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それはいつかの物語6

 この世界を総べる神々の中でも特に力の強い神、大地母神。

 この世界に生まれるあらゆる生物は彼女の愛しい子供たちである。

 だが、その中でも異端の存在が現れた。人類である。

 いったいどこで間違えてしまったのか。

 彼らは愛しい自身の子供達であるにも関わらず、他の子供達を蹂躙し、自己の繁栄のみを願っていた。

 人類を含め、他の子供達にとってなくてはならないマナを独占し、搾取し続け、このままでは世界は遠からず滅んでしまう。

 一時の繁栄の為に子孫のことを何も考えず、他の種族との共存も拒絶し、ただ、今ある自分達の栄華のみを求める哀れな子供達。

 何度も説得を試みた。

 何度も何度も何度も、しかし、彼等の暴挙は続く。

 いったいどうしたらいいのか。

 悲しみが、絶望が、怒りに代わるのには慈愛の神として長い時間を要したが、それも間のなく終わりを告げようとしていた。

 自分が別の何かに侵されていくのが解る。

 止められぬ心。

 ああ、決してこんな結末は望んでいなかったというのに。



*****


「ガガドーム。出て来い!」


 俺はガガドームの屋敷に単身乗り込み、奴を問い詰めることにした。

 腐っても奴は王族の一員。下っ端を使いをやる訳にはいかない。

 ならば、もう直接俺が出向いて奴の真意を探ろうと考えた。

 ガガドームは突然の俺の来訪に驚いて、自室から飛び出してきた。

 どうも、食事中だったようだ。もう深夜と呼べる時間だというのに。口からはてかてかと油が光っていた。だからそんなに腹が出るんだ、クソ叔父が。


「す、ステム、王。こんな時間にいったいどうしたことだ? わしは何も聞いておらぬぞ」

「聞きたいことがあってきた。お前の所有している私有地で大規模な魔導工場開発が進められているな。これはいったいどういうことだ?」


 ガガドームは一瞬目を見開いたが、すぐに平静を取り戻した。


「・・・いったい何を言っている?」

「とぼけても無駄だ。一瞬だが顔に出たぞ」

「・・・あらぬ疑いをかけられたのだ。驚きの仕草をしても仕方のないことだろう」

「ちがうな。今の顔は疑いをかけられて驚いた顔じゃない。何故それを知っているのか。後ろ暗い秘密が見つかった時に見せる“焦り”が見て取れたぞ」


 幼いころから腹芸の得意な政治屋共を親父の後ろから見ていた俺は表情には種類があり、人類共通であることを知った。

 とっさに見せるその仕草は口よりもよほど雄弁に真実を俺に教えてくれる。

 ほぼ確信していた疑いは、ここに至り完全な確信へと変わった。


「お、王の見解一つでわしをどうにかするつもりか? いったいどこにそんな証拠がある?」


 この期に及んでもまだとぼけるとは。

 俺は呆れとこいつに対する憐みが滲んだ。


「地下だろう?」

「!?」


 今度こそ、ガガドームは盛大に顔を引きつらせた。


「お前は随分前から、私欲の為に独自に自分の所有地の地下で工場を建設し、マナエネルギーで私腹を肥やしてきた。ここ最近では隠れ蓑にもなっただろう。そもそも王朝で開発された最新の計測器を狂わせるジャミングなんて、そうそうできるものじゃない。お前を絞り出すのは骨が折れたが納得だ」

「う、ううう」

「証拠証拠と言うなら聞かせてやる。工場建設に携わるお前子飼いの業者は既に吐いたぞ」

「な、あいつらあれだけ金をくれておいて!」

「語るに落ちたな、お約束の三下。工場の方にはすでに軍を派遣している。お前の企みもここまでだ」

「うおおおおお!! こんな、こんなわしの人生の半分も生きていない若造に、わしの計画を台無しにされて堪るものか! 出あえ出あえ!」


 ガガドームの張り上げた大声で数人の私兵が姿を現した。


「こ、こいつは王の名を語る偽物、すぐに切り捨て、ん?」


 最後まで言い切らぬうちにガガドームは異変に気付いた。

 少ない。私兵の数がたったの数人ということはないはずだ。


「これだけか? 他の兵はどうした?」


 混乱するガガドームの横の部屋から扉が開かれ、ある人物が姿を現す。

 マダドウムである。


「おいステム。突入するのはもう少し待ってほしかったな。まだ兵を全員片づけてないんだからよ」

「そいつは悪かったな」

「ま、マダドウム!」

「よお。ガガドーム殿。いや、もう殿はいらないか。謀反人ガガドーム」


 マダドウムは凶暴な顔でガガドームを睨みつかると俺の横に並んだ。


「ぅう。何をしている。相手は二人だ。さっさと片付けんか!」


 私兵が若干困惑しながらも俺達を包囲し、剣を引き抜いた。

 俺も剣を抜き、マダドウムと肩を並べ構える。


「は! 俺とマダドウム相手にたった数人で戦おうってのか」

「ああ、笑っちゃうぜ。おら、来いよぉ!」


 飛び掛かってくる私兵達を俺とマダドウムは軽く捌き、次々に討ち果たしていった。

 それなりの訓練を積んだ兵達だったが、俺達二人が相手ではまるで役者不足だった。

 最後の兵を俺が斬り捨てると、その切っ先を今度はガガドームに向けた。

 情けないことにガガドームは剣を抜くでもなくその場にへたり込んでしまった。


「ガガドーム。テメエはすぐにこの場で首を跳ね飛ばしたいところだが、おそらく余罪がたっぷりとあるだろう。覚悟しろ。死よりもつらい尋問がテメエを待っているぞ」

「あ、あ、あ。たす、たしゅけてくれ。ステム。わしはお前の叔父だぞ? お前の母の兄だ。そのわしにこんな仕打ちをするのか? 慈悲を、慈悲をくれ」


 目の前が真っ赤に染まる気がした。

 殴るのも手が汚れる気がして、俺はガガドームの顔を思い切り蹴り飛ばした。


「ここで母の名を持ち出すか。見下げ果てたクズっぷりだなガガドームよ!」


 前歯の数本が欠けてガガドームは痙攣して動かなくなってしまった。

 マダドウムは俺の肩に手を当てた。


「これで一件落着、か」

「そうだな。神々や他の種族との信頼関係を取り戻すには時間がかかるだろうが――」


 ドーーーーーーーーーーーーーーー!!!!


 俺が言葉を言い終える前にとんでもない地響きがして、俺達二人は思わず倒れた。

 激しい揺れに起き上がることができず、俺達はほふく前進で屋敷からの脱出を試みる。


「なんだ。地震か!?」

「おかしい。我が国の周辺に大きなプレートはないはずだ。こんな大きな地震が・・・」


 屋敷から命からがら外へ飛び出した俺達が見たものは、死火山と思われていた火山の噴火だった。

 それよりもさらに驚いたのが、その火山の上に何者かが、とんでもなく巨大な何者かが現れた。

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