アドルフ奮戦
要塞の城壁でスティーグの戦いを窺っていた大将ユリウスら幕僚達に動揺が広がった。
「なんだ、あの者達は? ここにきて援軍だと・・・」
幕僚の一人が呟く。
しかし、どうにも妙なのはその数だ。スティーグの周りには数名しかいない。
いったいどういうことなのか?
「おそらくは、あれがスティーグの弟子なのだろう」
確証はないが、風貌が調査報告書と酷似している。
ユリウスはほぼ確信した。
なぜ今になって合流したのかはわからないが、手強い援軍である。
だが、スティーグに比べれば圧倒的に劣る戦力だ。
むしろ、仲間を意識するあまり、スティーグに隙が生まれる可能性もある。
「方針は変わらん。囲んで攻めたてよ。数はまだまだこちらが圧倒的に有利なのだ」
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「スティーグのようなデタラメは我々にはできない。二人一組で確実にして仕留めていけ!」
『はい!』
アドルフの指示でシルフィーとクレア。ステラとセリス。シャルロッテとアドルフで二人組になり、簡単な陣形を作った。
俺が前衛で戦い、左右の敵をこいつらに任せた。
こいつらの使っている武器は普通の武器だ。
ダーウィンスレイブのように敵を斬ることはできない。
それだけで戦い方はかなり変わる。
厳しい戦いになりそうだった。
「はああ!」
クレアの大剣の一振りで複数の兵が吹き飛ぶ。やはり、一対一の戦いよりもあの大剣はこういった戦場で生きるのかもしれない。
シルフィーはそのしなやかな動きで槍を躱し、細身の剣で敵を確実に切っていく。
この二人は問題なくやれている。
問題は、下級生の二人。
ステラはダガー。セリスに至っては鉄甲が武器だ。槍と戦うにはリーチが違いすぎる。
「てりゃー。せぃ!!」
ステラはダガーで槍を捌き、何とか懐に潜り込む。だが、横から別の兵がステラを狙う。
「ステラ。危ない!」
セリスがステラを狙っていた兵の足を蹴りで払い、止めの拳を叩き込んだ。
「大丈夫?」
「セリス、さんきゅー」
連携はずっと訓練を積んできた。この分なら問題ないだろう。
「炎よ!」
ゴォォーーーーーーーーーー!!
シャルロッテの魔法が横から迫る敵を焼き払った。
ぶっちゃけると手加減していた俺の魔法よりも、シャルロッテの魔法の方がよほど殺傷能力が高い。
シャルロッテが仕留めそこなった兵はアドルフが確実に仕留めていった。さすが、エルベキア軍最強の男だ。
すると、アドルフの前に、かなり大柄な男が突進してきた。
「む!」
その男が待っている獲物は通常の槍よりもかなり太かった。
男はアドルフの前で止まり構える。
こいつ、かなりできる。
「エルベキア軍千人隊長アドルフ殿とお見受けする!」
「いかにも!」
「俺はカルドニア千人隊長ヨーゼフ。貴殿と立ち合いたい!」
「望むところ!」
アドルフはシャルロッテの方を振り向く。
「しばらく離れるが、大丈夫かな?」
「はい、先生。ご存分に」
シャルロッテが呪文を唱える。
「雷球よ。いでよ!」
シャルロッテの呼び出した雷球がシャルロッテに近づく者を容赦なく焼き焦がす。
しばらくは一人でも大丈夫だろう。
アドルフは頷いて、ヨーゼフと相対した。
「ふん。先生か。エルベキアにその人ありと言われた貴殿が、まさか、学生の子守とはな」
「これがなかなか悪くない。貴殿にはわからんだろうがな」
「ふん。ぬかせぇ!」
ヨーゼフはその太い槍を突き出し、突進してきた。
並みの兵達ならば蹴散らしてどこまでも突き進む必殺の突進突き。だが――
ガキーーーン!
なんと、アドルフはそれを剣で押し止めた。
「な、なんだと!!」
「軽いな、軽い」
ヨーゼフは驚愕する。たった一人でこの突進を止められたことが相当にショックだったらしい。
それにしてもアドルフのあのみなぎる力は命力だ。
あいつには教えたわけではなかったが、生徒達を見て独自に訓練していたのだろう。
さすがだ。
「私を突進で吹き飛ばしたいならば、あの時のスティーグ並みの突進を繰り出さなくてはな!!」
俺と最初に戦った時のことを言っているのだろう。ヨーゼフにはなんのことか分からないだろうが。
ヨーゼフの槍を弾き、間合いを詰める。渾身の上段からの振り下ろしがヨーゼフを切り裂いた。
「ぐぎゃーーーーー!!」
ヨーゼフは断末魔の叫びをあげて崩れ落ちる。
今まさにエルベキア軍最強の男がその実力を証明した。




