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いざ、妖精郷へ

 一通り話が終わると聞いていた一同は揃って俺の方を向いた。

 むぅ?


『クズ野郎』


「て、てめえら・・・」


 未だに謎なのだが、なぜ俺はミューリにクズ野郎呼ばわりされたのだろうか。

 何度かあのシーンを思い出してもその理由がわからない。

 あの後しばらくして俺は冒険者ギルドに無事に登録することができた。

 冒険者と傭兵などの仕事をもらい,荒稼ぎした俺は、一年ほどして妖精の里に立ち寄り、ミューリに結構な額を渡すことができた。

 だというのにその時も金貨を渡してさっさと立ち去ろうとした俺にミューリはやけに冷たかった。

 あまり長居をしては迷惑と考えた俺の配慮が気に入らなかったのだろうか。

 まあ、しかし、それはそれとして。


「なあミューリ。昔話をしにきたわけじゃないだろう。一体どうしたんだ?」


 俺の問いかけにミューリはなぜか口をへの字に曲げる。

 いったいなんだっていうんだろう?


「まあ、そうね。スティーグ。あなたに助けてほしいのよ」

「何かあったのか?」


 そしてミューリはここにやってきた本題を語りだした。

 事の起こりは数週間前。

 突如現れた謎のモンスターによって、妖精郷は荒れに荒らされてしまったのだという。

 エルフの勇猛な若者たちでもまるで歯が立たず、里を捨てようかという話にすらなっているという。

 そして、最後の最後。頼みの綱として俺の所にミューリがやってきたわけだ。


「エルフの戦士でも倒すことができない、か」


 エルフは弓と魔法に長けている。

 特に魔法は古代種と呼ばれるエルフの独壇場で(ミューリは弓の方が得意らしいが)人間よりも遥かに高度な魔法を使える。

 総合戦闘力はトリプルAの冒険者に引けを取らないだけの力を持っているはずだが、それが相手にならないとなると。


「相手はドラゴンか?」


 取りあえず思いついた相手の名前を言ってみる。

 一番現実味のある可能性は徒党を組んだ凄腕の人間たちの集まりなのだが、ミューリは『モンスター

』と口にしたからな。


「いいえ、ちがうわ。見たことのない種類らしいけど、相手はゴーレムよ」


『ゴーレム?』


 ゴーレムは石でできた巨大なモンスターだ。その巨体から繰り出される攻撃力は凄まじい。

 しかし、ある意味では力一辺倒の攻撃しかできない。古代種が束になっても敵わない敵ではないと思うのだが、相当にレアケースのゴーレムなのだろうか?


「まあ、話は分かった。それじゃあ行くか」

「来てくれるの!」


 俺は頷く。他ならぬミューリの頼みとあれば断る理由はない。

 ミューリは感極まって涙を流した。

 すると、生徒達も立ち上がる。


「当然、あたし達も行きます!」


 シルフィーがそういうと、皆が頷いた。


「だめだ」


 俺は問答無用でそう告げる。

 こいつらの実力を疑う訳ではない。まだ学生であるが、こいつらは戦闘力だけならAクラス。いや、ダブルAに迫るかもしれない。

 しかし、今回は相手が悪い。トリプルAクラスの実力者たちが束になっても敵わないのであれば、こいつらでは荷が重い。


「先生。妖精の里が今どのような状態かはわかりませんが、人出は多い方がいいはずです」

「何も戦う為だけが能ではありませんわ。わたくし達にもやれることはあるはずです」


 クレアとシャルロッテが口を開く。

 ふむ。確かに避難する場合などはあるかもしれないな。

 だが、こいつらを連れて行っていいものか。


「ダメだと言っても付いていきますから」


 こいつら言い出したら聞かないからな。

 下手に拒んでもカルドニアの時のように後からついてこられては困る。

 俺はため息をついた。


「わかったわかった」


 わっと歓声が上がる。

 俺はミューリを見た。確認を取るためだ。

 ミューリは肩をすくめる。


「ただ、ね。エルフは基本的に人嫌いなの。こんなにぞろぞろ連れて行くわけにはいかないわ」


 精々二人か三人、それが条件だとミューリは言った。

 和気あいあいとしていた場の空気が一変する。

 生徒五人とアティシアは互いに牽制するようににらみ合う。


「当然、わたしはついていきます。お兄様に付き従うのは常に私の使命ですから」

「いやいやいや、ここは公平にいきましょうよ」


 アティシアの発言を即否定するステア。

 最終的に六人はじゃんけんで決めることになった。

 六人が円になり火花を散らす。

 なんという闘気か。まさに決死の覚悟。って、なんでだよ。


『じゃーんけーん!』


 奇跡的に六人が出した手は一回で勝負がついた。


「ふっふ。見なさい。やはりお兄様についていくのはわたしなのです」

「みんなごめんなさい。あたし頑張ってくるから」

「お留守番をよろしく」


 付いていくメンバーはアティシア、クレア、セリスとなった。

 残りのメンバーは項垂れる。


「迂闊。何故あそこでチョキを出してしまったのか」

「くくくぅー、チョキが勝率が高いと何かで聞きましたのに」

「あー、言いだしっぺが負けるあるあるにあたしがハマるとは・・・」


 ミラはシルフィー、シャルロッテ、ステラを慰める。ミラも戦闘力があれば参加したかったんだろうな。


「それじゃあ、決まった? 悪いけど昔話をしてしまったせいで時間がないの。急いで支度をして」


 言われてみれば緊急事態だしな。ん? じゃあ、なんで悠長に昔話なんて? 今はどうでもいいか。

 さあ、行くぞ。目指すは今の俺にとっての始まりの地。妖精郷へ。

 

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