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それぞれの休暇。忍び寄る影。

 終業式も滞りなく終わり、長期休みに入って数日。

 久々に特別クラスの面々は特別クラスの闘技場に集まっていた。

 俺は休み中は自主訓練でいいと言ったのだが、生徒達は納得しなかった。

 たまには皆で集まって訓練がしたいというので、今日特別授業を開き、五人をしごいていた。

 皆、体のキレは変わっていない。自主訓練をしっかりやっていた証拠だ。

 午前中で訓練を終え、解散という運びになったのだが、軽くお茶をすることになったので、自慢の葉をミラに出すように頼んだ。


「前々から思っていたのですけど、スティーグ先生はお茶に大変お詳しいですよね?」


 名門貴族の出であり、いつも良いものを口に入れているシャルロッテが俺に尋ねた。


「詳しいかどうかはわからないが、飲んでみて気に入ったお茶は覚えているぞ」

「舌が確かなのですね。以前ご馳走になったお肉も絶品でしたし」


 これはシルフィーだ。こいつを今度牧場に連れて行くときは覚悟せねばなるまい。


「ところで、先生はこのお休みに何か予定があるのですか?」


 シャルロッテが俺に尋ねてきた。


「特に予定はないな」


 学園で働き始める前は街にお茶を飲みに行ったり、体を動かしたり、図書館で本を読んだりしてぶらぶらすることがほとんどだった。この数日はそれを思い出して、同じようにぶらぶらするつもりでいた。


「あたしは母の実家へ里帰りする予定なんです。ここから馬車で一日くらいのところにあるんですけど、とっても自然が綺麗なところなんですよ」


 クレアが嬉しそうに話して聞かせた。


「馬車はどうしますの?」

「父のつてで行商の方に乗せて行ってもらうつもり」

「まあ、言ってくだされば、わたくしの家の馬車をお貸ししましたのに」

「それはさすがに悪いよ」


 シャルロッテは親身になってクレアに話しかけているが、友人であろうと母親の実家に行くのに、馬車まで借りるわけにはいかないとクレアは話した。


「お土産期待してますんで」


 ステラがきししと笑いながら話に割って入った。


「うーん。特に特産とかなかったと思うんだけど」

「ステラ、図々しい」

「ええ、いいじゃん~」


 ステラとセリスがいつもの掛け合いを始めた。


「ふん、どこに行こうと構わないが、体を鈍らせないようにしておけよ」

「わかっています」


 真面目なクレアには必要のない助言だっただろうが、一応念を押しておく。


「いつ出発するの?」

「明日ですよ」

「あら、そうだったのね」


 ミラが頬に手を当てる。


「じゃあ、もう準備は万端?」

「はい。もう荷物はまとめてあるんです」


 それを聞いて安心した。こいつの性格だと準備が整ってなくても、特別授業に参加しそうだったからな。


「いいなー。あたしもどこかに行きたいなー。セリスは予定ある?」

「特にない。聖夜際も終わったから」


 聖夜際というのは教会の聖人がなくなった日に開かれる厳かな祭りだ。

 協会が実家であるセリスはきっと聖夜際の時は忙しかっただろう。


「スティーグ先生は聖夜際の時はどうしていたんですか?」


 ガタ。


 シルフィーの質問に場の空気がなんとなく変わったのを俺は感じた。


「どうしてたかって?」

「おほん。ですから、聖夜際の時は家族がいなければ、その、恋人と過ごすことがあると、おほん、最近の風習としてあると噂で聞いたことがありますので。噂で」


 何故が、シルフィーは何度も咳払いをしながら、俺に迫るように聞いてきた。

 何故か、他の奴らも俺に視線を釘づけてしている。

 気付けばアドルフがいない。あいつはこういう空気になると姿をくらませるのがうまい。

 しかし、たまに放つ女子共のこの視線、空気。百戦錬磨の俺でも思わず身じろぐこの緊張感はいったいなんだ?


「いや、一人でいたが? 俺が聖夜を粛々と祝うとでも?」


 ほ~~。皆、何故かほっとしたようにため息をついた。


(そう。先生はフリーでいたんだね)

(しまりましたわ。こんなことなら、我が家のパーティーに誘えば、はっ、それですと両親にスティーグ先生を紹介することに・・・)

(そ、それはまだ気が早いのではないか?)

(この時期、恋人になる人って多いって聞きますよ?)

(みんな、抜け駆けは許さない)

(おほん。みんな、スティーグに何かするつもりなら、あたしを通してもらおうかしら)


 何を話しているんだ。女子連中は、ミラまで・・・

 一つ言えるのは関わり合いになりたくないということだな。

 俺はこのよくわからない空気を換えるために他の奴らの予定を聞いて回った。

 クレア以外はこの街を出ることはなく、休みをゆっくりと過ごすということだった。

 今日の特別授業はこうして和やかに終了した。

 この時はクレアの身に起こることを誰も予想をしていなかったのである。

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