巨壁荒ぶる
ゴーレムが現れたという地点はここから約二キロ離れた距離。
俺はすぐにそこへ向かおうとした。
「先生」
「あたし達も」
クレアとセリスが駆け寄ってきた。
「ダメだ。ここにいろ。戦わない約束だったはずだ」
「何かあった時の為に近くにいます」
「戦わない。約束する。離れてみてる」
二人は譲らない。
俺は困り果て頭を掻く。
と、アティシアが俺の肩を触る。
「二人の事はわたしが、最悪は飛んで逃げます」
「はぁ。わかったよ」
俺はミューリを見る。
「ここの住人たちの避難誘導を頼む」
「わかった。気を付けて」
ミューリは頷くと駆け出して行った。
さあ、行くか!
*****
しばらく駆けるとゴーレムの所在はすぐにわかった。
木々がメキメキと倒れる音が聞こえてきたからだ。
俺は目配りをしてこれ以上生徒二人に近づくなと指示を出す。
さすがにこの期に及んでこいつらも我儘は言わなかった。頷いて伏せる。
俺は慎重に音のする方へと向かって行った。
自分が過ぎた力を持っているからと言ってそれを過信するつもりはない。
エルフの戦士が束になっても敵わない相手。油断する理由はなかった。
バキっと木が倒れ、その後ろからのっそりとした巨体が姿を現した。
それは想像と少し違った。
ゴーレムと言えば土色を想像していたのだが、巨体(十数メートル)ながら滑らかなフォルム。肘や膝などのしっかりとした可動部分。何よりその色。鏡のように光り輝くシルバーメタリック。これまでイメージしていたゴーレムとは違う。俺達の時代の遺産、ロボットに似ている。
「daaaaaaaaaaaaa」
声にならない声を上げ、ゴーレムは俺を認識し両手を振り上げた。
俺はダーウィンスレイブを抜く。
両手を突き出し、突進してくる巨体を躱し背後を取る。そのまま足を狙い斬り付けた。だが――
キィーン!!
金属音が鳴り響き、ダーウィンスレイブが弾かれた。
「な!!」
俺は驚愕した。まさか、神殺しの剣ダーウィンスレイブが弾かれるなど。
あの神獣をも切り裂いた魔剣が。ありえない!
「godadddddddddddddddddddd!」
ゴーレムが叫び、拳を振り下ろす。
硬直してしまった俺は危なっかしくその攻撃を躱した。
そこにアティシアが飛び出してくる。
「お兄様! 信じられませんが、あのゴーレムの体はおそらくはオリハルコンでできています!」
「やっぱりか!」
オリハルコン。別名、神の金属。
神気を帯びた金属を旧人類が錬金術で加工して作り上げた超金属。
何故そんなものがまだあるんだ。
確か、先代の親父の代に神々の命令でドワーフが管理することになっていたはずだが、長い歴史の中で流出したのか。
考えていても今は仕方がないが、つまりこいつは。
「オリハルコンゴーレム!?」
かつてない強敵の俺は戦慄を覚えた。
魔法金属ミスリルすらも切り裂くダーウィンスレイブだが同質の金属オリハルコンはダメだ。
普通に剣で分厚い鉄の壁を斬り付けるようなものだからな。
そして、このオリハルコンにはもう一つ特性がある。
強度な魔法耐性だ。
並み、それ以上の魔法であってもまず通じない。
これではエルフが敵わなかったのも頷ける。得意の魔法がまるで刃が立たないのでは。
「だが、これならどうだ!」
俺はゴーレムを指差し魔力を放つ。
ドォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
俺の魔力にマナが呼応して魔法が放たれる。
凄まじい雷鳴が轟き、ゴーレムを打つ!
衝撃で辺りの木々が倒れ、ゴーレムの周りに大きな穴が開く。
「す、すごい。これが本気の先生の魔法」
「せんぱいに見せてあげたい」
クレアとセリスが感銘の声を上げる。
金属製なら雷がよく通るだろう。これならどうだ。
ゴーレムはしばらく沈黙していたが、それもほんのわずかの間。
ギギっと音を立てて動き出した。
「くそ、ダメか。ってやっべー。おい、お前らもっと離れろ。今のあいつは電気を帯びている」
「きゃーーー!」
「お兄様のバカー!」
うるせーうるせー。
こうなれば一時撤退だ。
俺は大地に手を当てると巨大な壁がゴーレムの周りを囲む。
ゴーレムは拳を振り上げ、壁を破壊しにかかるが。
「そう簡単にその壁は壊せないぜ」
高位の魔法には物理法則を超越した力が加わる。
あれはただの岩の壁ではない。
俺の魔力を通した鋼よりも硬い強固な防壁なのだ。
いかにオリハルコンゴーレムでもそう簡単には壊せはしない。
「今のうちに一時撤退だ。住民の避難の様子を見に行くぞ」
「わかりました!」
三人は頷いてすぐにこの場を離れることにした。
ガコンガコンと規則的にゴーレムが壁を殴る音が響く。
しばらくそのままでいてもらうぜ。
その間に何とかして対策を考えないとな。




