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まだ見ぬ世界へ

 相手はあのサムスってやつを入れなければ三人。

 一応あいつが加わることも念頭に置いておくが、腕を組んで完全に高みの見物を決め込んでいる。

 リーダー格の男がミューリを舐めるように見る。


「くくく、エルフってのは上玉が多いよな。こいつを始末した後にちょっと楽しませてもらおうか」


 ビクリと体を震わせるミューリ。サムスが堪らず口を挟む。


「おい、何を言っている」

「いいんだよ。これも報酬の内だ。それによお。お前だって楽しめるんだぜ?」

「お、俺も?」

「当たり前さぁ。お前だって夢見たことくらいあるだろうが。この女を自分の好きにできるんだぜ」

「俺、俺は・・・」


 ゴクリとつばを飲み込むサムス。それを見てミューリは愕然とした。

 まさか、里の仲間がそんな事をするとは思ってなかっただろうからな。

 リーダー格の男がニタニタと笑いながら剣をくるくると回す。


「言っておくがな、俺達はこれでもB級冒険者なんだぜ」


 冒険者?

 職業だろうか? 今はそんなのがあるのか。探検家とは違うのか?

 それって俺もなれるんだろうか?

 ちょっと調べてみよう。

 いや、待て。もし、身分証が必要だったらどうする? この時代の身分証なんて持ってないぞ。

 そもそもこの世界に身分証なんてあるんだろうか?

 どうも俺が行きついた先は文明レベルがかなり落ちているようだ。

 過去に飛ばされたんじゃないかっていう錯覚に陥るが、ここはれっきとした未来だ。

 ここを出たら世界中を旅して廻るのも悪くはない。

 うん。この世界ではもう俺は王族ではない。

 名前も勝手にスティーグに改名し、一からスタートした。

 もう俺は自由だ。

 これまで色々と縛られていた分勝手気ままに生きてやろう。

 そう考えると少しワクワクしてきた。よおし、希望が見えてきたぞ。


「・・・てめえ、状況がわかってんのか? 何笑っていやがるんだ」


 おっと、今はそんな楽しい未来を考えている場合じゃなかった。

 俺がワクワクして笑ったことがこいつにとっては舐めてると捕えたらしい、かなり機嫌が悪いようだ。

 それは他の二名も同じらしく、一人が我慢できずに俺に飛び掛かってきた。


「死ねや!」


 振り下ろされた剣を俺はひょいっと中指と人差し指で挟んで止めた。


「な、なにーー!」


 振り下ろした当人も、周りの男たちも驚愕する。

 しかし、俺にしてみれば。


「遅ぇ」


 加護のおかげで身体能力は飛躍的に上昇したが、そんなことをしなくてもこいつ程度なら楽勝だ。

 どうやらさっき言っていたB級ってのは大したことはないらしいな。(後にれっきとした中級だと知る)

 俺は指をひねるように力を入れると、剣はパキィっといい音をして折れてしまった。

 剣の持ち主はもはや現実が信じられないようで、固まっている。

 それをいいことに俺は力加減がよくわからないのでとりあえずデコピンとしてみる。


 バチィン!!


 いい音がして、男が後方に吹っ飛んだ。そのまま草むらに倒れ、動かなくなる。

 おおぅ。竜の加護をもらったがまさか人間にはこれほどの威力とは。

 そうだよな。よくよく考えれば竜が人間をデコピンすればああなるだろう。

 力をもらって戦ったのは神獣だもんな。

 規格外中の規格外だ。

 俺が全力で戦ったのはそういう相手だ。これは俺が全力で戦える日はもうないかもしれない。


「や、やろう!」


 男たちは俺への認識を改めたらしい。

 しっかりと構えを取り、リーダー格の男が斬りこんでくる。


「おおおお!」

「と、見せかけて後ろだろ?」


 振り返るともう一人の男が俺に向かってきていた。

 俺が突然振り返ったのでかなりキョドッている。

 この手の子狡い真似は俺の十八番。リーダー格の男の目線でバレバレだ。

 今度は軽く拳を腹に当ててみる。

 メキメキと内臓が破壊される音が聞こえ、はやり吹っ飛んだ。そのまま呻きながら動かなくなる。

 奇襲がばれてリーダーは盛大に顔が引きつる。だが、今さら待ったなんて言うなよ?

 迷いのあるのろのろとした剣を振り下ろすが、そんなものは当然俺には当たらない。

 今度は脇腹に蹴りを入れてみる。アバラの折れる音が足に伝わりコマのように回りながら転がっていった。


「ふむ」


 これは、俺の力は人間相手に使うもんじゃねーな。

 そんな事を考えていると、これまで唖然と見ていたサムスが軽く悲鳴を上げる。


「ヒッ、バ、バケモノ」


 む、失礼な奴だな。神々も認め、多くの種族から加護を授かった俺はむしろ神聖な存在だっつの。

 普通の人間あいつはエルフだがからしたらそう見えるかもしれんけど。

 だが、この男にどう思われようが関係ない。

 俺に殺意を向けて行動に移したらどうなるか思い知らせてやろう。

 俺は軽く拳を握ってサムスに近づく。


「く、来るな。来るなー! ミューリ。助けてくれ。あいつはバケモノだ。友達だろう?」


 サムスは情けなくもミューリにすがるように頭を下げる。

 む。世話になったミューリが許すのなら俺も許すことはやぶさかでもない、が。

 近寄ってきたサムスをミューリは思い切りひっぱたいた。


 パン!


「え?」


 何が起こったかわからないという風にサムスはミューリを見上げる。

 ミューリはひどく冷たい顔でサムスを見下ろした。


「サムス。これから掟に従いあなたを裁く。武器を持った害意ある人間の手引き、並びに殺人教唆。おそらくあなたには死刑が待っているわ」


 へなへなと、信じていた女に冷たく宣告され、サムスはその場にへたり込み、あ、失禁しだした。



 それから俺達はサムスと辛うじて生きていたならず者三人を突き出し、事を終えた。

 サムスの所業には誰もが唖然とし、ならず者を倒した俺への評価はほんのわずかに上がったようだ。

 それでも俺がここにいられる理由にはならないし、留まるつもりもなかった。

 精霊と長老に別れを告げると俺は旅立つことにした。

 ミューリと別れの時が来た。


「行ってしまうのね」

「世話になったな。ミューリ」


 ミューリはとても寂しそうにしていた。

 ほんの一週間ほどの間であったが、世話になった。

 ミューリは何かを決意したようで俺に迫る。


「あ、あのねスティーグ。あたし、あたしは!」

「ああ、わかってる」

「え、わかってくれてたの。やだ。恥ずかしいな・・・」

「恥ずかしがることじゃねーさ。当然の権利だ」

「権利、なのかな? でもね。恩を売るつもりとか、そんなことじゃないんだよ?」

「気にするな。ちゃんと金は払うって」

「・・・・・・・・・・・・え?」


 先ほどまで上気していた顔が硬直した。

 うん? どうしたんだろうか。

 しかし、構わずに俺は続ける。


「世話になりっぱなしだったしな。今は一文無しだし、路銀も携帯用の保存食ももらっちまったが、必ず金は払うし、何かあったら言ってくれ。必ず駆けつける」


 世話になった人間に不義理なことはしない。そう思って誠実に言ったつもりだったが、なにやらミューリの様子がおかしい。体をナワナワと震わせている。


「あんた。あんたって。最低のクズ野郎よーーーーーーー!!」


 俺がこの世界に来て初めて『最低のクズ野郎』の称号を授かった瞬間だった。

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