表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/520

スティーグ絶体絶命

 シャルロッテの姿から変化した暗殺者はニタニタと笑いながら、圧倒的上から視線を俺に浴びせた。


「お、まえ、シャルロッテは、どう、した?」

「はん。魔人はお優しいね。今の自分よりも弟子の心配かい? 安心していいよ。あんたの弟子は今頃野山を駆け回っているさ」


 敵の言うことだ。100%信用することはできないが、一先ず俺は胸をなで下ろした。


「そっちこそお優しいな。もう生徒の暗殺は止めたのか?」

「もうね、今日の訓練を観て思ったよ。あいつらは強い。

そりゃ学生とは思えない強ささ。だが、隔絶とした力はない。今ならいつでも殺せる。なら、やっぱり本命から殺すことにするよ」

「なる、ほど、な」

「魔人スティーグも弟子には甘いんだね。あっさりと毒を飲んでくれたよ」


 不覚にも毒を飲んで、今の俺は体が思うように動かない。

 いや、これもう本当に不覚。

 普段の俺ならば絶対に気が付いたはずなのに。

 これは反省だな。

 俺には解毒の加護があり、外部からの毒は完全に無効化するが、経口摂取した毒はその限りではない。それでも大分緩和されているはずなのだが、かなり強力な毒を盛られたらしい。


「しっかし、噂通りの化け物だねあんた。この毒は大型モンスターでもしばらくは動けなくなるほどの強力なしびれ薬なのにさ。まだ動けるのかい?」

「そんな、毒を、人様に盛るんじゃ、ねーよ」

「は! あんたが人間なんてにカテゴリーされているわけないじゃないのさ」


 ひでー言われようだなおい。


「暗殺者は名乗らないのが当然だけどね。あんたには名乗っておこう。あたしの名はエリザベート」


 俺はこの時初めて、暗殺者の姿を観察した。

 先ほどのシャルロッテの姿とは似ても似つかない。まだら模様の禍々しい衣装に身を包み、腰にはいくつもの武器らしきものがぶら下がっていた。

 目立つ。

 めっちゃ目立つ。

 なにこの自己主張強い暗殺者。


「珍しいな。名乗る、暗殺者なんて、よ」

「あんたには聞きたいことがある。妹を、イザベラをどこへやった?」

「妹?」


 誰の事だ?


「少し前にお前の弟子を殺そうとしたやつがいたはずだ。どこにやった!」

「ああ、お前、あいつの、姉か」


 姉妹揃って暗殺者かよ。殺伐とした家族環境だなおい。


「か、返り討ちに、してやった、ぜ」


 俺は痺れて思うように動かない、舌をだし、中指をおっ立てた。


「やっぱり、あんたが!」


 暗殺者、エリザベートは投げナイフを数本投擲した。

 いつもなら鼻歌交じりに対処できるのだが、今は体が動かない。

 俺は無理に力を入れ、大きく横に飛んだ。そのまま地面に転がり何とか回避する。


「はは! 土にまみれて、なんて情けない姿なんだい。最強の魔人スティーグともあろう者が」

「そう、思うなら、解毒剤を、渡し、やがれ」

「残念だね。あんたと交渉なんぞするつもりなんて、はなからないからそんなのは持ってきていないよ」


 おいおい、ウソかホントかわからんが、これじゃあ、こいつから奪うって選択肢はなくなったか?

 まあ、もし、妹の仇だってんなら無理もないか。


「さい、しょに、手を出したのは、そっち、だぜ?」

「黙れ!」


 逆恨みでもなんでも敵であることに変わりないか。まあ、元々暗殺対象なんだから、そんなものはないだろうが。


「さっきのは、魔法、か?」


 俺が尋ねるとエリザベートは愉悦の笑みを浮かべる。


「くくく、さすがのあんたも知らないだろう。そうさ、これはあたしが独自に開発したオリジナルの変身魔法さ」


 やはり、魔法だったのか。

 だが、変身魔法なぞ、聞いたことがない。

 魔法は火、水、土、風と雷(光)、そして魔族しか使えない闇の六大属性といわれている。こいつの魔法はどこにカテゴライズされる? 光の屈折か? 土の粘土を加工したのか? それとも非常に希少な特殊系といわれる魔法か? 毒で頭が回らんが、とんでもない魔法を開発しやがった。


「驚いただろう。この魔法は暗殺に最も適した魔法なのさ」


 俺も知らない魔法か。

 奇妙と思いながらも、化けたシャルロッテがくれた飲食物を口にしたのは全く予測が出来なかった所が大きい。

 誰にでも変身できる。男なら一度は夢見る魔法だな。

 しかし、その用途はそんな男の妄想の対象だけではなく、こいつの言う通り暗殺に適している。

 今回のようにターゲットの近しい者に成りすますことも容易だ。

 いや、もっと恐ろしい方法としてはその国のトップに成りすまし、国を意のままに動かすこともできる。そうでなくとも、もし、この変身魔法なんてモノの存在が流布された日には、世界中が疑心暗鬼に陥り、大混乱を引き起こすことになる。

 こいつがそこまで考えて、この魔法を開発したのかは知らないが。


「その、魔法、を、使えるのは、お前だけ、か?」

「教える義理はないね」


 そりゃそーだ。

 だが、俺の質問に対し、こいつは自分への誇りと愉悦の笑みを浮かべるのを俺は見逃さなかった。

 おそらくカルドニアでも使えるのはこいつ一人。

 ならば、なんとしてもこいつはここで始末する。

 体調は絶賛絶不調だ。

 武器は訓練用に持っていた刃のない模造剣。

 ハッキリ言っていい具合に絶体絶命だが、やるしかない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ