れとはスケールが違い過ぎてついていけないのだろう。
「封印とかできないでしょうか?」
クレアは思いつきなのだろうが面白い意見をだした。
倒せない敵は封じてしまえばいい。
多くのサーガで語られる大物モンスターの対処の仕方だ。
確かに間違ってはいない。だが。
「却下だ」
俺達旧人類は神獣をこの時代まで封印した。
それは言ってしまえばこの時代まで問題を先送りにしたともいえる。
あの件があるので俺はどうも封印に良いイメージがない。
あれはここで倒す。なんとしても。
「で、あるならば、あれを倒す方法は一つしかないのではないですか? お兄様」
「だよな~」
アティシアの言っていることはおそらくはアレだろう。
だが、アレをやるには一つ心配がある。
しかし、他に方法は思いつかない。
決意を固めた時にふっと影が動いた。
俺の使い魔(影の小精霊)が現れたのだ。
皆はぎょっとしたが、俺がなんでもないと手で制し、使い魔の話を聞く。
その内容に俺は目を見開いた。
「なんだと!?」
驚いて思わず立ち上がる。
急に俺が驚いたので皆も何事かと不安の顔つきになった。
クレアが質問する。
「先生。どうしたんですか?」
「ああ、使い魔にゴーレムの様子を見張らせていたんだが」
「壁がもう壊されたんですか?」
「壁はまだ無事だ。そうじゃない。厄介な事になったぞ」
「も、もったいぶらないでください」
「魔物だ。何故かゴーレムのやってきた方向から魔物が現れた」
「ええ!?」
空き家に衝撃が走る。
何故このタイミングで魔物が? もちろん偶然ではないだろう。ゴーレムに続いて何者かが魔物をこの森に出現させたのだ。
「壁ももう長くは持たない。お前達」
俺は皆を見渡す。
「俺はあのオリハルコンゴーレムの相手をしなくちゃならない。そっちに構っている余裕はない。しかし、誰かが止めなくてはこの里は破壊される」
「解ってます先生」
「ついてきて正解」
俺の言葉に皆まで言うなとクレアとセリスが立ち上がる。
アティシアが俺を見て頷く。
「魔物の方はわたし達で何とかします。お兄様はあのゴーレムを」
「頼む」
ミューリが弓を手に持ち俺を見た。
「私も戦う。あのゴーレムじゃなければ私だって戦える」
「皆無茶はするなよ」
皆、頷くがこの中でそう言って無茶をしない人間はいない気がする。
これはさっさと終わらせてしまうしかないな。
「それじゃあ、第二ラウンド開始だ。俺はゴーレムを、お前達は魔物を」
「任せておいてくださいお兄様」
「力になってみせます」
「役に立つ」
「この里はわたし達が守る!」
頷き合い俺達は駆けだした。
誰の差し金か知らないが、その思惑を木っ端みじんに吹き飛ばしてやるぜ。




