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それはいつかの物語4

 俺は普段着ている王族の衣装から、動きやすい服に着替え、ある相手と対峙していた。

 その男の名はマダドウム。

 褐色の肌をしているが、れっきとしたムー王朝の王族の一員。

 俺のはとこにあたる人物であり、二つ年上の兄のような存在である。

 うす紫色の髪と瞳、筋骨隆々の鋼の体を持ち、身体能力が高い王族の中にあって最強と言われていた。

 無論、王族以外にも身体能力が高い人間はいないわけでは無く、そんな真の天才の前では、ムー王朝の歴史において、屈指の才能の持ち主などと持ち挙げられている俺など、秀才の域を出ない。

 そんな真の天才であるマダドウムに、正面からの戦いでは分が悪かった。

 今は正に稽古の真っ最中。

 アティシアが見守る中で、俺達は互いに木剣を交し合っていた。


「だあああああ!!」

「くっそ!」


 マダドウムの激しい攻めに捌ききれなくなり、俺は守り一辺倒で下がる他なかった。

 嵐のように激しい打ち込み。

 丈夫な木剣が折れるのではと危惧するほどだ。

 アティシアははらはらと俺達の戦いを見守っていた。

 俺は体勢を崩し、大きく後退した。


「ここで終わりにする!」


 マダドウムが一歩踏み出し勝負をかけてきた。しかし。


 ずるぅ。


 しばらく雨が降っていなかったにも拘らず、マダドウムの踏み込んだ地面がぬかるんでいて、足を取られた。


「何!?」

「はぁ!」


 ぬかるみにはまり、倒れそうになる体を必死に踏み留まろうとしているマダドウムに、俺は剣を突き立てる。


「それまで、です!」


 アティシアが手を挙げて、戦いの終わりを宣言した。

 木剣を目の前に突き付けられたマダドウムは、じろりと俺を見て、悔しそうに頭を掻きむしった。


「だーーーーーーーーー!! くっそ。ステム。お前姑息すぎるだろぅ!」

「これで33勝124敗だな」


 俺は会心の笑みを浮かべるが、マダドウムはいまだ不機嫌を隠そうともせずに木剣を地面に叩きつけた。

 俺はそれを痛快と、さらに笑う。


「地面に干渉して一瞬にしてぬかるみを作り出したのか。お前そんなせこい戦法ばかりじゃないか。王の戦いと言えるか?」


 俺に負けた事もさることながら、そんな戦法にまんまと嵌まってしまった自分も許せないのだろう。

 マダドウムはグチグチと文句を言い続けた。


「正面から戦ったら十回に一回勝てるかどうかなんだ。なら、工夫するしかないだろう? それに真剣な戦いであれば勝った負けたに卑怯も何もないだろう」

「それはどうかな?」


 む? マダドウムはにやりと笑って俺の考えを否定する。

 俺達は休憩するためにそばにあった椅子に腰を下ろした。


「二年前の戦。お前の初陣だな。その時、盆地状の防衛拠点を攻めるのがお前の任務だった。その時、ある軍師が進言したんだろう? 地形的に見て、毒霧を流すのが最も効率よく鎮圧できる方法であると」


 俺は嫌な事を思い出した。

 二年前、このムー王朝に対抗できる勢力を持っていた国を攻め落とす場面で、俺は当時13歳で初陣をはたした。

 当時、まだ健在だった親父の命令で、ある防衛拠点制圧を任されたのだが、その時、ある軍師からマダドウムが言った戦術を進言されたのだ(今思えばあれは叔父の配下の軍師だった。)

 俺に万が一でもあってはならない。親父からそう言われていたのだというが真相は怪しい。

 だが、俺はその戦法を却下した。


「あの方法だと、戦士だけでなく、女子供老人に至るまで、全ての人間が犠牲になる。水も、生える植物もしばらくは使えない。だから却下したまでだ」

「戦いに卑怯も何もないのに?」


 マダドウムは意地の悪い笑みを浮かべる。それはいたずらっ子の子供のようだ。


「ルールは勝者が決めるもんだろ。その俺が決めたルールだ。胸糞悪くなる勝ち方をしてなんになるんだ」

「さっきのも俺にしたら胸糞が悪いんだが?」

「だから言ったろう俺がルールだ」

「・・・うわ、言い切りやがったよこいつ」


 何をしようと俺のさじ加減ひとつ。

 そう言い切った俺に、マダドウムが呆れたのだった。




******


「解ったぁー!」


 話を聞いていたステラが大声を出した。


「何がわかったのステラちゃん」


 ミラが耳を押さえながら質問する。


「先生のあの傍若無人な性格。あれは王様だったからですよ。『俺がルールだ』なんて、いかにも暴君の言いそうなセリフじゃないですか」

「た、確かに」


 一同は頷く。

 きっと王様になってやりたい放題やったに違いない。

 今の人格はその頃に形成されたものだろう。


「こほん。兄の性格は少し乱暴ではありましたが、暴君ではありませんでした。負けた国にもしっかりと文化や信仰をこれまで通り残していくことを認めましたし。奴隷制度も廃止しました。むしろ人道的な王だったんです」

「奴隷制度ってうちの国も昔あったよね?」

「歴史で習った」

「確かお姫様の尽力で廃止したとか」


 ステラとセリスが互いに頷き合う。

 そこにシルフィーが口を挟んだ。


「私はそのマダドウムさんという方の存在が衝撃です。スティーグ先生よりも強い方がいたんですね」

「当時の兄は今ほど超人的な力があったわけではないですから、私の見立てですと、そう。あの兄と一緒に飲みに行った方」

「アドルフ先生」

「あの方もかなりの手練れですよね。あの方よりももう少し下、くらいだったはずです」


 この国最強のアドルフに食らいつけるだけで十分だが、それならばまだ人の枠に止まる強さだ。ドラゴンを一撃で粉砕するほどの超人的な力ではない。

 そのスティーグを凌ぐ強さだったというマダドウム何某とはどれほどの強さだったのか。

 自分達はまだまだ修行が足りないと感じる一同だった。


「それがなぜ今のような常識はずれの力を持ったのですか?」

「話を続けましょう。その前に、お茶のおかわりを頂けますか?」

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