困ったファン達
俺の前に現れた謎の集団。
全員目をギラギラさせ、俺を見つめている。
こいつらからは俺のクラスに入りたいという欲求が感じられない。あるのは俺に対する負の感情。
妬みや嫉みといった陰湿な心の流れが見て取れる。
しかし、俺は特別クラスの四人以外に特に生徒と関わりになったことはなかったはずだ。何故それほど俺を恨めしそうに見つめるのか?
もしや、このイベント自体に乗り気でない生徒達か? だが、それだけでこれほど目を血走らせるものだろうか?
「我々を知らないとは。ならば教えてあげましょう。我々は! 『クレアさんに愛されタイ』だ!!」
・・・は?
「なんだって?」
「クレアさんに愛されタイとは、クレアさんにいつか愛してもらいたい者達が集った会。それが我々なのです」
「・・・はぁ」
なんだ、つまりこいつらはクレアの隠れファンクラブか何かなのか?
まあ、クレアほど容姿端麗であればファンクラブがあっても驚かないが、それが何故俺を恨む?
「クレアさんは誰にでも優しく、穏やかな笑顔を見せる正に聖母の様な方でした。それがあなたのクラスに入ってからというもの、あの人は変わってしまった!」
そうか? あいつは入ってからそんなに性格が変わってないと思うが?
「我々はクレアさんに邪魔にならぬように、そっと陰に潜み彼女の会話を聞くのが楽しみなのです。ですが、最近何かと話題になるのはあなただ!」
陰に潜みって、こいつらクレアの日常会話を盗み聞き、いや、盗聴してるのか?
大丈夫か、この学園?
「昨日はスティーグ先生とあんなことをした、こんなことをしただの、そんな会話が増えてきている。さ、最近ではあなたの話題で頬を染めることさえある!」
なんだと・・・
年頃の娘であるクレアが俺のことで頬を赤く染める。可能性としては一つしかないだろう。
あいつ。俺を下ネタに使っていやがるのか? いかんな。今度注意せねばなるまい、教師として。
「我々はあなたが心底羨ま、もとい、憎らしい。なのでこの機会にあなたを排除します」
「鬼ごっこでどう排除するんだよ?」
「鬼に触るのが掌である必要はないでしょう。そう、拳を握りしめて思い切り殴ってもタッチはタッチ」
なるほど。こいつら触るといいつつ、俺をしこたま殴ろうって腹か。
「行くぞみんな。今こそ奮起の時、我等聖母の笑顔を護るんだ!」
『うおおおおおおおおおおおおお』
十数人が束になって俺へと向かって突貫してくる。
なるほど。クレアのファンクラブ。そして、俺への恨みがただの妬み、か。
フッ。
「あほかぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
どかどかぼこぼこぼこ!!!!!
向かってくるアホな男子共をまとめてぶん殴り俺はその場を後にした。
ふう。無駄な時間を使ってしまったぜ。
「ス、スティーグ先生」
すたすた歩き去ろうとしていた俺の前に、放送委員の腕章を付けた女子生徒があわてて駆け寄ってきた。
「だ、だめですよぅ。鬼が生徒を殴っちゃあ。というか、先生が殴っちゃあ」
「別にあっちの手のひらに触れなければ、俺が触っても問題なし!」
「ええ!? そうゆうルールなんですか? で、でも先生が生徒を殴っちゃまずいですよ」
「うるせえ! つーかあんな連中百害あって一利なしだ。お前がもしあんな連中から盗み聞きされたとしたらどうだよ?」
「・・・キモいですね」
「だろ?」
その時校内に放送が流れた。
『緊急連絡です。えー、鬼であるスティーグ先生は生徒の手のひらに触れなければ、スティーグ先生が、生徒に触れてもよいというルールになりました。で、ですが、スティーグ先生はむやみに生徒に攻撃を加えないようにお願いします』
おお、仕事が速いな。
もう、本部の方で検証がなされたらしい。
俺としても生徒を殴って切り抜けるつもりはそもそもない。
まあ、あいつらは例外だろうな。
腕章を付けた放送委員に厳重注意されてしまった俺は、一か所に止まることなく、移動しつづけた。
うまい具合に生徒がばらけているようで、何人かの生徒を躱しつつ、そろそろ三階に上がろうかと階段を目指していた時。
「ふっふ。階段で待っていれば必ず通ると思っていましたよ。スティーグ先生」
またもや目が血走った奇妙な集団が俺の行く手を阻んだ。
「なんだ、またクレアに愛されタイか?」
「ふん。あんな聞き耳を立てているだけの連中と一緒にしないでいただきたい」
リーダー格と思われるやつが一歩前に出て宣言する。
「我々は『シャルロッテさんに踏まれタイ』だ!」
・・・この学園は、ダメかもしれない。




