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その女アティシア

 その女。アティシアは俺をまっすぐに見つめた。

 絶対にいないはずの妹。

 そう。妹はここにはいないはずだ。何故それが目の前にいるのか・・・

 アティシアは冷ややかな目で俺を見る。


「ふふ。珍しいものを見ました。お兄様がそんなに驚くなんて。でも、それだけで溜飲を下げることはしませんよ」


 今なお、アティシアは怒気むき出しの顔で俺を睨む。

 俺は未だに状況を理解できていない。いないはずの妹。それにここにいるアティシアは俺の記憶よりも・・・

 確かめる必要がある。

 そう、確認の為だ。

 確実なのはこの手段しかあるまい。


 むにゅ。


 むんずとアティシアの胸を揉んだ。


「ひ! なにをしてるんですかあなたは!!!!」


 バシーン!!


 今度こそ。両手が胸を揉むことに忙しかった俺の頬をアティシアは思い切り叩いた。


「いってぇな!」

「もう一度言います。なにをしてるんですかあなたは! 妹の胸を揉んで楽しいですか? 馬鹿ですか? いえ、むしろ変態ですか!?」

「確認したかっただけだ」

「確認? 妹の胸を揉んでサイズを確認ですか? そうですか。見下げ果てた変態ですね」

「お前、老けてねぇ?」

「そこは成長したと言ってください!」


 アティシアはずさささっと後ろに下がり、胸を両手でガードしつつ涙目で俺に訴えた。

 その瞳は敬愛する兄を見る目ではなく、変質者の目を見るそれだ。

 なんてことだ。どこで間違えた。育て方か? 確かに知らぬ間に育っていたが。

 しかし、確認しないわけにはいかなかった。俺の知っているアティシアはもっと小さかったし(二重の意味で)もっと愛らしかった。こんなツンツンしていなかった。

 そう、アティシアは俺の記憶よりも数年成長していたのだ。


「す、スティーグ?」


 今まで状況についていけなかったミラが恐る恐る声をかけた。

 ふむ。そういえばこいつが女の胸を無造作に揉むシーンを見ても反応しないのは珍しい。

 こう言ってしまうと俺がいつも女の胸を揉んでいるようだが違うぞ。断じて。そう、いつもではない。

 ミラの呼びかけに反応したのは俺だけではなくアティシアもだった。


「スティーグ・・・そう、今はそう名乗っているのですね。道理で今まで探しても見つからないはずです」


 探していた? いったい何時から探していたんだ?


「あ、あの~。先生、そろそろ状況を説明してほしいんすけど・・・」


 好奇心が強いステラが手を挙げて俺に説明を求めた。

 いや、俺も混乱していてどこから説明していいかわからん。つーか、説明できん。むしろ説明を求める。

 アティシアは呆れたように俺を見た。


「先生って、ここに来る道中で色々情報を仕入れてきましてけれど、本当に教師をしてらっしゃるの?」

「そうだが?」

「驚いた。まあ、『人を導く』という意味では似合っているかもしれませんが」


『人を導くのが似合う!?』


 生徒達が盛大に声をハモらせて驚く。おい・・・


「な、何かおかしなことを言ったかしら?」


 生徒達の反応にむしろ驚いた風なアティシアに対し、生徒達はうんうんと頷く。だからどういうことだお前らのその反応はよ。


「・・・いいでしょう。積もる話もありますが、今はお兄様がどういう仕事をしているのか。見させてもらいます」

「あ? お前見てるわけ?」

「何か問題でも?」

「一応ここは一般人には立ち入り禁止なんだが」

「何か問題でも?」


 俺のやんわりとしたお断りに対し、アティシアは同じ質問を繰り返した。

 俺は頭を掻く。

 するといままでツンツンしていたアティシアが初めて微笑んだ。


「変わってませんね。私が困らせるとお兄様はいつも頭を掻いていた」


 ん? そうだったか。確かに頭を掻くのは癖かもしれない。そうか。そんな前からこれは癖だったか。


「わたしはそこのベンチから見ていますからお構いなく」


 アティシアはそう言うとさっさとベンチの方に行ってしまった。

 マイペースな奴だ。


「ああ、お前ら悪かったな。それじゃあ、今日も通常のメニューをこなしていくぞ」

「え!? ここまで引っ張ってまさかの通常授業!?」


 ステラがひどくがっかりして叫んだ。

 まあ、何はともあれ授業をこなしてからだ。

 生徒達は納得がいかないといった顔をしながらも渋々メニューをこなし始め、アドルフはそれを監督した。

 ミラはベンチから隣で座るアティシアを興味深げに見ていた。


「何か?」

「え、えーと、あなた。本当にスティーグの妹さん、なの?」

「その名前には抵抗がありますが、そうです」

「ごめんなさい。不躾で、でもあいつからそんな話全然聞かなかったから」


 アティシアは眉を若干吊り上げながら。


「・・・そうですか」


 と、だけ答えた。


「とりあえず、お茶入れたんだけど。飲む?」

「頂きます」


 アティシアはティーソーサーを受け取り、カップを唇に当てる。その仕草には気品が感じられた。

 ミラは思わず見惚れてしまったようだ。


「このお茶・・・」

「え、はい?」

「いえ、このお茶は兄の趣味ですか?」

「え、ええ。そうよ。結構な高級品なんだけど。あいつ、葉にはこだわりがあるみたいで」

「そう。そういうところは変わってないんだ・・・」


 アティシアはどこかほっとしたような表情で微笑んだ。

 ミラはその顔を見て、少し安心したようにこちらも微笑んだのだった。


「まあ、入れ方は全然ダメですけど」

「辛辣!」


 しばらく、アティシアは黙った授業を観察していた。


(本当に人に教えてる。あのお兄様が、それもみんな相当にレベルが高い)


 その中でアティシアの目に留まったのか。


「一番バランスがいいのはあの人かしら」

「え。ちょっと?」


 アティシアはベンチから立ち上がりこっちにやってきた。

 皆、手を止めて何事かとアティシアを見る。


「なんだ?」

「お兄様、その剣を貸して下さらないかしら?」

「模造剣だが?」

「構いません」


 アティシアは俺から模造剣を受け取ると、そのまままっすぐに歩いていく。

 その先にいるのは。


「あなた、わたしとお手合わせしてみませんか?」


 シルフィーに向かってアティシアは剣を突き出したのだった。

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