決闘
俺は四人を家の裏庭に連れて行った。庭と言っても特に何もなく、俺が鍛錬するだけの場所だ。周りは俺を最強と噂するが、俺はそうだとはこれっぽっちも思っていない。面倒くさがりの俺ではあるが、日々の鍛錬を欠かしたことはない。
地面も平らだし、特に障害物もない、戦うにはちょうどいいだろう。
移動の最中。元帥は口を酸っぱくして俺に念を押した。
「いいですか、スティーグ殿。これはあくまでも仕合。仕合ですぞ。殺すのは禁止ですからな」
「へいへい。わかってますよ」
俺も自分の家のそばで血を撒き散らしたくはないしな。
アドルフとしては大変面白くないだろう。誰も自分の勝利を信じてはくれないのだから。あ、眉間がぴくぴくしてる。血管も浮き出てるし。
裏庭に着くと俺はいつも自分が使っている木剣をアドルフに放った。
「これは?」
「俺が使っている訓練用の剣だ。それを使え」
「いらん。私は自分の剣を使う」
「それ、真剣だろう? 俺はそれでも構わないんだけどな」
俺は元帥の方に視線を向ける。元帥はコクコク頷きながら、木剣での仕合を促す。
「・・・元帥。くそ。それで貴様の獲物は?」
「素手でいい。ハンデだ」
「どこまで私を愚弄するつもりだ!」
「つってもな。木剣は一つしかないし。それより聞きたいんだけどな。俺が負けたらさっきの発言を取り消す。で? 俺が勝ったらお前は何してくれんだ?」
「それは・・・」
「あれあれー、これだけハンデがあって勝つ自信がないのか? 今ならやめても構わないぞ?」
「っつ!いいだろう。なんでも聞いてやる!!」
「ア、アドルフ。無茶な約束はするんじゃない!」
「元帥。これは私たち二人の問題です」
「そーゆーことだぜ。元帥?」
元帥はがっくりと項垂れて黙りこくった。
「・・・どうも貴様は私を侮っているようだから、戦う前に貴様に私の実力を見せてやろう」
元帥たちの反応から勝負はもう既に決まっていると思われているのが遺憾なのか、アドルフは身近な木に近づき、ドンと蹴りつけた。衝撃で木の葉が何枚かひらひらと落ちる。
「はぁ!!」
アドルフの剣が閃く。ひらひらと地面に落ちる無軌道な葉をすべて切り落としている。それだけではなく、獲物が木剣であるにも拘らず、その技によって葉はすべて真っ二つになっていた。
「おお!さすがはアドルフ。見事なり」
元帥達は惜しみない勝算を送った。なるほどな。軍で一、二を争う実力者ってのはブラフじゃなさそうだ。
アドフルは向き直り、正眼に構える。十分に気合が充実しているのが窺えた。
対して俺も一応、前傾姿勢を取る。
「言っておくが、あんなものは余興にすぎん。たっぷりとこれから私の実力を見せてやる」
「さっさと始めようぜ」
「・・・言っておくが、私は貴様の噂を半分も信じていない。いくつもの小隊を一人で壊滅させたとか、古代竜を倒したとか。そんなことが一人の人間にできてたまるか。今から貴様の化けの皮を剥いでやる」
睨みつけるアドルフを眼光を受け流し、俺は元帥に合図を促す。
「合図を頼む」
「では。はじめ!!」