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クギュール砦の戦い二

 再び砦の前に戻った俺はさらに激しく剣を振るい戦った。

 何しろ数が多い。斬っても斬っても次々を俺に襲い掛かってくる。

 それでも俺は止まらない。時にジグザグに時に空中でコマのように回りながら、敵兵を困惑させ、なるべく一か所に止まることなく足を動かし続けながら戦った。


「ひ、怯むなー。突貫。突貫しろー!」


 指揮官が指示を飛ばす。

 しかし、兵達も人間だ。怯むなと言われて本当に怯む事無く動けるわけじゃない。

 これだけ攻め続けても人間一人を倒せないのではそれも当たり前だ。

 『前に出れば斬られる』そんな幻想に囚われても仕方がない。

 そして、あいにくと戸惑っている相手に合わせてやるほど俺も甘くはない。


「はぁ!」


 広範囲だが威力の低い魔法を叩き込む。固まっていればどうなるか体で教育してやる。

 しかし、相手を確実に殺傷することなく攻撃するのは、急所を狙い続けるのと同じくらい難しい。適当に斬っていては多くの場合致命傷になってしまうのだから、剣も魔法もかなり気を使っている。

 だが、逆にそれをいいことに手傷を負っても怯まずに戦場を離脱することなく攻撃を加えてくる猛者も中には存在した。そんな奴は無理にでも気絶させるしかなかった。

 言ってしまえばこいつらは国と俺との間に巻き込まれた犠牲者なのだから、無駄に死なすことは躊躇われる。それでも俺はこの方針を変えるつもりはなかった。


「こ、こちらも魔法を使え!」

「だ、だめです。これだけ乱戦になってしまっては味方の兵にも被害が!」

「く、くそ。たった一人にこれだけ苦戦を強いられるとは・・・」


 相手にもいい加減心の乱れが出てきたようだ。

 統一されていた動きがバラバラになってきた。もう少しだな。



 更に戦い続けることしばし。


「ば、バケモノめ」


 兵達はかなり数を減らしていた。

 逆におそらくであるが、砦の中の救護室は兵達で溢れているだろう。一撃で致命傷を与えた兵は一人もいないのだから。

 ここまでくれば俺が積極的に兵を傷つけたくないという意志が伝わっただろう。

 兵達の動きが鈍い。『前に出れば斬られる』という幻想が万遍なく兵達に伝染しているようだ。

 俺はここで兵達に魔法の言葉を使うことにした。


「逃げれば追わない」


 ざわ。

 戦場の緊迫感からまた違った空気が伝染していく。


「お前らもいい加減気付いているだろう。俺がなるべくお前らを殺さないように戦っていることに」


 兵達は顔を見合わせる。

 確かにその通りだが、何故敵である俺がそんな配慮をするのかがわからないといった顔だ。

 面倒なこっちの事情があるんだよ。


「前に出れば斬る」


 俺は一人、明らかに逃げ腰になっている奴に凄んで見せた。案の定――


「う、うわーーーー!!」


 その兵は逃げ出した。そして、一人の兵が逃げれば他の逃げ腰の兵達も後に続く。


「に、逃げろ逃げろ。こんな化け物に敵うはずねぇ!」

「こいつを相手にするならドラゴンと戦った方がまだましだ!」


 数人が逃げれば、多くの兵がその後に続く。これが集団心理というものだ。


「き、貴様ら逃げるなー!」


 指揮官がげきを飛ばすが一度動き出した集団は止まらない。

 多くの兵達が逃げて行ってしまった。

 だが、それでも残って武器を握る勇猛な兵もいる。こいつらこれだけでもう勇者だろ。

 ここで踏みとどまる兵を説得するには時間がかかるな。

 おお、そうだ。ここでぴったりの呪文があるじゃん。


「てめえら。地に伏せ!」


 俺は拳を振り上げると大地に叩きつけると同時に、それは発動した。

 兵達が上から何かに押さえつけられるように地に頭をこすり付けた。

 重力魔法。普段は生徒達に体に負荷をかけるために使っている魔法だが、鎧を着こんだ兵達には堪らないだろう。


「か、体が、動かん」

「何があったんだ」

「く、くそー。動け、動け~!」


 これで兵は無力化したな。

 俺は呆気にとられている指揮官の方を向く。


「まだやるか?」

「・・・」

「これ以上無駄に兵を戦わせようとするならテメエは無能だ」

「・・・降伏、する」


 よし。俺は重力魔法を解いてさっさとこの砦を後にしようとしたのだが。


 バキガラガラ。


「あ?」


 先ほど使った重力魔法の影響で砦の一部が何やら音を立てている。おいおいマジか?


「と、砦が崩れるぞ!」

「う、うわー!!」


 今ここで砦が崩れたら下にいる連中にシャレにならん被害がでる。くっそ。

 俺は先ほど使った重力魔法を応用し反重力魔法を展開させる。

 落ちてくる瓦礫が宙に浮き倒壊を緩やかに止めた。


「こ、これって」

「おいバカ。呆けてないでさっさとそこから移動しろ!」

「ひぃ!」


 俺が怒鳴りつけると下にいた兵達が速やかにそこから移動した。それを確認すると俺は魔法を解く。

 先ほどまで緩やかに落下していた瓦礫が再び音を立てて激しく地面に落下した。

 もし俺がとっさに魔法を使わなければ、俺が戦って傷つけた兵よりも多くの被害が出ただろう。


「お、お前は、いったい・・・」


 一人の兵が俺に問いかける。


「ふん」


 まあ、砦も壊れたし、成果は上々だろう。

 俺はクギュール砦を後にした。

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