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それはいつかの物語9

 王都の西区は神獣の一撃で崩壊した。

 その上悲劇はまだ終わらない。

 絶望が俺達に襲い掛かってくる。

 圧倒的な力の差。

 奢り高ぶった俺達に戒める神獣。

 それはゆっくりとこちらに迫って来ていた。

 こちらも魔導砲をチャージして応戦するが、すぐに再生されてしまう。

 本部を放棄し撤退すべきか? しかし、国民の脱出がまだだ。

 考えろ。

 ここで思考を止めるわけにはいかない。

 どうする?

 どうすればいい?

 一体、一体どうすれば!


「ステム!」

「マダドウムその恰好は?」


 焦る俺の前に親友であるマダドウムが現れた。

 マダドウムは戦装束着用していた。まさか。

 俺の顔色は見てマダドウムは薄く笑う。


「俺が足止めする」

「無茶だ!」

「行くのは俺だけじゃない」


 マダドウムの後ろには数十人の兵士達がいた。

 皆、覚悟を決めた顔をしている。


「お前達・・・」

「王、どうかここは我々にお任せください。必ずやあの神獣を押し止めてみせましょう」

「無茶はやめろ」

「誰かがやらなければなりません」


 確かにその通りではある。

 このままでは大勢の国民が犠牲になる。

 俺は頷く。


「わかった。では俺も」

「お前は来るな」


 マダドウムが制止をかける。

 俺は驚いてマダドウムを見つめた。


「なんだって?」

「王であるお前に何かあれば、誰がこの先国民を導くんだ」

「馬鹿な! お前達だけを死地に行かせ俺だけ逃げろと? ふざけるるな!!」

「何も死にに行くわけじゃない」


 マダドウムは腰に差してある剣を引き抜く。

 抜かれた剣は眩しく光り輝き、強い力を放っていた。

 見れば他の兵士達も同じ剣を持っている。


「竜殺しの剣。ドラゴンスレイヤーだ。以前ドワーフに打ってもらったやつをこちらで改良した」


 そういえば、そんな企画があったな。まさか、これほど大量に生産されていたとは。


「これならばあの神獣にも通じるかもしれない」

「あいつの再生能力を見ていなかったのか?」


 竜にはそれで十分かもしれない。しかし、あれは神獣。レベルが違いすぎる。


「なあ、ステム。人にはそれぞれ役割があると思う。お前はお前の役割を果たせ。俺は自分の役割を果たす」

「マダドウム・・・」

「これが終わったらさ。酒でも飲もうぜ」


 マダドウムはことさらに明るくそう言った。

 その意味が解らないほど残念ながら俺は子供ではなかった。

 その約束は果たされない。

 拳が砕けるほど強く握り、情けなくも涙がこぼれそうになる。

 だが、ここでそんな醜態は見せられない。

 この男の覚悟に、俺は応えなくてはいけないんだ。


「そうだな友よ」

「またな、親友」


 お互い、拳を突き出し、軽く合わせた。

 これが最後であると、俺達は知っている。

 それでも、『また』と言い合う。


「王、避難準備ができました。こちらに」


 俺はもう振り返ることなく、兵士達と避難を開始した。

 どうか、どうか無事であってくれと叶わぬ願いを祈りながら。




*****


「行ったか・・・」


 マダドウムはポツリとつぶやく。

 これが最後であると自覚していた。

 神獣はもう目前まで迫っている。


「さようならステム。お前は俺の良き弟分であり、幼馴染であり、ライバルであり、かけがえのない親友だった。願わくばお前の進む道に幸有らんことを」


 もはや、思い残すことはない。

 マダドウムはドラゴンスレイヤーを掲げ兵士達を鼓舞した。


「いいか。俺達の働きによってこの先の人類の命運が決まる。何としてもあれを止めるぞ!!」


『おおおおお!!!!』


(さらばだステム。来世でまた会おう!)




******


 王都を命からがら逃げ出してから一日が経った。

 神獣は俺達を追うことはなく、大部分の国民が避難することができた。

 俺は身が軽い兵士達に命じ、王都の様子を探らせていた。

 その報告が今からされようとしていた。


「王都は散々な状況でした。もはやあそこでの復興は難しいかと」

「そんなことはいい。戦った兵士達はどうした? 生存者は?」

「・・・激しい戦いの痕跡がありました。神獣もおそらくはそれなりのダメージを負ったかと、だからこそ我々は逃げられたのでしょう」


 そんなことはわかっている。

 このくそったれが、俺の質問に答えやがれ。

 俺は分かっているその答えを信じたくなくて、報告の兵に八つ当たりをするため怒鳴り散らす。


「生存者を報告しろ!」

「・・・生存者。確認できませんでした」

「――――っ!」


 俺は拳を強く、とても強く握りしめた。切ったらしく血がしたたり落ちる。


「くそ、くそ、くそぉ!! ちくしょう!! 俺に、もっと力があれば! マダドウム。あの、大馬鹿野郎がぁーーー!!」

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― 新着の感想 ―
誤字報告 「なんだって?」 「王であるお前に何かあれば、誰がこの先国民を導くんだ」 「馬鹿な! お前達だけを死地に行かせ俺だけ逃げろと? ふざけるるな!!」 「何も死にに行くわけじゃない」 ふざけ…
[良い点] ストーリーや進み自体は好みでした。 [気になる点] 誤字が多すぎて耐えられなくなりました。
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