カルドニア本気出した
「壊滅・・・連隊が、壊滅」
カルドニア公国謁見の間にて、大将ユリウス並びに幕僚達。そして、玉座にはカルドニア公が腰を下ろしている中で、クギュール砦での報告がなされた。
幕僚達が顔色を真っ青にしていたが、一人、カルドニア公だけは事の重大さがわかっていなかった。
そもそもたった一人が連隊を壊滅させるなど可能なのだろうか?
何らかの報告ミスと言われた方がよほど納得がいく。
「それは真なのか? 皆で余を謀っているのではあるまいな?」
「滅相もございません。我々は魔人スティーグと数時間にわたり交戦いたしましたが、力及ばず、砦も半壊いたしました」
「真なのか? 本当に・・・」
本当にそんなデタラメができる人間がいるのか? いや、本当にそれは人間なのか?
「なぜこんなことになったのだ。そもそもその男は何が狙いだ? 我が国を滅ぼそうとでもいうのか」
大将ユリウスと横に控えている中将アルバートは沈黙する。
スティーグを暗殺しようとし、それが失敗したことを二人はカルドニア公に報告していない。
このことを知っているのはこの二人の他は今となっては直属の密偵のみ。この秘密は墓場まで持っていくつもりでいた。
だからこそ、スティーグにこれ以上好き勝手させる訳にはいかない。
大体暗殺に失敗したとして、その報復に国を相手に戦争を仕掛ける個人がいるなどと誰が言えるものか。
「畏れながら陛下。彼奴の狙いは分かりかねますが、このままでは我が国始まって以来の危機にございますれば、なんとしても彼奴の進行を阻止し、我が国に平和を取り戻したく」
ユリウスはしれっとそう言った。
「う、うむ。それで策はあるのか?」
カルドニア公はけして愚王ではなかったが、この隣国との緊張状態に生まれてくるにはいささか頼りない人格であった事は否めない。
軍事の事に関しては、ほとんど大将ユリウスに丸投げしていた。
「コリムンダル要塞。我が国最大の要所にございます。ここを最終防衛ラインと定め、全兵力を集中し、彼奴を叩きます」
「全? 全とは文字通りの意味でか?」
「御意にございます。公直轄の近衛部隊を残した全てです」
謁見の間がざわついた。
それはあまりにも異常な発言だった。
幕僚の一人が問いただす。
「わ、我軍は総勢で七万に上りましょう。それをたった一人に向けるおつもりか?」
それに対し、ユリウスは確固たる意志を持って応える。
「いい加減常識を捨てよ。一日、たった一日で連隊が壊滅したのだぞ。そんなことをたった一人でやりおおせた者など、もはや常識で測れる範疇にはない。それにコリムンダル要塞を抜ければ、この都までは目と鼻の先。もはや彼奴を阻む手立てはないのだ」
事ここに至ってカルドニア公はこの異常事態を肌で感じ始め、思わず背筋が震えた。
「本気なのか。本気で七万の兵をたった一人にぶつけるつもりか?」
「後に私の名はたった一人の男に恐れをなした愚将として笑われることになるかもしれません。しかし、ここでなんとしても彼奴を叩かなくてはならないのです。陛下、どうか御許可を!」
「・・・相わかった。好きにするがいい」
「御意に」
すでに各地に配置している兵達は先んじて早馬を飛ばし、緊急招集をかけている。
スティーグがコリムンダル要塞を回避し、この都までやってくることは可能だろうが、これまでの行動から、間違いなく正面からコリムンダル要塞に現れるとユリウスは踏んだ。
「ご安心成なされませ陛下。私自らが指揮を執り、必ずや魔人の首を取って参ります!」
「うむ。期待しているぞ」
幕僚達を引きつれ、ユリウスは戦支度を始めるべく、謁見の間を後にした。
「これまでのようにはいかんぞスティーグ。我が国の真の力みせてくれるわ」




