シャルロッテ夢心地
「強くなったな。シャルロッテ」
「せ、先生」
「お前がこんなに魅力的なんて今まで気付かなかった」
「そんな、わたくしなんてまだまだ・・・」
「こんなにかわいいお前を生徒だけの関係にしておくのはもったいないな」
「そ、それはどうゆう」
「シャルロッテ」
「先生、顔が近いですわ」
「これならどうだ?」
「きゃ、お、お姫様抱っこ・・・」
「目を閉じろ」
「せ、せんせい」
ドンドン。
「シャルロッテお嬢様。朝です。起きてください。お嬢様」
家令が起しに来ました。ええ、夢ですよ。
******
今日は早めに屋敷を出ました。
屋敷にいるとどうにも恥ずかしかったのです。起しに来た家令は何も言っていませんでしたが、もしかしたら聞かれたかもしれません。わたくしの見ていた恥ずかしい夢の寝言を。
そう思うと顔から火が出るように熱くなります。とても屋敷にはいられませんでした。
「あつつ・・・」
昨日のセリスさんとの戦いでまだ、体のあちこちが痛みます。しっかり治療してもらいましたし、大きな怪我はお互いありませんでしたが、それでもあの突進を二度も食らったら仕方がないかもしれません。
「ああ、でもさっき見た夢」
なんて恥ずかしい。でも、もしあんなことを先生に言われたら、言ってくれたら・・・
「あうう~~!!」
自分で顔が赤くなっているのがわかります。両手で顔を隠し、いやいやしながら歩いていると。
ドン。
「きゃ!」
誰かにぶつかって転んでしまいました。
うう、わたくしとしたことが、今日は朝から何をやっていますの。
「何やってんだお前」
聞き覚えのある声でした。とても会いたい。でも、今この状況では一番合いたくない相手。
恐る恐る見上げるとそこのはやっぱり声の主。スティーグ先生がいました。
「せ、先生!」
「顔を隠しながら歩いて、何かの訓練か?」
「いえ、これは、あっつ!」
慌てて起き上がろうとしたら体にまた激痛が走り、ぺたんと再び尻もちをついてしまった。ああ、恥ずかしい。先生にこんな場面を見られるなんて。
「何やってんだお前は。そんなにスカートをはだけさせて」
「きゃあ!」
慌ててスカートを押さえました。み、見られた?
「安心しろ。見てないぞ。俺以外はお前の白いパンツ」
顔が火をつけたように熱くなり、真っ赤になりました。
ひどい、ひどい。こんな時は見ないふりをするのが男性のたしなみでしょうに!
「おら」
「あ」
先生はわたくしの手を握って立たせてくれました。
先生が手を握って、でもちょっと強引。もう少し優しくしてくれても、でも、強引も少しいいなんて・・・あああ、わたくしは何を考えていますの!?
「・・・もう慣れてきたけどよ。お前たまによくわかんなくなるよな」
あうう。先生、そんな風に思っていたんですの。いえ、わかっておりました。先生の事となるとどうしても冷静でいられなくなる自分がいることは。ええ。
「おほん。先生御機嫌よう。まだ早いですのに、何をしていますの?」
「・・・まあ、いいけどよ。俺は散歩だ、散歩」
「そんなご趣味があったんですの?」
「偶々だ」
偶々。わたくしも偶然早く起きて先生も偶々で、そんな二人が朝出会うなんてこれって運命的。
「そ、そうですか。それでは一緒に学園に参りましょう」
「ん? いや、俺はしばらくぶらぶらするわ。試合が始まるのはまだ先だし」
むぅ。せっかく先生と一緒に登校するという夢が叶うかもしれませんでしたのに。
ですが、今日の運命的な出会いを無駄にするわけにはいきません。なんとかしませんと。
わたくしは一計を講じました。
「ああ! 痛い。昨日の怪我がひどくてこれ以上歩けない!」
「あ? さっきまで歩いてたじゃねーか」
「なんとかここまで歩いて来れましたが、それも限界ですわ」
「そうか。じゃあ、しばらく休んでから行け。時間はある。じゃあな」
ぐわしぃ! 思いっきり先生の袖を掴みます。
「誰かが支えてくれれば、歩けるかもしれませんのに」
「おい・・・」
「誰かが支えてくれれば、歩けるかもしれませんのに!!」
先生は頭をくしゃくしゃしてため息をつきます。
そんなに面倒そうにしなくてもいいじゃありませんの・・・もう!
「わあったよ。じゃあ、おぶってやる」
「お、おぶる!?」
思いもよらない展開です。わたくしとしては肩を貸してくれればいいくらいに思っていましたが、思わぬところで幸運が訪れました。
「いや、やっぱりないな。お前をおぶっても背中に胸の感触を楽しむことができないし」
「・・・」
今のはない。
ええ、さすがにひどいと思いました。先生はわたくしの胸の辺りを見ながら、残念そうにため息をつきます。軽く殺意を覚えました。
「しょうがねーなぁ」
「きゃあ!」
先生はわたくしの背中と膝の部分を持つとひょいとわたくしを持ち上げます。
こここれってお姫様抱っこ!
ま、正夢ですわーーー!!!
「しょうがねーから運んでやる。大人しくしていろよ」
「運ぶって・・・もう少し言い方はありませんの?」
「なんなら肩に担いでもいいんだぞ?」
「こ、このままでお願いしますわ」
そう。今はこのままで。
わたくしは先生の腕の中でしばらく夢心地でいたのです。
*****
この後、この状態で登校している所を多くの学生に見られ、光の速さで学園に広まってしまうことをシャルロッテはまだ知らない。




