アティシアは語る
シルフィーとアティシアの戦いがあったものの、その後も授業は続けられた。
シルフィーがアティシアを認めたことで、闘技場の空気が若干柔らかくなった気がした。
アティシアはベンチに戻り、再び授業を見続けた。
そして、 ひとまず今日のノルマは達成した。
一旦家に帰ってアティシアと積もる話をしたい。
そう考えていたのだが。
「なんでお前らも付いてくるんだ?」
家に向かう道中に俺は後ろからぞろぞろとついてくるミラとアドルフ、生徒達をジト目で見つめた。
「いや、だって」
「気になるじゃないですか」
ミラとステラが答え、皆が同意した。
そして、アドルフが疑問を口にする。
「・・・ちなみにスティーグ。その妹さんはそのままお前の家に止まるのか?」
「そうなんじゃね?」
アティシアを見ると軽く頷くので俺はそう答えたのだが、それに対する皆の反応が過剰だった。
「そ、それはだめですよ!」
「その通りです。男女が一緒に寝泊まりなどと」
クレアとシルフィーの真面目コンビが何やら焦りながら制止をかける。
「あの、何を勘違いしているかわかりませんが、私達は兄妹です。そういった倫理観には当てはまりません」
シャルロッテは悔しげに歯軋りをした。おいおい、いいところのお嬢様が歯ぎしりするなよ。
「た、確かにそうかもしれませんが、いきなり現れた妹さんですし」
「さっき、先生おっぱい揉んでた」
ぼふぅ!
セリスの爆弾発言にアティシアは盛大に咳き込んだ。
「た、確かに若干問題があったことは認めますが、実は私これまで旅から旅の暮らしをしていましたので、この街で泊まるところがありません。兄の家に泊めてもらうのが一番なんです」
そうなのか?
そういえば、こいつ、これまでどういう生活をしていたんだ?
俺もいろいろあったがアティシアにもあったはずだ。後で確認しなくては。
何故こいつがここにいるのか。いつからいたのか。そして、今までどんな生活を送っていたのか。
俺の知らないところで成長したこいつを知っておかなくてはならない。
「ねえ、スティーグ。提案なのだけど」
「あ?」
ミラが上目使いに俺を見上げた。
「アドルフさんとたまには飲んできたら?」
「は?」
いきなり何を言ってるんだこいつは。
いや、それよりも俺はアティシアに確認したいことがだな。
「女の子には女の子同士で話したいことがあるのよ。それにたまには男同士ってのも悪くないんじゃないかしら?」
ミラは笑顔で首を傾げてみせる。
アティシアを見つめると、首をすくめてみせた。
別に構わないということだろう。
「・・・わかった。とりあえずお前らは俺の家に行ってろ」
わっ! っと生徒達が黄色い声を上げた。あー、うっせうっせぇ。
アドルフは俺を見つめる。
「そういえばお前と二人で飲んだことはなかったな」
「まあ、たまにはいいか。お前ならいい酒場を知ってるんじゃないか?」
「無論だ。静かな落ち着いた酒場を知っている。行こう」
俺はアドルフと二人で夜の街に繰り出すそうとした時。
アティシアからひどく小さい声がした。
「お兄様・・・」
「あー、それほど遅くならずに帰る。またな」
「ええ、また、です」
その声は先ほど俺を叩いた時とは比べ物にならないくらい細く小さかった。
******
スティーグ達と別れた女性陣はそのまま学園からほど近いスティーグの家にやってきた。
ちなみに家の鍵はミラが預かっていた。
基本的にスティーグはそれほど物を置かない。
ミラがマメに掃除していることもあって、家は片付いていた。
「ここが、今、兄が暮らしている家ですか」
アティシアは物珍しそうに見渡した。
「ここに来るのはいつか夕飯をご馳走してもらって以来だっけ」
クレアは嬉しそうにキッチンを見つめた。
「ちなみに兄はいつもそこに座るんですか?」
アティシアは使い込まれている風なソファーを指差した。
ミラは頷く。
「ええ、たいていそこに座っているわね」
「そうですか」
そそくさと、アティシアはちゃっかりとそのソファーに腰を下ろした。
『・・・・・・』
「なにか?」
一同は苦笑いをしながら空いている席に座った。
「さて、アティシアさん」
ミラがひどく真剣な顔でアティシアに向き合った。
他の生徒もそれに習ってアティシアの方を向く。
「あなたが本当にスティーグの妹だというのなら教えてくれないかしら。あいつのことを」
「皆さんは兄の事をどこまで知っているのですか?」
アティシアの問いに一同は首を振る。
「知らないの何も。どこで生まれてどこから来たのかも。どうして、あれほどの力を持っているのかも何も知らない」
ミラはひどく悲しそうな表情を浮かべた。
そして、それは他の生徒も同じだった。
「そうですか。それなら私が言えることはないです。勝手に言ったら兄にきらわ・・・いえ、プライバシーの侵害です」
「・・・今、嫌われちゃうとか言いそうだった」
セリスがポツリと呟き、それをしっかりと聞いたアティシアはみるみる顔を赤くした。
「ち、ちが!」
「もしかして、アティシアさんてブラコン?」
言葉足りずに配慮無く核心を突く質問をするのがセリスである。
そして、それはこの場合大いに効果があった。
アティシアは更に顔を赤くしてトマトのようになってしまった。
「と、とにかくです。私達の事は安易に話すことはできません!」
「安易ではありません」
そう言ったのはシルフィーだ。
「私はここにいる他の人達よりも先生の付き合いは浅いですが、それでも先生からは多くを学びました。つい先月は共に死線を乗り越えました。決して安易な気持ちではありません。先生の事を知りたい。どうか教えてください」
シルフィーは深々と頭を下げた。
先ほどまで赤くなっていたアティシアの顔が元にもどっていた。
先ほど戦い、認め合ったシルフィーの願い。
他の女性達も真剣に耳を傾けていた。
アティシアは観念したようにため息をついた。
「いいでしょう。兄が私を置いて飲みに行ってしまったのも、自分では話しにくかったからかもしれませんし」
「それでは!」
「もう一度言いますが、決して安易に話せるようなことではありません。一度聴いたら後戻りもできないかもしれません。それでも聞きたいですか?」
一同は黙って頷いたのだった。
次回、スティーグの秘密が明らかになる。




