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シルフィーの性質

 さて、ステラがなんだがよくわからないことになっていやがるが、俺達はこれからステラのご褒美という名目で以前行った牧場に向かう。

 皆はぞろぞろと馬車に乗りこんだ。


「スティーグ。どうしたの?」


 なかなか乗りこまない俺にミラ不思議に思ったのか声をかけてきた。


「ああ、もう一人呼んだんだが」

「誰?」


 噂をすれば、最後にゲストが現れた。

 シルフィーである。


「し、シルフィー先輩!?」


 クレアが驚きの声を出した。


「おお、来たか」

「スティーグ先生。本日はお声をかけていただき、ありがとうございます。ですが、よろしかったのでしょうか?」

「いいんだ。乗れ」


 俺はシルフィーを馬車に乗るように促す。

 こうして今回はシルフィーを含めた八人で牧場に向かうことになった。


 牧場に向かう道中、当然ながら、何故シルフィーがいるのかを皆に尋ねられた。


「別にかまわないだろう。あいつの分の料金は俺が出してやる」

「いや、そうゆうことじゃないんですけど」

「あいつのおかげでクレアはいい経験ができた。偶然だがあいつとは話す機会もあったしな。そんな深く考えるな」


 実際、俺はそれほど深い理由でシルフィーを誘ったわけではない。

 牧場に行く日取りが決まった時になんとなく頭に浮かんだので試しに誘ってみただけなのだ。

 ステラは自分以外で奢られる人間がいるのが気に入らないのか、別の理由があるのかはわからないが、納得がいかない様子だ。


(あたしはシルフィー先輩がいてくれてうれしいんだけど・・・)

(先生ご自身がお食事に誘ったというのが)

(なんなんすかね。このもやっとした感じ)

(ライバルが増えた・・・)


 御者台にいるので馬車の中の声がうまく聞き取れないが、なにやら不穏な空気を感じた。




****


 馬車に揺られること数時間。

 ようやく目的の牧場に到着した。


「これがみんなの言っていた牧場なのね~」

「のどかな景色だな。心が和むようだ」


 ミラとアドルフはまんざらでもない様子で牧場を眺めていた。

 シルフィーも草原の風に気持ち良く当たっているとふと俺の方を向いた。


「スティーグ先生はこの場所によく来られるのですか?」

「以前、あてのない放浪の旅をしていたことがあってな。ここはその時にたまたま見つけたんだ」


 当時は俺もその法外な値段に随分と驚いたものだ。

 しかし、それもここの肉を食べるまでだった。この肉のうまさに魅了され、何度も足を運んだ。

 だが、ここはいつも閑古鳥が鳴いていた。牧場は経営難が続いていて、俺は何度も価格調整をするように牧場主のおっさんを説得したが、おっさんは頑として値段を下げなかった。この肉にはそれだけの情熱を詰め込み、価値があるのだと。俺もそれで納得したのだが、金がなければ経営はできない。

 そんな時に手に入ったのがあのドラゴンオーブだったのだ。


 俺達はロッジに入ると牧場主のおっさんが自ら挨拶に来て、肉を焼いてくれた。

 並べられた極上のステーキを経験のある俺達は喜んで、未経験の三人は恐る恐る口に運ぶ。


「!! な、なんなのこのお肉。ちょっとスティーグ。こんな牧場がある事をあたしに今まで黙っていたのね!」

「こ、これは初めての経験だ。肉とは、これほどまでに柔らかいものなのか!」


 以前、ここに来た四人と同じようなリアクションをするミラとアドルフ。なんだか、うまいものを食ってる時の人間の顔を見るのが面白くなってきたぞ。

 さて、シルフィーはどうか?


「・・・・・・」


 シルフィーは黙々とナイフを動かし、フォークで肉を口に運ぶ。その動作に乱れはない。なんというか、普通だ。


「うまいか?」

「美味しいです」


 それだけだった。

 うーむ。元々肉が好きではないのだろうか? 少し残念な反応だ。


「う~。美味しい。おかわり!」


 おごりと思ってステラが公言通りおかわりをする。

 しかし、これは結構なボリュームのある肉だ。他の連中は一枚食えば十分のようだった。


「わたしもお願いします」


 ん? シルフィーもおかわりするのか。まあ、俺がおごりと言ったからな。

 二枚目の肉がしばらくすると運ばれてきた。

 ステラは喜んでむしゃぶりつくが、中盤からペースが落ちてきた。


「む、これは結構、くる」


 この肉のうまみはきめ細かな霜降りによるところが大きい。脂分が多いので結構胃にくるのだ。

 ステラはなんとか頑張って二枚目を平らげたが、もう十分な様で腹をさすっている。

 さて、食休みをしたら帰るか。


「おかわりです」


 ・・・何?

 恐る恐る声の主である、シルフィーを見ると、肉の盛られていたはずの鉄板の上の肉が綺麗に無くなっていた。

 皆、驚愕の表情でシルフィーを見つめる。


「みなさんどうかしたのですか?」

「し、シルフィー先輩。まだ食べるんすか? これ結構胃にがっつりきません?」

「ええ、大変に美味しいです」


 質問の内容とは微妙に違う返事が返ってきた。

 三枚目の肉が運ばれてきた。

 シルフィーはそれを黙々と一定のリズムで食べ進めていく。

 汚い食べ方をしているとか、ペースが速いという訳ではない。

 ただ、黙々と咀嚼していく姿を俺達は黙って見守っていた。


「おわかりです」


 愕然。

 俺達はただ口を開けその光景を見守っていた。


「しかし、このような牧場があるとは、寡聞にして知りませんでした。スティーグ先生はお強いだけでなく、見識もあるのですね」

「あ、ああ。そうか、な?」


 らしくもなくはっきりとした返事ができなかった俺。

 しかし、無理もないだろう。大の男でも二枚食べれば十分なはずの量なのだ。

 しかもこいつ、まったくペースが変わらないまま四枚目を食べ始めた。

 こいつの胃袋はいったいどうなってやがる。まったく大きくなっているようにも見えず、スリムなウエストのままである。


「せ、先生。女性が食べる所をそんなに見つめるのは失礼です」

「お、お前だって見てるだろうがクレア」


 四枚目を一枚目と全く変わらぬペースで食べ終わるシルフィーを見て俺は空恐ろしくなってきた。


「し、シルフィー? そろそろ帰る、ぞ?」

「む、そうですか。腹も身の内と言いますし、このくらいにしておきましょう。ご馳走様でした」


 こ、こいつ、俺が止めなかったら絶対五枚目いってた。

 俺としたことが久しぶりに戦慄を覚えたぜ。


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