教師への誘い
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ありがたいです。
よろしくお願いしますね。
教師にならないか?
モノクルの男ベネデットはそう言った。
俺が教師? そんなもの――
「無理に決まってるじゃないですかそんなこと!」
答えたのは俺ではなく、ミラだった。おい・・・
「こいつが人を教えるのに向いていると思います? 絶対無理です。生徒たちの人格が歪むわ。将来有望な未来ある子供達の人生の芽を摘むつもりですか!?」
いや待て。そこまで言うことはないだろう。俺だってやろうと思えばできなくは・・・
いやいや、やりたいわけじゃないんだが。
今度はベネデットが口を開く。
「確かにスティーグさんの人格に多大な問題があるのは事実です」
「おい待てこら」
「しかしです。確かミラさんとおっしゃいましたか?」
「は、はい。そうです」
「仮に、仮にです。スティーグさんが戦場に出れば、幾百、幾千の死者がスティーグさんの手にかかって出ることになるのですよ」
「あっ」
こいつ・・・
「無論。戦場においてはそれは多大な貢献ですが、それをあなたは望みますか? これは私の思いつきなのかもしれない。ですが、私にはあなたがそれを望んではいないように思えるのですが」
「・・・・・・」
この野郎。ミラに焦点を当ててきやがった。俺では話にならないと思ったのか、まず、俺と対等に話しているミラから落としにかかってきた。やはりこいつは食わせ物だ。
「その点、教師になればその心配はありませんよ。なんといっても相手にするのは生徒なのですから」
「・・・確かに、それはそうですけど」
「それにスティーグさん。私は何もあなたに一つのクラスをすべて任せる気はありませんよ。座学も教えられることがあれば別ですが、基本は結構です。そんな事をしては、その、生徒達の人格に、いえ、なんでもありませんが」
言いたいことはハッキリ言いやがれ。眉間がぴくぴくしちゃうぜ?
「あなたには自ら選抜して頂く、ごく数人の生徒達に実践教育を施していただきたいのです」
「実践教育だぁ?」
「そうです。無論その生徒達には他の生徒達と同じように他の授業も受けてもらいます。スティーグさんとその生徒達は、そう。放課後の部活動、とでも考えていただければよいかと」
確かにそれなら俺の拘束時間も長くならなくて済むが。
「もちろん給金のほうは他の教師たちと同様。いえ、それに色を付けてお渡しします」
ベネデットは財務大臣の顔を見た。大臣も教師達の給料に色がつく程度なら問題ないと思ったのか、頷く。
さらに給料も出るか。しかしなぁ。
「やろうよスティーグ」
ミラがあちらに付いてしまった。ええい、すぐに言葉に乗せられおって。
教師になるのはやぶさかではない。
まあ、暇だしな。
午後の数時間くらい時間を取られてもいいだろう。
しかし、大きな問題があるのだ。
「正直、スティーグにはもう戦場には出てほしくないし、かといっていくらお金があるからって、ずっとグータラしてるのもどうかと思うの。男はやっぱり働いてる時が一番輝くんだから」
俺はガシガシ頭をかいた。すっかり感化されてやがる。
「お前。ベネデットって言ったか?」
「はい」
ニコニコ笑いやがって、気味が悪い奴だぜ。
「方針は俺に任せてもらえるのか?」
「はい。それはお任せします」
「いつからだ?」
「引き受けていただけるので?」
「いくつか条件がある」
俺はいくつか条件を出した。
条件の中でいくつか抜粋すると。
その学園はここからかなり離れているようなので、当然引越しが必要だ。その経費などはそっちで持ってもらう。
ミラも連れて行く。授業の時も傍にいてもらう。
教える人間の人選や人数はすべて俺の任せてもらう。
放課後の授業と言ったが、内容によっては時間帯をずらしてもらう。その時は他の授業よりもこちらを優先してもらう。
野外での移動教室なども視野に入れてもらう。等々。
「それとな、そこで伸びてるアドルフだっけ? 俺の下僕として使うから」
「は? げ、下僕。なぜそんなことに」
「さっき賭けした時に言ってただろうが。負けた時は何でも言うこと聞くってな」
「な!! それは。しかし」
お三方はさすがにそれは受け入れられないとあたふたし始めた。
アドルフは若手の星。軍の中での実力者だ。抜けられるのは大いに困るとのこと。
だが、だからこそ使えるのだ。
俺が強すぎて見本になれない時。こいつならばうってつけだ。
「いいじゃねーか。その面で戻れば俺にボコボコにされたって噂はすぐに広まるぜ? 軍の中での『武の象徴』的ポジションもそれじゃあ役に立たないだろ」
元帥らの顔が引きつる。イケメン面を変えてやろうと思っただけだが、思わぬところで役に立った。
「・・・本人がこの状態ですから。この件は回復してから、もう一度話し合わせていただきたい」
「いいぜ。まあ、本人が嫌だって言えばこの話自体流れるからな」
ニコニコ笑いのベネデットの額に汗がたらりと垂れるのを俺は見逃さなかった。