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決勝戦。そして

 試合はとんとん拍子に進んでいった。

 ステラは準決勝戦も問題なく勝ち上がり、ついに決勝戦を迎えた。

 決勝前に俺はステラの控室に足を運んでいた。


「いよいよ決勝戦っすよ」

「調子はどうだ?」

「問題なしっす。シルフィー先輩が出てこれなかったのは残念でしたけどね。クレア先輩の敵討ちを! って結構、意気込んでたんですけど」

「意外だな。お前の事だから強敵がいなくなってラッキーくらいに思ってるかと思ったぞ」


 それを聞いてステラは少しむっとした顔になる。


「あたしだって仲間を大切にする気持ちくらいはありますんで」


 ふむ。こいつなりに仲間思いな面があるのかもしれないな。

 すまないと思ったが口には出さない俺である。


「ここまで連戦だったわけだが、体力面はどうだ?」

「先生の地獄のメニューに耐えてますんで」


 ステラはきししと無邪気に笑う。

 確かに俺のハードメニューにこいつもなんだかんだでついてきている。

 それを思えば確かに今の俺の質問は愚問だったかもしれない。


「相手は昨年の準優勝者だそうだ。まあ、順当に勝ち上がってきているって感じか?」


 これまでの対戦相手の試合は一応見ている。

 確かにそれなりの実力者だが、シルフィーとの差がありすぎる。シルフィーは軍に入ればすぐにでも頭角を現すであろうほどの実力を持っている。

 それに比べてしまうとステラの対戦相手は所詮、学生レベルの域を出ない。


「余裕っすよ!」

「油断するな」


 思った通り油断しているステラを叱る俺。

 確かに俺もステラが勝つであろうと思っているが、何があるかわからないのが勝負事だ。

 俺も常々自分よりも強い人間に勝つ方法などいくらでもあると、こいつらに説いている。その逆がないとはもちろん思わない。


「わかってますって。観ててくださいよ」

「ふん。気を引き締めろよ」

「先生もあたしが勝ったらあの牧場の件、忘れないでくださいよ」

「ああ」


 しっかり覚えていやがったかこの野郎。




*****


『皆さま。長らく、長らくお待たせいたしました。プログラムの変更により、本日二日目で第15回バレンティア学武際決勝戦を執り行います』


 歓声が起こる。

 決勝進出した二名が競技場に姿を現した。


『東ゲートより特別クラス一年生ステラ選手! 西ゲートより昨年度二年の部準優勝ゴドフレド選手!』


 ゴドフレドという選手は片手で持てる剣と盾を使うタイプの剣士だ。

 盾がある分守りが厚い。それをどう攻略するか。


『両者、所定の位置につきました。準備はよろしいでしょうか? それでは決勝戦! 始めぇ!!』


 二人は構えを取る。

 対戦相手はステラを睨みつけた。


「気に入らないな。特別クラス」

「一応ステラって名前あるんすけど」

「俺はな。昨年シルフィーに負けてからあいつに勝つためにずっと努力してきた。シルフィー対策もしてきたんだ。それが蓋を開けてみりゃどうだ? お前ら特別クラスばっかりちやほやされやがって。不公平だろ!」

「・・・いや~。それあたしに言われても」

「うるさい。挙句シルフィーは棄権しちまって、俺はいったいどうすりゃいいんだ!?」

「とりえあず、あたしとガチバトルすればいいんじゃないっすか?」

「もちろんそのつもりだ。この鬱憤、お前で晴らさせてもらうぞ。特別クラスぅ!!」


 猛然と斬りつける対戦相手。

 ステラはこれを両手のダガーで受ける。


(おお、やっぱり決勝までくるだけあって、斬り込み鋭いや)


 気を引き締めたか。今度はステラが斬りつける。

 対戦相手はステアの双剣を剣と盾で受け止める。

 ふむ、思ったよりもやるな。なんだが目が血走ってやがるが、対戦相手の評価を改めるか。


『これはなかなか見応えのある戦いになってきました。ステラ選手の攻撃をゴドフレド選手、自慢の盾で防いでおります』


(変則的な動きにも、盾を使ってうまく防がれちゃうな。ここはあたしも魅せますか!!)


 ステラは一度距離を取ると、大きく息を吸い込んだ。


「秘儀! ちょっぱや切り!」


 命力を漲らせ、ステラが舞う。

 今までも十分疾い剣速がさらに増し、対戦相手を釘づけにする。


 カカカカカッカカカカン!!!


「な、なんだ。急に! なんてスピードだ!」


『は、疾いステラ選手の連続切り! これはまるで剣の嵐だ。今までも十分疾かったですがまだ本気ではなかったのか! 遠目でも剣を追いきれません。近くで見ているゴドフレド選手にはこの光景がどう映っているのか!?』


 もはや盾を突き出して凌ぐしかない対戦相手。しかし、これでは腕が持たない。徐々に体制を崩されていく。


 ガチン!


 盾を弾かれ大きく体が泳ぐ。

 ステラの視点からは盾から除き出た引きつる対戦相手の顔が見えるだろう。


「ま、待て。待てーー!! 俺は、俺はこんなところで!」


 もちろんステラは待たない。がら空きになった懐にちょっぱや切りとかいうふざけて名前の連続切りを次々に斬り込んでいく。

 全弾命中。成す術もなく崩れ落ちる対戦相手。

 勝負は決した。


『なんという速度の連続切りでしょうか。ゴドフレド選手。立てない。動かない! この勝負ステラ選手の勝利です。ということは、第十五回バレンティア学武際を制したのは一年生、特別クラスのステラ選手だ~!』


 歓声と拍手が会場を包む。

 ステラはまたしてもバク宙しながらそれに答えた。


「やほー。やりました! ありがとうみなさーん!」


 ノリノリのステラ。

 だが、ここで終わってはつまらない。


「ちょっと待った~~~!!」


 歓声に割れている会場が静まり返る。

 盛り上がる会場にまさかの待ったの声がかかる。

 かけてのは他ならぬ俺である。

 俺は東ゲートから悠々と競技場に入り、ステラに向かって歩き出す。


「せ、先生?」


 ステラも他の観衆達も何が起こったのかわからずに俺を見守った。

 俺は拡散魔法を使って会場内に響くように語りかける。


『学武際に集まった野郎ども! 俺は特別クラスを指導しているスティーグだ』


「スティーグ?」

「あの人がスティーグなのか?」

「生ける伝説の・・・」


『この大会。確かにステラは優勝した。だがどうだ? お前らは盛り上がったか? シャルロッテとセリスの対戦のように。クレアとシルフィーの対戦のように!』


「それは、あっさり決まっちゃったけど」

「確かに盛り上がりに欠けた、よな?」

「ああ、盛り上がってないよ!」


『そうだろう! そこで特別な余興を開こうと思う。これから俺とステラが戦うなんてのはどうだ!』


「うええええ!!」


 一番びっくりしているのは目の前のステラだ。

 無論、こんなことは事前に話してはいない。


『な、なな。なんとー!スティーグ先生からのまさかの師弟対決の提案だ! これはどうしたらいいんでしょうか? 大会本部に一度確認を取って――』

『そんなもんいるかアホ!』

『ひい!』


 司会を一喝し、俺は会場内を見渡して語りかける。


『それを決めるのはここに集まった観衆達だ。野郎ども、聞け! お前らは観たくないのか。あっさり優勝する実力を持ったこのステラと、この俺との戦いを! もし観たいなら歓声を持って応えろ!!』


「み、観たい」

「ああ、観たいさ」

「観たいぞスティーグ先生!!」

『観せろ。観せろ。観せろ。観せろ。観せろ!!』


 会場はこれまでにないほど盛り上がり、『観せろ』コールが鳴り響いた。


「けけけ。さあ、こうなったらやるしかねーだろステラ?」


 ステラは両手で顔を押さえて天井を向く。


「ぐあああ!! なんてことしてくれたんすか先生。せっかくのあたしの勝利が先生のせいでぶち壊しですよ!」

「なら、俺にも勝って見せろよ。それでこそ完全勝利だろう」

「うがー。やってやる。やってやりますよ!!」


 けけけ。そうこなくっちゃよ。

 さあ、始めようぜ。

 バレンティア学武際最後の締めを!





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