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クレアの必殺技

 二人の剣が交差する。

 また、二人の斬り合いが始まると観客は思っただろうが、実際はそうはならなかった。

 クレアが徐々に押され始めたのだ。


『これはぁ! どうした? クレア選手。次第にシルフィー選手に押され始めた!!』


(ここにきて、シルフィー先輩の速度が上がった?)


 攻撃を返せないまま、クレアは相当混乱しているだろう。

 いったい何が起こっているのか?

 クレアは一旦距離を取って仕切りなおそうとしたが、回り込まれ、さらに追い詰められる。


(ちがう! 速くなったんじゃない。あたしの動きを読まれてる)


 ここでついにシルフィーがクレアに一撃を入れた。

 保護魔法を超えて、わずかにクレアの体に薄い切れ目が現れる。


『おおお! ついに! 試合が始まってからついにシルフィー選手の攻撃が入った。どうするクレア選手?』


「クレアさん。あなたはその大剣で本当によくやっている」


 シルフィーがさらにクレアを攻める。


「しかし、そもそも大剣は大型モンスターや騎馬を馬もろとも打ち倒すために作られた武器。一対一の戦いを想定して作られてはいない」


 徐々にクレアに浅い傷が増えていく。


「如何に隙を少なく動こうと、攻防一体の攻めを編み出そうと、その重量の武器ではどうしても攻撃パターンが似通ってくる。あなたの動きはもう覚えました!」


 相手がシルフィーでなければ、ここまで追い詰められることはなかっただろう。タネが割れる前に決着をつけることもできたかもしれないが、残念なことに相手は学園最強の女。これだけ長く打ち合えばいい加減、動きを読まれても仕方がない。


「降参しますかクレアさん。さすがにその大剣を盾にされてはクリーンヒットを狙うのは難しい。徐々にいたぶる様な真似は趣味ではない」

「それだけは、できません。先生に怒られてしまいますから」

「・・・そうですか。では、いきます」


 シルフィーの攻撃がさらに苛烈さを増していく。

 クレアも何とか反撃を試みるも、攻撃した場所にはシルフィーはもういない。もしくは打点をずらされて本来の力を発揮できない。完全に動きを読まれている。


 ガチーン!!


「あっ!」


 打点をずらすように打ち込まれたシルフィーによって大剣が弾かれ、その拍子にクレアが大剣を落としてしまった。

 とっさに剣を拾おうとするクレア。

 しかし、当然のことだが、シルフィーがそれを阻止しようと回り込む。


 ドカ!


 渾身の蹴りがめり込んだ。

 クレアの放ったミドルがシルフィーに。


「な、なに!」


 前屈みにうずくまるシルフィー。

 その隙にクレアは悠々と剣を拾う。


「こほ! まさか、大剣を落としたのは、わざと?」

「動きが読まれているのなら、動きをこちらの意図に誘導してあげればいい」

「・・・それもスティーグ先生の教えですか?」

「あの人、規格外の力を持っているのにこうゆう小技が好きなんですよ」

「ますますあなたを倒したくなってきました」

「ええ、ですが、そろそろあたしも終わりにしたいと思います」


 クレアは大剣を上段に構える。


「なんのつもりですか?」

「あたしの動きでは先輩に読まれてしまう。では、読まれても避けられない最速の一撃をもってあなたを倒します」

「なるほど。あなたの大剣の方がリーチは上。その間合いに入った瞬間、勝負は決するということですか」


 シルフィーは覚悟の決まった顔で前傾姿勢を取る。


「受けて立ちます!」


 クレアの得意な上段からの振り下ろし。

 一番威力があるだろうが、シルフィーはこの試合だけでも何度も見てきた。

 来る攻撃は分かっている。躱すことは容易と思うだろう。

 しかし。


「必殺剣。崩断!」


 クレアは持てる命力のすべてをこの一撃に込める。

 この一撃のみ、これまでの振り下ろしよりも遥かに威力があり、そして速い。


(な、なんだこの速度は!!)


 シルフィーは回避からとっさに剣で受けようとした。

 だが、その判断も誤りであると即座に気づく。


(いけない。この一撃を受けては!)


 剣を斜めにして威力を逃がそうとする。

 しかし、それでも。


 ガチャーーーーーーーン!!!!


『し、シルフィー選手弾けるように吹っ飛んだぁ! そして、これは。なんと。シルフィー選手の剣がひしゃげている。防御魔法をかけ続けているこの会場内で! な、なんという剛剣でしょう。クレア選手』


 弾かれはしたがシルフィー自体にはまともに当たっていない。

 立ち上がることはできるだろうが。


『た、立ち上がりました。シルフィー選手。ああ! これは! シルフィー選手の腕が妙にだらんと伸びている。これはまさか。肩が外れているのか!!』


 長剣で大剣を受けた時の衝撃で外れてしまったのだろう。

 震える体を支えながら、シルフィーはひしゃげてしまった剣を取る。


「ま、まだやるのかね!?」

「もちろん・・・です」


 驚いて尋ねる審判にシルフィーは答える。

 もう握ることのできない右手に代わって、左手で持とうとするが、力が入らないのか、持ち上げることができない。

 クレアが後は一撃入れれば勝負は決する。

 誰もがそう確信した時。


「あたしの負けです」


 クレアが降参を宣言した。


「こ、降参するのかね?」

「はい。あたしは今の一撃にすべてを込めました。もう振り下ろした剣を持ち上げることができません」


 一瞬の静寂が会場内を支配する。


『な、なんということでしょうか。勝利目前と思われたクレア選手。まさかの敗北宣言! 熱戦を制したのはシルフィー選手だーー!!!』


 会場内が爆発したような声援に包まれた。


「シルフィーよくやった! 最上級生の誇りー!!」

「クレアちゃんかっこよかったわよーーーー!!!」


 貴賓室で観戦していたシャルロッテとセリスが駆け出した。


「わ、わたくし様子を見てきますわ!」

「あたしも!」


 一拍遅れてミラが俺を急かした。


「スティーグ。あなたも行って」

「ふぅ。しょうがねーな」


 俺は貴賓室の出口まで行って、ふと、振り返る。

 あの一撃をギリギリながら躱すとは。

 さすがだシルフィー。

 負けはしたが、うちのクレアにも十分な収穫があったし、良しとするか。

 接戦で負けた苦い味を含めてな。

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