エルフの美少女現る
この世界にはスティーグ達が言うところの新人類が侵入を禁じられている不可侵な領域が存在する。
例えば魔族領。
一万二千年前の戦いで神獣を封印して以降、人間と袂を分かち、結界を張り、物理的に隔絶してしまった世界。
魔族の多くはそちらに移住し、中には竜族を初めとするいくつかの種族が付いていった。
例えば高い山脈にいて地上を見下ろす高位の竜族がいる。
その他に宝が好きな竜族は洞窟などに籠り、宝を集めては守護していたりする。
そんな彼らは冒険者には格好の獲物となっているが、竜の討伐は最高ランクの難易度であるため、それを果たせる冒険者は多くない。
例えば、地下に籠り生活するドワーフ達。
彼らは基本的に地上にはほとんど顔を出さない。広大な地下世界で自分達の社会を形成している。
そして、深緑の森深くに住むエルフ達。
エルフ以外にも小さな羽を生やした妖精達もこの森に棲んでいる。
俗に人類たちが妖精郷と呼ぶ地域である。
その妖精郷が今、未曾有の危機に晒されていた。
「東の森の集落が襲われたそうです。逃げ延びたエルフ達がこの集落に集まっています」
報告を聞き、御年三千歳の最長老エルフは頭を抱えた。
ついにこの近くにまで現れたか。
事の起こりは二週間ほど前の事だ。
どこからともなく現れた巨大モンスターによって妖精郷が荒らされる事件が起こった。
そのモンスターは神出鬼没。現れては消え、またふっと現れると田畑や家々を破壊して回っているのだった。
エルフ達は弓と魔法に長けた一族。当然その戦闘力は非常に高く、人間でいう所の最高ランク、トリプルAの実力を誇る猛者が何人もいるのだが、その猛者達ですら歯が立たず、返り討ちに会う始末だった。
そして、今日の報告で最長老が住まう森の最奥の近くの集落が襲われたという報告がされたわけだ。
「長きに渡り静かに暮らしてきた我等の土地ともついに別れの時が来たのかもしれぬ・・・」
最長老は寂しそうに首を横の振る。
抗うだけ抗った。ここに止まり彼のモンスターとやり合えば多くの犠牲者が出る。
その前に撤退するのも一つの勇気ある選択だった。
「待ってください!」
報告を聞いていたエルフの中で最も若い女性のエルフ、ミューリが声を上げた。
「ミューリ。若いお前には耐えられないかもしれぬが・・・」
「いえ、まだ、まだ試したいことが残っています」
ざわ。報告を聞いていたエルフ達が期待に胸を膨らませる。
「スティーグに。あの人に協力を求めましょう!」
******
「スティーグ先生の妹君、ですか!?」
理事長室でベネデットは驚きの声を上げた。
内容は端折ったが生き別れの妹と再会し、その妹をミラと同様にマネージャー的なポジションに置いて、特別クラスで面倒を見るという事を伝えにやってきた俺達兄妹をベネデットはまじまじと見つめる。
「いや、驚きましたな。まさかスティーグ先生に妹がいたとは。それも彼の有名なアティシアさんとは」
「いえ、そんな・・・」
「有名?」
アティシアは淑女よろしく控えめに照れているが、俺は驚いた。
「彗星のごとく現れた最年少トリプルA冒険者。冒険者の世界では有名ですよ。軍の方でもアプローチをかけようかという話もあるほどです」
なるほど。そういえば前に言っていたな。そんな有名になっていたのか。
「あれ? 最年少は俺じゃなかったか?」
「先生は、もうS級でしょう。その、なんといいますか、規格外といいますか・・・」
「え! お兄様はS級なんですか?」
アティシアが驚いた。言いそびれたからな。
アティシアは驚きと尊敬の目で俺を見つめた。
「まあ、そんな訳だ。学園の方には迷惑はかけないから構わないだろう?」
「それはもちろん構いません。どうせなら転校していただいても構わないのですが?」
むしろ是非そうしてほしいような言いぐさでベネデットは若干前のめりになる。
「嬉しい申し出ですが、私ももう18ですので」
「むむ。そうですか・・・」
残念そうに首を振るベネデットを置いて俺達は理事長室を後にした。
今日は週末であるが、特別クラスの訓練は休みなくある。
これから特別クラスの闘技場に向かう予定だった。
「しかし、あれだな。祝日は俺はいらないんじゃないか? 渡しているメニューをこなしてくれればいいんだし、俺は帰って寝たい」
なんといっても世の中は休みなのだ。そんな時は休んでも問題ないはずだ。
「お兄様ったら、またそんなだらしのないことを言って」
アティシアはため息をついた。
うーむ。アティシアが来てから小言をいうのがミラと二人に増えてしまった。
「俺達はもう王族でもないんだし、仕事に追われることはないんじゃないか?」
「はぁ~。昔忙しかった反動でしょうか・・・」
そんなことを言いながら校舎の外に出ると生徒達が待っていた。
いや、その言い方は適切ではなかった。
ミラも含めた生徒達が誰かと話をしている。
それは後姿からでもわかるほどの美少女だった。
全体的に緑色の服を着ていて髪は肩までかかる美しい金髪。膝辺りまであるスカートを穿いていて、後姿なので胸のサイズは分からないが、スカートからでもわかるほど小尻で引き締まっている。
「おい、なにしてるんだ?」
俺が声をかけると皆がこちらに振り向く。当然、その金髪女性も。
「スティーグ!」
その美少女は俺を見るなり俺の方に駆け寄り両手を広げ飛び込んできた。
うお!?
俺はとっさのことで警戒心が働き、手を前に突き出す。
むにゅん。
程よい手のひらサイズの胸を思いっきり鷲掴みにしてしまう格好になってしまった。
うむ。オレワルクナイフコウナジコ。
「きゃ。す、スティーグったら他の人の前、よ・・・」
美少女は怒るでもなく照れながら胸を押さえる。
んん? こいつ・・・
「ミューリか?」
金髪碧眼の美少女。何より特徴的なのがその耳。とんがっている。つまりエルフ。
俺はこの美少女に面識があった。
「ああ、スティーグ会いたかった!」
そういって、ミューリは今度こそ俺の胸に飛び込んできた。
何が何だかわからないが、とりあえず役得だ。楽しもう。
そして、他の女性たちは口を揃えて言ったものである。
『また新しい女か・・・』




