武際二日目
バレンティア学武際二日目。
一日目よりも多くの観客が見守る中、大会は進行していった。
しかし、残念ながらその内容はひどくつまらないものになった。
一日目のシャルロッテとセリスの試合。あれを観て集まった観客とは逆に、特別クラスの生徒と戦うことになった対戦相手は完全にしり込みしてしまったのだ。
戦っても腰が引けている選手や棄権してしまう選手が続出。
昨日、あれだけ派手な試合を見て興奮した観客達からは不満の声が上がった。
そして、不満なのは俺も同じだ。
雑魚過ぎても困るが、俺が設けた課題の一つには『多くの戦闘タイプと戦い経験を積む』というものが盛り込まれていた。だが、これでは話にならない。完全に誤算だった。
そんな訳で大会は淡々と進行した。
盛り下がり続けた大会に光が差したのは午後になってからだ。
「ようやくまともな試合が見れそうだな」
俺はげんなりしながら言った。
もうすぐ始まるのはクレア対シルフィーの対戦だ。
クレアは貴賓室で緊張した顔をしている。
「先生。そんなつまらなそうな顔をしないでください」
「しかしなー。まさかこんな盛り下がるとは思ってなかったしな」
「次の試合はあたし、がんばりますから!」
むんと。両手に力を込めるクレア。
気合が入っている。
俺はにやりとした。
「ふん。つまらん試合ばかりで気が抜けてるかと思ったがな?」
「そんな状態で勝てる相手じゃありませんから」
俺は深々座っていた椅子に座り直すとクレアの目を見る。
「特にアドバイスはない。いつも通りにやれ。自分で考えて行動しろ。そして、学べ」
「はい。いつも通りですね」
こいつに油断するなとかそういったことは無用だろう。ステアなら言わなければならんけど。
クレアは貴賓室を出て、控室に向かった。
さて、どうなるかね。
****
「先生はクレアさんとシルフィー先輩の試合どう見ますか?」
一回戦で敗戦したシャルロッテとセリスは貴賓室で一緒に試合を観ている。
「6:4でクレアが不利だろうな」
「厳しい?」
セリスが不安そうに聞いてくる。
戦闘経験がどうしても足りないからな。
それにシルフィーの武器は細身の長剣で、どちらかといえばスピードタイプだ。
一撃重視のクレアとは若干相性が悪い。
しかし、だからこそ試合という形で戦えることに価値がある。
相性の悪い相手というのはいくらでもいる。それをどう補うかが腕の見せ所なんだ。
本来であれば7:3でクレアが不利なんだ。
そこを俺は命力を授けることで6:4に引き上げた。
後はクレアがどう使いこなすか。
「ま、一応仮想敵としてこれまで特訓してきたんだしな。観てようぜ。あいつの戦いを」
*****
『さあ、お次の試合は注目のカード。特別クラスのクレア選手と前年度二年の部優勝者のシルフィー選手です』
久々に会場が湧く。これまでの鬱憤を晴らすかのような大声援だ。
『もやは説明不要。一年からその才能を発揮し、その年の学部際で優勝をさらった才女、去年も雪辱に燃える上級生をさらに腕を上げて屈辱のどん底に叩き落したバレンティアの誇る伝説シルフィー選手』
「がんばれシルフィー」
「特別クラスなんかに負けんじゃねーぞ!」
『対して、スティーグ先生によって発足された特別クラス所属、そのかわいらしい外見とは裏腹に、凶悪な剛剣を振り回し、並み居る強敵を薙ぎ払ってきたクレア選手』
「クレア頑張ってー」
「俺達ファンクラブがついているぞー」
すげー声援だな。なんか変なのも交じってるが。
競技場に入場した二人はどちらも引き締まったいい顔をしている。
さて。
「あなたと戦えるのを楽しみにしていました。クレアさん」
「光栄です。先輩。あたしも全力で行かせていただきます」
「正直に言いましょう。私はあなたに、あなた方に少し嫉妬しています」
「え?」
「この国の騎士を目指す者でスティーグ先生を知らない人間はいない。その先生に直に指導してもらえるなんて、羨ましくて仕方がありません」
「あの、すいません」
ここでシルフィーは少し困った顔をする。
「いえ、こちらこそ申し訳ない。選んだのはスティーグ先生です。あなた方に非がある訳ではない」
「き、恐縮です」
「実は昨日、スティーグ先生と偶然話す機会がありました」
「え、そうなんですか?」
「あなた方に期待していいか聞いたところ先生はこう答えました。自分で確かめろと」
「!」
「確かめさせてもらいます。あなたの力を」
「はい!」
『えー、お二人ともよろしいでしょうか? それでは観客もわたくしも待ちきれませんので始めさせていただきます。試合始め!!』




