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クレアに迫る刺客

 最後の訓練の翌日、クレアは母親の実家にやってきていた。

 学園のある街から約一日、馬車で揺られてようやくついた田舎の村である。

 特に何の変哲もない村ではあるが、クレアはこの村が好きであった。

 村から少し離れた場所には大きな湖と草原があり、この時期でもわずかに咲く冬の花を見ることができる。

 一日目は久しぶりに会った祖母と話に花を咲かせた。

 自分が特別クラスという特殊な教室に入ったこと。

 そこで不真面目でいい加減で、それども時々優しい先生に教えてもらっていることなど。

 祖母はそれを楽しそうに聞いていた。

 こうした何気ない日常がクレアは大好きだった。


*********

 

 暗殺者はじっとクレアを観察していた。

 何故あのような小娘を暗殺しなければならないのだろう。

 だが、命令は絶対。

 これまでも多くの人間を始末してきた。

 あの女も確実に始末する。

 だが、今は人目がある。

 無論、こんな寂れた村の住人など何人相手だろうと遅れをとったりはしないが、暗殺という性質上、目撃者は少ないに越したことはない。

 いつか一人になる時が来る。

 暗殺者は静かにその時を待つ。


*********

 母親の実家に来て二日目、クレアは一人、この草原に向かうことにした。


「それじゃあ、お母さん行ってきます」

「気を付けて行ってね」

「本当に一人で行くのかい? 魔物はいないと思うけれど、獣はいるかもしれないよ?」


 祖母が心配してクレアを引き留めようとした。


「大丈夫よ、お母さん。クレアは学園に通ってものすごく強くなったのよ」

「あのクレアがね~」

「大丈夫よおばあちゃん。念のために剣も持っていくから」


 クレアは年頃の女子には不釣り合いな剣を持ち上げて笑って見せ、祖母は目を丸くした。




******


 クレアは草原に訪れ、花摘を楽しんでいた。

 湖の水は澄んでいて水面≪みなも≫には水鳥が気持ちよさそうに泳いでいる。

 少々冷えるが、日は照っていてクレアを優しく温めてくれた。


「空気がおいしい」


 やはり、王都とは空気が違う。

 とても澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んで、クレアは気力を充実させていた。

 と、人が近づいてくる気配を感じた。

 村の人だろうか? 一瞬そう思ったが次の瞬間、戦士としてのクレアの脳が危険信号を発した。


「あ!」


 何かが足に絡みつこうとした。

 クレアは反射的に跳び上がり回避を試みるが、バチンと何かに当たり躓いてしまった。

 足を見ると皮が捲れ血が出ている。


「な、なにが?」


 クレアはすぐに剣を取り、やって来た人物を見た。。


「あっはっはー。惜しい。ちょっと擦りむいた程度じゃん?」


 クレアはその人物に目を向け、思わず絶句する。

 それはこの草原にはひどく不釣り合いな人物だった。

 その人物の姿は黒ずくめだった。目だけはひどくギラギラしていて、こちらを睨んでいるが、どこかこちらを馬鹿にしているように見えた。

 身長はあるが、声からしておそらく女性。二十代から三十代前半といったところか。

 右手には長い鞭を握りしめていた。


「・・・あなたは誰ですか? 突然何をするんです!」

「あっはは。この期に及んで、ずいぶんのんびりした質問じゃないか。お嬢ちゃん」


 ピシャン! と、鞭を地面に叩きつけ、黒ずくめの女性は鼻で笑う。


「まあ、あたしが何者なんてのは関係ないね。あたしがあんたにすることは一つ。あんたを殺す」


 黒ずくめの女性から殺気が放たれる。クレアは思わず身をすくませた。


(この人はいったい何? 何故あたしを襲うの・・・)


 突然のことで頭が追い付かない。自分は先ほどまで花を摘んでいたのだ。

 それが突然の襲撃者に今、命を狙われている。


「待って。あなたは誰かと勘違いをしているんじゃないですか? あたしはクレア、バレンティア学園に通うただの学生です」

「ああ、知っているさ。『特別クラス』の学生だろう?」

「!?」


 自分のことを知っている。クレアは衝撃を受けた。

 と、いうことはこの襲撃者は自分の素性を知り、間違いなく自分を標的にしている。


「何故、あたしを?」

「あー、ぐだぐだと煩いね。もういいだろう。さっさと死んでしまえ!」


 女の鞭が唸りを上げる。

 クレアはとっさに大剣で鞭を弾いた。いったい何の素材でできているのか、鞭は切れずに傷もついていないようだ。

 先ほどはかすった程度で済んだが、あんなのをまともに食らったらただでは済まない。


「やるじゃないか。なるほど。確かにただの学生じゃなさそうだ」

「舐めないでください。あなたが何者か知りませんが、怪我をしたくなければ引きなさい」

「っ! 調子に乗るんじゃないよ小娘が!!」


 鞭が再び唸りを上げる。

 クレアは鞭を弾き、間合いを詰めようとするが、攻撃が激しくなかなか思うようにはいかない。

 変幻自在に繰り出される鞭に翻弄され、致命傷ではないが、浅い傷が増えていく。

 そもそも、騎士を目指す者が多いバレンティア学園では基本は剣を使う生徒が圧倒的に多い。

 鞭使いと戦う機会がこれまでなかったため、経験が圧倒的に不足している。

 加えて、殺気を纏って本気で殺しに来る人間と相対するのもクレアは初めてだ。

 更に加えて突然の予期せぬ襲撃。

 頭が追い付かない。

 初めて尽くしの事ばかりで気持ちを落ち着ける余裕がない。


(どうすれば、先生・・・)

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