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それはいつかの物語8

 アティシアの話を聞いていた一同は頭を抱えた。

 ミラがゆっくりと顔を上げる。


「大地母神。神獣?」

「話が大きくなりすぎていますね」


 シルフィーが眉間に指を当てて首を振る。

 すべての母、大地母神。

 そんな神が怒り狂い、姿を竜に似せた獣と化したとなれば、それはもはや人類だけの問題ではない。

 文字通りの世界規模の大災害だ。

 ステラは前のめりになってアティシアを見る。


「それでどうなったんですか。アティシアさん。先生は?」

「いかにお兄様と言えど、どうにもなりませんでした。神獣はいくつかの都市を滅ぼした後にムーの王都へと足を運んだのです」

「大ピンチ」


 そういえばと、シルフィーは手をポンと打つ。


「すべての元凶であるガガドームはどうなったのでしょう?」

「あの男はいつの間にか姿を消しました。神獣の攻撃で吹き飛んだのだろうというのが私達の見解です」


 哀れな末路である。


「私達は自身の体と魔導科学が生み出した兵器で神獣に対抗しました」




*****


 あの強大な竜が大地母神の化身と判明し、それが人類を滅ぼす為と聞かされた王族並びに王宮の臣下達は震えあがった。

 自分達のこれまでの行いの報い。そう真摯に受け止めることの出来る者は少なかった。

 何故自分達が? そういって自らの不幸を嘆くものが圧倒的多数だった。

 俺はそれに失望し、冷めた目で見ていた。

 身から出た錆。その一言に尽きる。

 だが、だからといって滅びを甘受することはできない。

 精霊達の言うように抗ってやるつもりだった。



 神獣はここムー王宮と城下に向かっていた。

 民達が避難をするまで何としても時間を稼がねばならない。

 俺達は神獣を迎え撃った。

 翼があるし、飛ぶことができるはずだが、神獣は飛ぶことなくゆっくりと歩きながら進行する。

 早く来られても困るのだが、それはまるで緩やかな死刑執行の様で俺や兵達は背筋に震えが走った。

 魔科学で動く戦車や戦闘機で攻撃したが全く歯が立たない。

 こっちの最終兵器を使うしかなかった。


「あ、現れました。神獣です」

「よし。魔導砲発射準備」


 魔導砲とは複数人の魔力を込めたエネルギー砲だ。

 このエネルギーを固定するために、魔導工場から抽出し、加工したマナが必要だった。

 怒りを買った加工マナエネルギーを使うことになるとは何とも皮肉な話だが、もうこの加工マナはすでに抽出されてしまっているし、使わなければ時間稼ぎもできない。使えるものは何でも使わせてもらおう。


「チャージ完了」

「よし。ってぇ!!」


 俺の出した発射命令で魔導砲が放たれた。

 その威力は半径一キロメートル周囲を跡形もなく吹き飛ばすほど強力だ。


 ドオォン!!


 強い衝撃波がこちらまで伝わり、巨大なキノコ雲が出来上がる。


「直撃を確認」

「よし。どうだ?」


 おぞましい黒煙が晴れていき、俺達は神獣の生死を確認した。

 もうもうと上がる煙からぬぅっと歩を進める巨大生物、神獣は健在だった。


「くそ。だめか。・・・いや?」


 確かに神獣は健在だった。しかし、直撃を受けたところは大きく傷ついている。

 思わず周囲から歓声が上がる。

 これまでの報告では通常の砲弾では全くダメージを与えられなかったので喜びもひと押しだ。


「よし、いけるぞ。再度チャージして砲撃を」

「お、王!?」


 神獣を見つめる兵士達から叫び声が上がる。

 なんだと思い見てみると、神獣の傷がみるみる塞がっていくのがわかった。


「再生している!」


 それも速い。再生のスピードが桁違いだ。

 大きく負ったと思った傷はもはや跡形もなく再生されていた。

 そして、次はこちらの番とばかりに口を開いたのだ。


「神獣の口から高エネルギー反応! ブレスです」

「魔法障壁を展開!!」


 魔法使い数百人が展開する魔法障壁。

 何者であろうとその侵入を阻む絶対防壁が王都を覆う。

 放たれたブレスが魔法障壁と激突した!


 ごぉうぅううお!!!!


 凄まじい揺れと轟音。

 その衝撃で何人かの魔法使いが吐血し倒れた。

 俺も魔法使い達と共に障壁を張るための魔力を練り上げる。


「何としても持ち堪えろ!」


 放たれたブレスは着弾しても爆発することなく、ガリガリとこちらの障壁を削っていた。

 魔法使いの何人かが手から血が噴き出す。しかし、何としても耐えるという強い意志が感じられた。


『うおおおおおおおおおおお!!』


 俺が吠えるとそれに習って全員が吠える。

 そしてついにブレスと障壁の間で大爆発が起こり、魔法使いたちが押され吹き飛んだ。

 だが。


「た、耐えた、ぞ」


 障壁展開に参加した俺の手はボロボロ、息も絶え絶えの状態だ。

 障壁を張った魔法使いたちもへとへとだが、やり遂げたという達成感の表情が目立った。

 人間は神獣に比べれば小さな存在だが、力を合わせれば何とかなることを証明した。

 そんな小さな俺達の喜びを、神獣はアリを踏み潰すがごとくあざ笑う。


「あ、あ、あ、神獣の口から再び高エネルギー反応。第二射来ます!?」

「な!!」


 次の攻撃までのスパンが速すぎる。

 竜は強力なブレスを撃った後は連射が出来ないものだが、そもそも比べる相手を間違えていた。

 魔法使いの心は折れ絶望に染まる。もはや力は残っていなかった。

 王都の一部がブレスで消し飛ぶ。


「ひ、被害を報告しろ」

「王都西区が被弾、損害甚大」

「住人の避難は!?」

「まだです!」

「ちっくしょうがーーーーーーーーーーーーー!!」


 俺はただ大声を張り上げることしかできなかった。

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