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妖精郷

 勝手に外を出かけてしまったスティーグを探すため、家を飛び出したミューリは方々に聞いて回った。

 人間に好感を持っていないエルフだけに人間が一人で歩いていれば嫌でも悪目立ちする。

 手掛かりはすぐに見つかり、歩いて行ったという方向にミューリは向った。


「ミューリ!」


 呼び止められ振り返ると、村の若者のサムスがこちらに駆け寄ってきた。


「あの人間がいなくなったって?」

「うん。そうなの」

「ふん。きっと怪我が治って一人で里を出て行ったんだろう」

「違うと思う。書置きがあったもの」


 それを聞いてサムスは露骨に舌打ちをした。


「あんな人間なんて放っておけばいいんだ」

「そうはいかないわよ。保護した以上は面倒を見ないと」


 サムスは大げさに身振り手振りをしながらミューリを説得しだした。


「なあ、人間なんてはるか昔に神々の怒りに触れた呪われた一族だぜ。本人たちはそれすらも忘れてしまっている間抜けときた。そんな奴らは放っておけよ」

「でも、話してみると悪い人には見えないわ。口は悪いけど」


 そう言いながら楽しそうに笑うミューリを見てサムスは眉を吊り上げた。


「目を覚ませよ。人間なんてろくなもんじゃないって! 大体男をお前一人しか住んでいない家に泊めるなんてどうかしてるぞ!」


 エルフが人間に好意を抱いていないのは分かっている。しかし、自分が保護した人間をこれほど悪く言われてはミューリも不快だった。


「あなたがどう思おうと構わないわ。でも、彼は悪い人じゃない。あたしにはわかるの。それに両親が百年前に死んでからあたしは一人で頑張ってきた。今さらあなたにあれこれ言われる筋合いはないわ」


 きっぱりそう言うとミューリは行ってしまった。

 ちなみにエルフは長寿の一族。

 ミューリは今年で259歳になるがこれは人間にしてみると16~18前後の歳になる。

 行ってしまったミューリを見つめながらサムスは唇を噛みしめた。


「くそ。ミューリ、お前は俺の言うことを聞いていればいいんだ。こうなったら毒には毒を、だ」


 サムスは暗い愉悦の笑みを浮かべた。

 彼は自分の行いが善意であると信じて疑っていなかった。




*****


「さて、どこに行ったのかしら」


 目撃情報を辿ってミューリは歩き続けた。

 そして、ある程度進むと不安に駆られた。

 まずい。

 この先は精霊が多くいるエルフにとっても聖なる場所だ。

 そんな場所に人間が入り込んだと知れたら騒ぎになってしまう。

 ミューリは歩を速めた。

 まったく世話の焼ける。すぐに連れ戻してとっちめてやらなくては。

 そう思っていたのだが、間もなく思ってもみなかった光景に遭遇した。

 まず聞こえてきたのは妙なる調べ。

 これまで聞いたことのないような霊妙な音だった。

 駆け足だった足取りが緩やかになり、まるで吸い込まれるようにその音を追った。

 そして、開けた聖域と呼ばれる場所でそれを目撃した。

 あり得ない光景だった。

 おびただしい数の精霊達が集まり、唄を唄っていたのだ。

 それはまるで光の調べ。

 思わず何もかもを忘れて見惚れてしまう光景だった。

 その光の中心にいたのが。


「スティーグ・・・」


 こんなことはあり得ない。

 人間が精霊と共にいるなど。

 太古の昔、禁忌を犯した人間は精霊とあまり共感できないはずだ。

 精霊が自ら一人の人間の周りにこれほど集まるなんてことは絶対にないはずだ。

 ましてや一緒になって唄を唄い笑い合っているなんてことは絶対に――


 パキ。


 木の枝を踏んでかすかに音を立ててしまった。

 精霊の唄が終わり、驚いた精霊達は散り散りになって消えてしまった。


「ああ、なんだミューリか」


 見惚れていたミューリは我に返り、スティーグに問いかける。


「あ、あなた一体何をしたの?」

「何って? 精霊の唄を聞いていたんだが? ここは精霊が多いな」

「ここは神聖な場所よ。あたし達もめったに来ないの」

「そうなのか?」

「そ、そうよ。それなのに人間がこんなところにいることが知られたら大変よ」

「当の精霊達は歓迎してくれたけどな」

「・・・」


 それを言われてしまうと困る。

 しかし、こういうのは何事も世間体だ。

 集落のみんながなんと言うかわかったものではない。

 ミューリは能天気そうにしているこの男を睨みつける。


「わかったわかった」


 スティーグは腰かけていた木の根から立ち上がるとミューリの所までやってきた。


「でも、また来ような」


 まるでわかっていなかった・・・

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