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力ある者の義務

 大戦。大仰に銘打ってはいるが、俺が今いるエルベキア王国と隣国カルドニア公国との戦争を指す。

 領土拡大を目的として始まったこの戦争は、どちらもそれっぽい大義名分を掲げ始まった。

 俺はこの戦争に参戦していた。理由はシンプル。金がなかったのである。

 ミラによく人でなしとか最低とか言われる俺だが、それでも金を払って生活していこうという矜持は持ち合わせていた。盗賊まがいのことをしようとはこれっぽっちも思わない。

 当時、俺は自分の部隊を指揮している隊長に交渉を持ちかけた。


「もし、小隊を一人で壊滅させることができたら、報酬を吊り上げてほしい」と。


「そんなことができるならいくらでも吊り上げてやろう」


 その時隊長はそう言った。俺は何度も確認をし、念のために念書も書いてもらった。

 張り切った俺は小隊を次々と撃破。最終的には大隊近い規模を壊滅状態に追い込んだ。

 あの時の隊長の顔は今でも覚えている。目を点にして口を大きく開き、ぽかんとしていたものだ。

 その後は大変だった。報酬の件を見直させてほしいと土下座までして頼む隊長に、俺は念書を突き付け、報酬を迫った。最後には将軍と経理の人間まで現れて説得を始めたのだ。

 最終的に一歩も引かなかった俺にあちらが折れ、質素なんて言葉を付けなくても、当分遊んで暮らせるだけの金を手に入れた。


「約束を反故にするような国には居られないな」


 そうこぼしたのが効いたかもしれない。

 暗にこの国を出てあちらに就く。そう捉えたエルベキア軍は顔面蒼白になった。味方なら頼もしい守護神でも、敵側に就いたならそれは正に悪魔だろう。おそらくは暗殺計画なども持ち上がったのではないだろうか? それならばそれでいい。気兼ねなくカルドニアに行くことができるし、容赦もしない。暗殺を振り切り国外脱出をする自信はあった。

 結果的に報酬が支払われたので俺はエルベキアに残った。

 最終的には当時の大戦はエルベキア側の有利な形で休戦協定が結ばれたので、勝ちと言える内容だったが、今だ国境間では緊張状態が続いており、いつまた開戦するのかわからない状態だ。




「傭兵としてでも構いません。軍に加わってもらえませんか?」


 昔を思い出していたところを元帥に現実に呼び戻される。傭兵という単語に隣に座っていた財務大臣の顔に緊張が走った。例の一件から俺を説得する時には、財務大臣自らが必ず交渉の席に就くようになった。また無茶な報酬を吹っ掛けられるのを恐れたためだろうが、俺から言わせれば報酬分の仕事はこなしていると思っている。

 まあ、しかし。


「だから、前にも言っただろう。金はもう十分ある。戦争に参加する気はない」


 どういうわけか、俺は周囲からバトルジャンキーのようにみられている節がある。売られた喧嘩は買うし、売ってきたやつにはきっちり後悔させてやるが、自ら進んで事を起こしたことはそれほどないのだが、謎だ。


「では、名誉はどうですかな。こちらとしては爵位と領地を与える準備を整えているのですが」

「お待ちください。元帥。今爵位を与えると? この男を貴族にするというのですか?」


 元帥の話をまた若い男が中断した。元帥は一瞬眉をひそめたがうなずく。


「ばかな! 我らを前にこんな態度をとる男を貴族ですと? 正気ではありませんぞ」

「ちょっと、そんな言い方はないんじゃないですか? まあ、態度があれなのは謝りますけど」

「使用人が口を挟むことではない!」


 口を出したミラに男が一喝した。ミラは口をへの字に曲げたが、頭を下げ、一歩下がった。


「おい。うちのメイドにちょっかい出すなら帰ってくれるか」

「黙れ。貴様に貴族などふさわしくはない」

「なる気ねーし」

「そもそも元帥が直々にお誘いしておられるのだぞ。その態度はなんだ!」

「止めないか!」

「げ、元帥」


 さらにヒートアップしかけた男を元帥が止める。男はなぜ自分の方が止められたのか理解できないといった様子だ。


「申し訳ないスティーグ殿。この男、アドルフは若手の優良株なのです。特に剣の腕ならば我軍一、二を争うほどの実力者でしてな。私がスティーグ殿の話をする機会があり、ぜひ会いたいというので連れてきたのですが」

「はっ! 要は拗ねてるんだろうが」

「き、貴様!!」

「よさないかアドルフ」

「貴様は力があるのだろう? ならば、それを弱き者のために使え! ノブレス・オブ・リージュ。貴様にはその精神が欠けている!」


 力は弱き人の為に、民の為に使いなさい。


「ふざけんな!!」


 俺が激昂した為、周りが静まり返った。


「何故、力がある者は戦わなくてはならない! 安穏と生きている人間がいる横で、何故命をかけなければならない! 力の犠牲になる為に、人間は生まれてきたんじゃねえ!!」


 しん、と。場が静まり返った。

 あ・・・つい熱くなってしまった。俺はあえておどけて言葉を続けた。


「はっ! 力ある者の義務、か? 冗談じゃないね。力のある者は無償で誰かを助けないといけないのか? 力なんて関係ないだろう。力のない奴は決まってこういうぜ。『お前が助けろ。お前には力があるんだから』ってな」

「スティーグ・・・?」


 ミラが様子を窺うように俺を見ている。らしくない。そう思っているのだろう。確かに俺らしくはなかったかもな。


「俺を誘うよりさ。国からもっと志願兵を募れよ。今の安穏な生活を手放して、兵として死地に出て戦えってな。はっ! いくらでも集まるだろうよ」

「・・・貴様。それは実際集まった志願兵に対する侮辱だぞ。取り消せ」

「やだね」


 アドルフと言われた男は自分のつけている手袋を取り出し、俺に投げつけた。


「貴様に決闘を申し込む」

「アドルフ!」

「どうか止めないでいただきたい」

「やめろ。この人は、この人とは闘ってはいけない」

「どうだ。受けるか!」


 元帥の制止を振り切り、俺を睨みつけるアドルフ。

 あーあ。面倒なことになったなぁ。


「断る」

「騎士としての誇りがないのか!」

「騎士じゃねーし。そもそも確か決闘って同じ階級の人間同士でやるもんだろ。俺平民だし」

「屁理屈抜かすな。私と戦え!」

「おたく。親戚にドラゴンとかいない? 思考回路が似てる」

「ふざけるなーーーーーー!!」


 はあ、面倒くさいな。


「おさまりつかねーな。どうしてこうなった?」

「完全に自業自得よ」


 ミラは呆れてため息をついた。

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