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猫とセリス

 あたしはセリス、ついこの間16歳の誕生日を迎えたばかり。

 今日はセカンドシーズンの終業式。

 朝練も今日はお休み。

 最近はぐっと寒くなってきてベットから起きるのがとても辛い。

 我慢してぐっと起き上がる。

 お母さんの美味しいご飯を食べて、やさしいお父さんとお母さんに挨拶を済ませるとあたしは学園に向けて登校した。

 あたしの家は教会だけれど、その立場は少々特殊だ。

 冒険者達を積極的に支援して、加護を授けたり、怪我をした人を看護したり、亡くなった人を弔ったりしている。普通の教会はあまりこういうことはしない。

 ずっとそんなお父さんとお母さんを見てきたあたしは自然と冒険者になろうと子供のころから決めていた。


 さて、いつも無口なあたしだけれど、頭の中ではこうしてぐるぐる活発に動いて色々考えている。

 学園にいつも通う通学路であたしはある問題に衝突した。

 あたしの中の脳細胞がぐぐっと活性化し、解決策を導き出そうとするけれど、答えは出ない。


「な~・・・」


 猫である。

 子猫である。

 子猫が木に上ったはいいけど、降りられなくなったみたいでずっと動かないで鳴いている。

 助けてあげたいけれど、困ったことにあたしは今スカートなのだ。

 普段あたしはぼーっとしているとよく言われるけれど、これでも女子としての恥じらいは持ち合わせている。

 いつ人が来るかわからない往来で木に登ったり、ジャンプしたりする様な真似はちょっとできない。

 誰かこないかな? あたしはきょろきょろ辺りを見渡していると、とても意外な人物が前からやってきた。


「先生・・・」


 スティーグ先生である。

 なんで、スティーグ先生がこんなところに?

 普段は無精で朝は結構ゆっくりしていると言っていたのに。

 そういえば、以前、たまに気が向いた時にお散歩をすると言っていた。そう、確か以前シャルロッテせんぱいと偶然、朝鉢合わせしてそのままお姫様抱っこで登校したのは語り草だ。

 もしかしたらまた気まぐれスキルが発動したのかもしれない。


「よう。セリスじゃねーか。今から登校か?」


 先生も気がついてあたしに声をかけてきた。あたしはこくりと頷いて答える。

 頭の中では色々考えているのに言葉に出して伝えることがうまくできない。

 そうだ。先生に猫を助けてもらおう。

 あたしは木を指差した。


「なんだ。木登りでもするのか?」


 ちがうんです。そんなわけないでしょう。今あたしはスカートなんです。

 あたしはより正確に木の枝で固まっている猫を指差した。


「ん? ああ、猫か。猫を見てたのか。女って猫好きな奴多いよな」


 スティーグ先生も何気なく子猫さんを見ている。

 話が途切れてしまった。

 だから違うんです先生!


「猫。降りられない」

「あ?」

「助けて」


 ここで先生はようやくあたしの意図を理解したらしい。あたしと猫を交互に見つめて頷いた。


「猫鍋にして食うのか?」


 あたしは思わずずっこけた。

 何がどうしてそうなった!? そもそも猫鍋とはかわいい猫ちゃんを鍋に入れて愛でる行為であって、ほんとに食べるわけじゃない。この人は本当にやりそう。

 ・・・まさか、本当にやってないよね?


「ち、ちがう。猫さんは木に登って降りられなくなったみたい。助けてほしい」


 あたしは一気にまくし立てた。先生はようやく理解したみたいだ。


「木に登ればいいんじゃねーの?」

「スカートだから」

「お前そういうの気にするタイプだったか?」


 うん。大変失礼だ。あたしだってスカートの時は気にしている。


「まあいいか。まあ、構わないけどな。でもな、せっかくお前が見つけたんだから、お前が助けた方がよくないか?」


 時たま見せる。先生が『先生』をしている時の目だ。

 たいていは意地悪で自己中だけど、この時の目の先生はあたしはとても好きだった。


「よし、肩車をしてやろう。そうすれば届くんじゃないか」


 やっぱりだめだ。この人はダメだ。

 うら若き乙女がスカートの時に肩車で上になんかなれるはずがない。

 確かにそうすれば届きそうだけど、色々不味い。恥ずかしい。


「なんだ。トイレか? 肩車してる時に漏らさないでくれよ」


 もじもじしているあたしを見てありえない勘違いをしている。

 殺意、覚える。


「ほれ、ちゃちゃとやっちまうぞ」


 先生は無造作に腰をかがめると、あたしの股に頭を突っ込んだ。


「や、ちょ!」


 あたしは真っ赤になって止めようとしたけれど、先生はあたしを抱えて立ち上がってしまった。

 高い。それにちょっと安定してなくてふらふらして怖い。何より恥ずかしい。

 先生はあたしの重さなんてなんでもないのだろうけど、ちょっと気になるところだ。

 そのまま先生は木の枝の方に歩いていき、頭を少し上げてあたしに尋ねる。


「どうだ。届きそうか?」

「う、動かないで!」


 あたしは思わず声を大きくしてしまう。うう、今頭を動かすのはやめてほしい。色々危険。


「そう言われてもな、動かないと木までいけないしな」


 うう、そういうことじゃないの。

 あたしは気を取り直して、猫に手を伸ばす、猫は少し怖がっているのか、固まって動かない。


「大丈夫。怖くないから」


 あたしが精いっぱい笑って手を伸ばすと猫はあたしの腕に飛び込んできた。


「わ、わっ!」

「ととと、なんだ。捕まえたか?」

「うん。下して、ゆっくり、ゆっくり」


 先生に指示を出して下してもらう。やっぱりちょっとこの時は怖い。


「な~~」


 猫はあたしに向かって一声鳴くとぴょんぴょん走り去ってしまった。かわいい。

 と、先生があたしの頭に手を当ててくしゃくしゃ撫でた。


「ミッションコンプリートか?」

「う、うん」

「よかったじゃねーか」


 先生はとても無邪気に笑って見せた。時々見せる意地悪じゃない、先生の本当の笑顔。

 あたしの大好きな笑顔。


「先生も今から学園?」

「いや、今日は終業式だろ? なんだかめんどうそうじゃん。フケようかと思ってな」


 やっぱりだめだ。この人はダメだ。


「行く」


 あたしは先生の腕を引っ張る。


「おいおい」

「行く」


 ちょっと目を話すと何をするかわからない。ミラさんを始め、みんなの気持ちがよくわかる。

 あたし達が先生をしっかり見ておかないと。


 ずっと、見ていないと。


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