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努力と成功

 俺は珍しく校長の説教を黙って聞いていた。

 何故俺が説教されなければならないのか。それはランニングで体験入学者のほぼ全員が通常授業開始の時間内に帰ってくることができなかったからだ。

 シルフィーは初日から少し遅れる程度でなんとかついてきていたので油断した。

 一限目の授業を受けれない生徒まで現れ、学業に支障をきたすと校長に説教を食らったのが昼頃である。

 そして、放課後。


「随分と減ったな」


 体験入学者は数人に数を減らしていた。

 別にランニングを完走できなくても構わないと言ったんだけどな。それだとほとんど参加できないことになるし。

 まだ残っている生徒達も朝の精悍さが感じられない。

 おそらく朝の疲れとついていけなかった後ろめたさがあるのだろう。


「俺達、また参加してよかったのかな・・・」

「ら、ランニングだけして帰れるか。先生だって別に時間内にもどれなくても放課後の授業に参加してもいいって言っただろ?」

「でも、あれがただの準備運動程度だとしたらこれからいったい何をやるんだ?」

「・・・・・・」


 参加者達は戦々恐々としていた。


「さて、今日はこの闘技場で簡単な模擬訓練をやってもらう」

「模擬訓練。普通にですか?」

「そうだ。ほれ、あいつらがやっているだろう?」


 指を指すとクレアとシルフィーが、ステアとセリスがそれぞれ戦っていた。


「普通、だな」

「ああ、普通だ」

「何か特別なことはしないんですか?」


 だいぶ警戒しているようである。

 その期待に応えるとしよう。

 俺はベンチに置いてあるリストバンドを指差した。


「それを足に付けてもらう。ある程度足に負担になると思うぞ」


 参加者達はぞろぞろとバンドを取ると足に装着した。


「う、結構重いぞ。何キロあるんだこれ」

「これで動き回るのか、きついな」

「何を言うんだ。こんな特殊な訓練こそ俺達の望んでいることだろう」

「武器はそっちにかけてある刃のないのを使うといい。保護魔法をかけてあるから直接当たっても大怪我にはならないと思うぞ」


 参加者達は武器を取り、それぞれ組手の相手を決めると、ベンチから競技場に出ようとした。

 ところが、競技場に入った途端に参加者たちは地面に倒れ伏した。


「な、ぐぐ。これはなんだ」

「体が重い。上から押さえつけられているみたいだ」


 なんとか立ち上がろうとしている生徒達に俺は説明を始めた。


「言い忘れた。この競技場全体に俺が大地の魔法の派生である、重力の魔法をかけている。体がぐっと重く感じるだろう」

「じゅ、重力の魔法? そんなの聞いたことありませんよ」

「みたいだな。そんなことはどうでもいい。ほれ、中に入って組手をしろ」

「こ、こんな中で、無理です」


 俺は競技場の方を指差す。

 競技場ではクレアがいつもよりは幾分軽い剣を使ってシルフィーと戦っていた。


「いつもより軽いと言ってもまだ重い部類です。よくそんな剣を振れますね」

「け、結構きついです、けどぉ!」


 ブゥンと風を切り剣を振るクレア、いつもの様に軽やかに躱せないシルフィーもなんとかそれを凌ぎ、返す刀でクレアに一撃を入れる。


「く!」

「やはり、その剣では無理ではないですか?」

「でも、魔法と解いてもらった後に振ると羽みたいに軽く感じられるんですよ」

「確かにそうですね」

「もう一本お願いします」

「わかりました、行きます!」


 参加者達はその光景を呆然と見つめていた。

 あの中でぎこちないながらも組手を成立させているのが信じられないらしい。


「これでも軽くしてるんだがな」

「か、軽く?」


 今度は俺は競技場中央にいるシャルロッテの方を指差す。

 シャルロッテは直立し、瞑想しているように見えるが、もちろんただそれだけではない。


「彼女は何をしているんですか?」

「あいつにも重力魔法を教えた。そして今、反重力魔法を使い、俺の魔法を軽減しているんだ」


 魔法を行使し続けるのはそれだけでかなりの負荷になる。

 シャルロッテは俺の魔法を抑えることで魔力許容量を増やす訓練をしているんだ。


「か、軽くしているというのは、そういう意味だったんですね」

「そうだ。もしあいつが途中で力尽きたらあいつらも動けなくなるだろうな」

「・・・・・・」

「い、いつもこんな修行を?」

「いや、いつもじゃないな」


 その言葉に参加者達はほっと胸をなで下ろした。


「プールを借りて水魔法で激流を作り、その中での組手、風魔法で暴風を作り組手、火の魔法で灼熱地獄を作りランニング。他のもいろいろメニューを考案中だ」


 『いつも』というのが重力の魔法ではないという意味だということを理解し、参加者達は再び顔を青くした。

 俺は頭を掻きつつ参加者達に説教を始める。


「お前らな。学武際を見て自分達も強くなりたいって思ったんじゃないのか? 俺が指導すればそれこそ魔法のように指を鳴らすだけで強くなれるとでも思ったのか?」

「・・・」


 さすがにそこまでお手軽とは思っていなかっただろうが、簡単に戦闘力を上げる方法があるのではないか、くらいは思っていたかもしれない。


「今朝のランニングで思い知ったと思ったがな。一朝一夕で簡単に強くなる方法なんてそうそうあるもんじゃないんだよ。確かにあいつらには才能がある。だが、それに胡坐をかくような連中じゃないんだ。注意は十分にしているが、死にかけたことだってある」


 命力の使用法にしたって、ある一定の強さがなければ使いこなせるものではないし、そもそも発現もしない。基礎体力や戦闘訓練がどうしたって必要不可欠なのだ。


「・・・甘く見ていました」

「俺達、帰ります」


 数人はぞろぞろとリストを外すと闘技場から出て行った。

 ま、厳しいことを言ったが、努力なくして成功はないって話だな。


 これ以降、特別クラスに入りたいという生徒が現れることはなかった。

 そして、セカンドシーズンの終わりが近づきつつあった。冬の到来である。

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