最強の技
千人隊長ヨーゼフの撃破により、カルドニアの士気は目に見えて下がってきた。
数は圧倒的に優位であるにも拘らず、敵の兵達には最初の頃の力強さが感じられない。
だが、それは今だけだ。
こちらが少人数で不利なのは変わらない。
まず体力面。しばらくはまだ持つだろうが、このまま戦い続ければいずれ力尽きる。
そして武器の耐久度。アドルフ、ステラ、シルフィーはどうやら予備の武器をいくつか持参しているようだが、それもいずれは使い物にならなくなるだろう。
クレアの大剣は少しなまくらになっても問題ないかもしれないが、セリスの鉄甲は攻撃を受け続ければどうなるかわからない。
シャルロッテは武器をそもそも持っていないが、かわりに魔力切れの心配がある。
昨日のように、俺一人撤退するようにはいかないだろう。一人か二人ならまだいいが、これだけの人数を担いで飛行魔法を使う訳にもいかない。
となると、やはり早々に決着をつけなくてはならない。
やはり使うしかないか。アレを。
でもなー。アレを使うのはかなり気が重いのだが。
そもそも人間相手に使う魔法ではない。
慎重に使わなくてはえらいことになる。
「アドルフ。しばらく任せるぞ」
「心得た!」
アドルフに声をかけてから俺は飛行魔法で飛んだ。
目指すは城壁の上だ。
「な、人が空を!」
「こんな魔法は聞いたことがないぞ」
飛んでいる俺を兵達は唖然としながら見送った。
昨日は煙幕で視界をくらませてから飛んだので誰も俺が飛んでいる所を見ていないのだ。
混乱の中、俺は城壁の上までやってきた。
上は上で大混乱していた。
「な、な、な・・・」
「よお」
とっさに口を開くことができない幕僚達に、俺は気安く声をかけた。
「大将自ら出陣とは痛み入るぜ。で、だ。俺や俺の教え子共の暗殺指示を出したのはやっぱりお前でいいんだよな?」
「ふ、ん! まさか、飛ぶこともできるとはな。どこまでも人間離れしている」
大将は足の震えを隠して強がりを言った。
「貴様は、自分がどういう存在なのかわかっていない」
「へぇ?」
「わからないだろう! 先の大戦。そして今回の襲撃。貴様一人の力がどれほどのものか。隣国にある我々がどれほどの脅威を感じているのか。全く理解していない。お前が! お前が弟子などを育てなければ、こんなことにはならなかったのだ。弟子が、お前が襲われたのも身から出たさび。すべてお前自身が招いたことだ!」
随分と勝手を言ってくれるな。
脅威と感じるのはお前らの勝手だろうに。
俺の力が周りの与える影響。まるで考えないわけじゃないが。
「ふん。知ったことか」
「き、貴様・・・」
「俺が生きて存在することが罪か? そんなもん、俺が周りに合わせてやる必要なんぞねーんだよ。いいか、てめえらが俺を全否定しようが知ったことじゃねー。この世界全ての人間が俺を否定したとしても、俺が俺自身を肯定する!」
それが俺の生き方だ。
誰にも文句は言わせない。
それに、下には俺を肯定してくれている連中もいることだしな。
それだけで十分だ。
「それよりも俺達の暗殺を命令したのはお前でいいんだよな?」
俺は大将を睨みつけた。
大将の表情を見て俺は確信する。こいつだ。
「言ったはずだ。貴様の存在は脅威だと。それを退けようとして何が悪い!」
こいつの言っていることは身勝手だが、一片の真実はあるだろう。
だが、それももはやどうでもいい。
俺は無造作に剣を振るう。
躊躇なく、容赦なく俺は大将を切り裂いた。
理由はどうあろうと俺や周りに手を出した奴を生かしておくほど俺は甘くはない。
もうこいつに興味はない。
殺すべくして殺した。それだけだ。
「ひ、ひぃいいいい!!」
他の幕僚達が慌てて逃げようとしている所を俺は静かに命令する。
「騒ぐな。逃げれば殺す」
俺の低い声は場を支配し、幕僚達の動きを封じた。
「ここで次に偉いのは誰だ。ああ、殺さないから安心しろ」
次にカルドニアで偉いのは中将なのか? よくわからんが偉そうな勲章をつけている奴を俺は睨む。
「お前か?」
「・・・アルバート中将だ」
アルバートと名乗る人物は中肉中背の中高年の男だった。若干声が震えている。
「お前に見せたいもんがある。これを見て、まだ喧嘩したいってんなら容赦しない」
俺はくるりと振り返り、ここからでも良く見える離れた何もない荒野に注目した。
「な、なにをするつもりだ!?」
「まあ見てろ」
俺は魔力を高め呪文を唱えた。そう、俺が呪文を唱えるのだ。これがいったいどういうことか、こいつらにはわからないだろうが。
「世界の統治者たる五大の王達よ。古の盟約に従い力を与えよ」
空に黒雲が立ち込め地が鳴動する。
「獄炎より出でよ火の王。大気より出でよ風の王。大地より出でよ地の王。大海より出でよ水の王。天空より出でよ雷の王」
ドドドドドドドドド!!
顕現した五大精霊王。
その一人一人が人間とは次元が違う位置に存在する超越者。
五つのエレメントが融合しあい全く別の超エネルギーが生まれようとしていた。
極大の魔力を俺の狙い定めた荒野の上空に集中させる。
「ぐ、くそ。久々に使うが、なんてエネルギーだ。制御も一苦労だぜ」
この魔法を使えばあの辺り一帯はもうしばらくは草木も生えることはないだろう。
荒野だから問題ないか?
「我が真実の名において降臨せよ。我名はステム・ラ・ムー!」
収束され、それでもなお巨大化してしまう、超エネルギー。
これ以上、巨大化する前に、撃つ!
「メギド!!」
荒野にすべてを浄化する破壊の光が投下された。
すさまじい光と音、そして後からビリビリと痺れる衝撃が伝わってくる。
かなり離れているはずだが、その衝撃で突風が吹き荒れ、腰を低くしないと飛ばされそうになる。
緩やかに光は収まり、きのこ雲が出来上がる。
しばらくは誰を反応できずに、茫然とその光景を見守っていた。
しばらくして、荒野を見ると、そこには何もなかった。
大きな都市が二、三個入るであろう広い荒野が一瞬にして焼け焦げ、巨大な窪みが出来上がった。
俺は振り返り、幕僚達を見る。
口を開けて何も言えない者。震えながら頭を抑える者。失禁している者さえいる。
中将に静かに話しかける。
「これでも手加減している」
「・・・・・・」
正確には制御が難しく、これ以上巨大化する前に撃ってしまったのだが、それは内緒だ。
中将はぱくぱくと口を開け閉めして何かを言おうとしているが結局何も言えていない。
「もしまだ俺達にちょっかいを出そうっていうならこれをお前らの首都に落とす。今から行ってやろうか?」
中将とその周りの幕僚達はへなへなと座り込み、首を横に振った。
今ここに俺とカルドニアで停戦がなされた。そう思っていいだろう。
正直これは使いたくなかったんだけどな。使うつもりも本当はなかったんだが。
これ以上長引かせるわけにはいかなかったし、仕方ないか。
あー、疲れた。




