特別クラス増員か?
それは牧場に行ってシルフィーの異次元胃袋に驚愕してから数日後の事である。
俺は理事長室のソファーでふんぞり返り、土下座する三人を見下ろしていた。
土下座しているのはベネデット、校長、何故か教頭までいた。
俺は不機嫌を隠すこともなく鼻を鳴らす。
「もう一度言ってみろ」
三人は下げた頭をさらに下げ、地面にこすり付ける勢いである。代表してベネデットがもう一度俺に説明をしだした。
「も、もう一度特別クラスの生徒を選抜してほしいのです」
「はぁ。なんでそんな話になってるんだ?」
「それはもちろんあの学武際の影響です。特別クラスの生徒達は他の生徒達と明らかにレベルが違っていました。学園始まって以来の天才と言われたシルフィーさんにも劣らない実力を全員が持っていたのですから」
俺は頭をガシガシと掻いた。
「あいつらの実力だ」
「二年生の二人は確かに才能を感じる生徒でした。しかし、こういってはなんですが、下級生の二人には最初我々は期待をしていなかったのです。しかし、優勝したのは下級生のステラさんです。誰もが思うでしょう。スティーグ先生の指導を受ければ自分も強くなれると」
「誰もがってな・・・」
「ただでさえ特別クラスは色物クラスなどと揶揄する生徒がいるのに」
「あの武際の後でもまだそんなことをいうやつがいるのか?」
「あ、いえ、失言でした」
ここで校長が口を開く。
「特別クラスへのクラス替えを希望している生徒が後を絶たず、教員たちは対処できないのが現状です」
「そんなにいるのか?」
「はい。確認が取れただけでも五百名ほど」
「はぁ!?」
なんじゃ、そりゃあ。全校生徒の半分くらいなんじゃねーか?
ベネデットが口を開く。
「法案を出してはいますが、現在、この国では教育を受けることはまだ義務ではありません。それは逆に言えばこの学園に通っている生徒達はそれだけ学びたい気持ちを強く持っている生徒達が多いということなのです。で、あるならば、スティーグ先生から教えを受けたいと思っている生徒達の気持ちもわかります」
「無理だ無理。そんな人数面倒見れるか! 大体、最上級生はこのシーズンが終わればもうすぐ卒業なんじゃねーのか?」
「あ、いえ、三年生からはクラス替え希望している生徒はほとんどいません。一、二年の生徒がほとんどです」
「なっ! 三年をほとんど抜かして五百人もいるのか!」
「ですので、もう一度選抜していただきたいのです」
大丈夫なのかこの学園? 担任の教師とか泣いてるんじゃねーか・・・
あ~面倒くせーなぁ。
正直あいつらの成長は俺がつきっきりで見守っているところが大きい。
もちろんあいつらには元々素養があったが、才能の活かし方をわかっていなかったのだ。
それが大人数教えるとなると一人一人に割ける時間がなくなる。個別に指導できなくなる。
これまでのような急成長は望めない。
なにより――
「やだ。かわいい女の子しか面倒見るつもりはない」
「せ、せんせい~」
校長は情けない声を出す。やめろ。大の大人の男がそんな声を出して上目使いをするな。
と、ここで教頭ががばっと立ち上がった。
「スティーグ先生。私はあのステラさんとの試合で感動したのですぞ!」
「はぁ・・・」
「あなたの指導は生徒を成長させる。なのになぜ普段はそんなにいい加減なのですか!」
「そう興奮するなよ。髪、ずれてるぞ?」
「か、髪の事は触れるなぁ!!」
髪を手で押さえ、位置を確認する教頭。うーん、面白い。
「まあ、あと一人か二人なら構わんが」
「おお、引き受けていただけますか?」
うーむ。さてどうするか。
前のように全校生徒を集めて見つくろうか。だが、芸がない気がするな。
何かいい手はないものか・・・
「スティーグ先生?」
「あ」
訝しむベネデットをよそに俺は一つ面白いアイディアを思いついた。
ちょっとしたイベントにもなるし、もし選ばなくても生徒達からある程度の納得をしてもらえるのではないかという方法だ。
自然と俺は笑みを浮かべる。
「ま、また何かよからぬことを・・・?」
「失礼な。素晴らしい選抜アイディアを思いついたぞ」
「そ、それは?」
「応募者全員で俺と鬼ごっこをしよう。制限時間を設けてもし俺を捕まえることができたやつは特別クラスに入れてやろう」
「な、鬼ごっこですと!?」
「鬼ごっこ知らないか? 鬼がタッチしたらいけないルールで」
「知っています! そんなことで特別クラスを決めると?」
ん? いいアイディアだと思ったけどダメだったか?
「もう決めたんだ。そうだ。どうせなら全校生徒を相手にしよう。全員が鬼だ。俺を触ることができたやつはみんな特別クラスに入れてやる」
「そ、そんなでたらめな・・・」
よし、話は終わった。俺はさっさと理事長室から退散しようとする。
「日取りを決めてくれ。いいな。全員参加だ」
唖然とする三人をニヤケ顔で見返しながら俺は理事長室を後にした。
けけけけ。さあ、楽しい鬼ごっこの始まりだ。




