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スティーグ達三度肉を食う

「お兄様。起きて、起きてください」


 むーん。アティシアが俺を呼ぶ声がする。

 しかし、おかしい。アティシアがここにいるはずがない。

 なのでこれはきっと夢に違いない。

 俺は薄く目を開ける。

 目の前にはアティシアがいる。

 ベットに入っている俺を見上げ、ゆさゆさと揺すっている。

 だが、アティシアは俺の記憶よりも成長していた。

 ああ、やはりこれは夢だ。

 アティシアはもっと小さいはずだ。

 この胸も。


 ふに。

 柔らかい。うん。俺の知っているアティシアにはこんな柔らかさと弾力はなかったはず。


「きゃああああああ!!」


 ずご!!


「ごほお!」


 頭に衝撃を受けて俺は飛び起きる。

 そういえば、前にもこんなことがあったような気がする・・・

 目の前には胸を隠して涙目のアティシアがいた。やはり成長している。

 んん? これは一体・・・


「何を寝ぼけているんですかお兄様!」

「ああ、そうか。寝ぼけてたんだな」


 俺は納得とばかりに掌に拳をポンと乗せる。

 そう。俺は妹アティシアと一万二千年の時を超えて再会したのだった。

 そして、現在。アティシアは俺の家で寝泊まりをしている。

 幸いにも俺の家はベネデットの計らいで一人で住むには十分すぎるほどに広い。

 部屋はいくつも空いているので、住むには困らなかった。

 俺の家に住むに当たり、何故かミラや生徒達があれやこれやと口を挟んできたが、最終的に兄妹だからと納得をした。

 俺がアドルフと飲んでいる間に俺の過去を話して聞かせたことで、女性陣に結束が高まったのも大きな理由かもしれない。

 まあ、しかし。二度と会うことはないと思っていた妹が急に現れたのだ。昔のように接する事はちょっと難しいだろう。

 少しづつ慣れていくしかないな。お互いに。

 俺はうむと頷いた。


「何を頷いているんですか!? 胸の大きさですか? 私の胸の大きさに納得ですか? 離れている間に随分と変態になりましたねお兄様!」

「いや、そうじゃなくてだな・・・」


 うーむ。時間がかかるかもしれないな。



 アティシアと再会して三日が経った。

 今日はアティシアの歓迎会をすることになっていた。

 きっかけは女性陣がせっかくの再会を祝おうという事から始まった。

 俺はそれならばと例の牧場にアティシアを案内することに決めた。

 今回はアドルフは軍の方で用事があって欠席だ。

 あの肉を食い逃すのは惜しいと愚痴をこぼしていたが仕方がない。

 簡単に朝の食事を済ませ、女性陣と合流。馬車に揺られること数時間、俺達は例の牧場へとやってきた。


「こんな何もない場所に牧場があるなんて」


 アティシアは牧場の場所に驚いているようだった。


「なんか、前に来た時よりもお客さんいません?」


 ステラがきょろきょろあたりを見渡して感想を述べる。

 確かに人がちらほらと見えるな。

 俺の融資の甲斐あってだろうか。ようやくこの牧場が世間に認められているのかもしれない。

 隠れた秘密基地的な場所にしたかったので、少し残念な気もするが、いつまでもあのままでは経営が成り立たないからな。

 レストランのロッジに入ると経営者である牧場主のおっさんが俺達を迎えてくれた。

 おっさんは嬉しそうに客足が伸びていることを話して聞かせた。


「これもすべてスティーグさんのおかげですよ」

「気にするな。今日も頼む」

「わかりました。今日は趣向を変えてハンバーグにしてみようと思いますが、牛100%です」

「へえ、つなぎとかは大丈夫か? 牛だけだとぽろぽろにならないか?」

「さすがスティーグさん。よくわかってらっしゃる。そこはこちらも色々と工夫していますので」

「解った。楽しみにしている」

「・・・ところで、スティーグさんは来るたびに連れてこられる女性が増えていきますね。それも皆さんとても美人だ。羨ましいですな」


 む。そういえば、最初は初期特別クラスの四人。次はミラとシルフィーが加わり、今度はアティシアもいるのか。確かに増えているが。


「こいつは俺の妹だ」

「いつも兄がお世話になっております」

「なんと!」


 アティシアが頭を下げると牧場主のおっさんはたいそう驚いたのだった。



 しばらく席に座って待つとジュウジュウとうまそうな音を立ててハンバーグがやってきた。

 皆、期待に目を輝かせてハンバーグにナイフを入れる。


「あれ?」

「肉汁がでませんわね」


 そう。俺達はナイフを入れればあふれんばかりの肉汁が出てきて食欲をそそると思っていたのだが、それがない。

 少し不安に思いながらも肉を口に入れるが。


『うま!!』


 全員がハモッた。

 これはうまい。うますぎる。


「やられたぜ。肉汁は肉のうまみ。それがあふれ出すという事はうまみが外に逃げてしまうという事。このハンバーグは牛100パーを生かし、レアで焼き上げていることで肉のうまみを完全に中に閉じ込めているという事か!」


 俺はグルメレポーターよろしく解説をしてしまった。

 アティシアも口に手を当てる。


「まさか、この時代にこれほど牛を改良した牧場があったなんて。驚きです!」


 みんなそれからはひたすらに無言で食べ進め、皿を空にしてしまった。


「おかわりです」


 ・・・そして、シルフィーは安定のおかわりである。

 黙々と食べ進めるシルフィーを置いておいて俺はアティシアに話しかけた。


「そういえば、お前は俺と同時期に目を覚ましたんだったな?」

「はいそうです」

「ふむ。と、するとお前もこの時代に来て五年が経ったわけか」


 アティシアはこくりと頷く。

 俺は15の時にこの時代に来て、現在二十歳である。ということは。


「お前、今年で18か」


 アティシアは指で数えながら再びこくりと頷く。


「そうなりますね。お兄様を探し求めること五年。長かったです」


 アティシアはフッと遠い目をした。

 うーむ。チクチクと胸を刺してきやがるな。


「私と同い年ですか!?」


 シルフィーは嬉しそうに会話に加わる。しかし、そのナイフとフォークは決して手放すことなく動き続けている。


「そうなりますね。シルフィーさんよろしく」


 アティシアも微笑んだ。

 ふむ。アティシアとシルフィーはなんとなく体型が似ている。

 胸も。

 ミラが俺を睨む。


「あんた。そうやって胸で女の基準を図るのやめなさいよね」


 む。俺の視線に気づいたか。侮れんミラ。

 女性陣が極寒の瞳を俺に向ける。寒い。


「これからアティシアさんは先生の家でずっと暮らすんですよね?」


 クレアが尋ねる。


「そうですね。ミラさんと一緒に兄のお世話ができればと」


 アティシアはミラを見ながら答える。

 ミラとしては仕事が減ってしまうのは残念なことかもしれないが、アティシアの境遇をよくわかっているので優しい顔で頷いた。


「どうせなら、編入すればいい」


 セリスがナプキンで口を拭きながら言った。

 確かに選択肢の一つではあるが。


「私は18ですし、すぐに卒業でしょう?」

「そうなんですよね。あ、おかわりです」


 シルフィーは寂しそうに言いながら、しっかりとおかわりを注文する。三枚目か。


「それに私はこれでも冒険者をしていまして、トリプルAの」


『冒険者! トリプルA!』


 全員が驚愕する。

 アティシアは語り始める。

 この時代で目覚めたアティシアがまず困ったのが先立つものだった。

 飲食店などで日雇いのバイトをしていたが、家もなく、住み込みで働いていてはどうにも金は貯まらない。

 しかも、これまで文字通りのお姫様だったアティシアはその辺の要領がそこらの娘よりも悪かった。

 そんな時、目に止まったのが冒険者だったという。

 旧人類ムー王家のアティシアの身体能力はかなり高い。

 しかも、俺やマダドウムから稽古をつけてもらっていたので、戦闘力はそこらの冒険者の比ではなかったらしい。

 危険モンスター討伐系のクエストをいくつかこなしているうちにあれよあれよという間に最高ランクトリプルAに行きついたという事だった。


「すごい。あたし達の目標だ!」


 セリスが尊敬のまなざしでアティシアを見つめた。

 アティシアが照れながら答える。


「セリスさんもすぐになれますよ」


 確かにステアとセリスの戦闘力ならばそれほど険しい道ではないだろう。

 ちなみに俺も路銀に困った時期に冒険者ギルドに何度か足を運んでいて、世界ただ一人のS級冒険者なのだが、せっかくセリスやステアがアティシアを尊敬のまなざしで見ているので野暮なことを言うのは控えよう。



 こうして、俺達の楽しいハンバーグパーティーはつつがなく終わった。

 ちなみにシルフィーはハンバーグ200gを五枚平らげた。

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