突然の選抜
バレンティア学園は国立の育成機関だ。
生徒の半数近くが卒業後、軍に所属するらしいが、これは決して強制ではない。
力ある者の義務とやらで、軍に所属する人間は貴族が多いのがこの国の特徴だが、この学園に入学を希望する生徒の残り半分は様々な動機で入学を希望する。
冒険者を目指すもの。
教養を深めたいもの。
家の箔を付けたいもの等々。
軍に関係が深い学園ではあるが、教える座学の数は多く、軍の知識以外のことも広く教えるため、入学希望者は多い。
入学金さえ払えば、平民であっても幅広く門戸を開くのがこの学園の特徴だ。その入学金も国立であるためかそれほど高くはない。平民であってもある程度余裕があれば、兄弟揃って通わせることも不可能ではない。
他にもこの国には学校は存在しているが、生徒達の総数が最も多いのがこのバレンティアだ。
あれから、俺がこの学園に赴任するまで三週間経った。
これは俺達の引っ越しもあるが(ちなみにミラは両親を早く亡くし、一人暮らしなので準備にそれほど時間はかからなかった)ちょうど今日から学園が新学期を迎えるので、キリが良いのでそれまで待ってほしいというのがベネデットの申し出だった。
ちなみに今は夏の終えての第二シーズンだ。
そして今日。俺たちはこの学園に赴任する。
今は始業式の真っ最中。
着慣れない式典の服を貸し与えられたが、首のあたりが苦しいので襟を緩め、長ったるいお偉方のありがたいお話を無視し、俺は生徒達の(主に女生徒の)制服を観察していた。
ふむ。悪くないデザインだ。パリっとした中に女性らしさを演出し、動きやすさを重視しているのか、スカートの丈はそれほど長くはない。素晴らしいぞ。
「――さて、今期から新しい先生がこの学園に赴任する。皆も聞いたことがあるだろう。先の大戦で単身でありながら、小隊を次々と撃破し、我が国を勝利に導いた戦場の鬼神。我が国の女性達を恐怖のどん底に陥れた真祖を討伐した英雄。その他にも惨劇の破壊神やドラゴンスレイヤーなどと多くの二つ名で知られるあのスティーグ殿を教師としてお迎えした!!」
会場から歓声が巻き起こる。
え、何その恥ずかしい二つ名。そんなのが付けられていたのか俺。初耳なのだけど?
隣でミラが顔を真っ赤にして笑いを堪えている。この野郎、そうか、そんなに笑いたいならこれが終わったら、くすぐり地獄の刑にさらしてくれる。
「それでは紹介しよう。スティーグ先生です」
壇上から校長が手招きする。
ん? 何、挨拶するのか。そういえば、打ち合わせの時にそんなことを言っていたような、なげーから聞き流してたんだよな。
一先ず壇上に上がる俺、ミラは俺が何を言うのか興味半分心配半分の顔をしている。
よく見ると校長も少し顔が引きつっている。
これは期待に応えないといけないな。ケケケ。
「あー、今学期から赴任してきたスティーグだ。年は二十歳。身長は大体175くらい。お前らの中から何人か見繕って鍛えてやるから覚悟しろ」
ちなみにミラは19歳。160の少し上くらいだ。
俺のざっくばらんな説明に空気がざわついた。ケケケまだまだだぜ。
「それじゃあ、さっそく、俺が教える生徒を発表する!」
ざわ。
今度は明らかに空気が変わった。生徒達はもちろん、教師陣も動揺が広がる。
当然だろう。だって、ここで選抜発表なんて誰にも言ってないからな。
周りの動揺をよそに俺は壇上からある生徒を指す。
「列の右側から行くぞ。そこのピンクの髪の娘。そう。お前だ。立て」
俺はその生徒に起立するように促す。
少し癖のあるピンク色のセミロングの髪の娘。胸はかなり大きく、瞳も大きい。急に立たされてかなり困惑しているようだ。
「次、あー、そこの金髪の髪のお前。そう。お前だ。立て」
次に立たせたのはロングヘアーの金髪の娘。長身だが線は細い。胸も残念。
「次は青い髪のお前。そう。立って」
次は青い髪のショートボブくらいの長さの娘。胸はそこそこ。
「最後だ。そっちの黒髪のお前。いや、お前じゃない。その隣のそう、お前だ」
最後に立たせたのは髪は一番短いショートの娘。胸は絶望的。背も低くなぜ自分が立たされたのかわかっていないようできょとんとしている。
「これから増えるかもしれんが、一先ずこの四人を俺が教える特別クラスの生徒とする。以上」
俺は用件を済ませるとさっさと壇上から降りた。周りは爆発的にざわつき始め、教師達がなんとか鎮めようと躍起になっていた。
すぐさま校長がこちらにやってくる。
「スティーグ、せ、先生。聞いていませんぞ。こんなところで特別クラスの発表など」
「ああ、言ってねーな」
「こ、困ります」
「そうかよ。あの四人には放課後集まるように伝えておいてくれ」
「・・・なぜ。あの四人なのですか?」
「なんだ。わかんないのかよ?」
「! 何か才能を見出したのですか? 特殊な魔力などを放っているとか?」
は? 何を言っているんだこいつは。
「誰だって見ればわかると思うがなー」
「いえ、凡人のわたくしにはさっぱり」
「いい線、言ってると思わないか? あいつらみんな美少女だろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「だから、顔だよ。かわいいと思わないか? 好みにもよるが、このままミスコン開いたら上位入賞は間違いないってくらいに」
「ま、まさか。ははは、ご冗談を。容姿で選抜したとでも?」
「せっかく教えるんだ。むさい男よりもかわいい女の子の方がいいだろう?」
ケケケケケと俺は笑いながら答えた。