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シャルロッテVSセリス

 自分たちの試合が終ったので、クレアとステラが貴賓室へとやってきた。


「どうっすか。先生あたしの試合?」


 ステラが自慢げにニヤケながら俺に聞いてくる。


「ふん。相手があれじゃあ自慢にもならねーよ」

「え~そんな~。たまには褒めてくださいよ~」


 クレアが苦笑しながら見守る中、なんとか俺に褒めてもらおうとすり寄ってくるステラ。

 ええい、鬱陶しい。

 まあ、こいつの遊び心がうまく戦闘スタイルにマッチしたのは面白いと思ったが、それは言わないでおく。こいつはまたすぐに調子に乗るからな。


「先生。いよいよですね」


 クレアは少し緊張をはらんだ声をしていた。

 ステラも真顔に戻る。

 競技場に向ける二人の視線はあるいは自分たちの試合の時よりも真剣かもしれない。

 今日はずっとつまらん試合ばかりだったんだ。少しは楽しませてくれよ。




*******




 セリスは目を瞑って入場口の前に立っていた。

 この先にはシャルロッテが待っている。

 これまでの訓練を思い出す。

 辛くも楽しかった日々。

 この試合で自分の進化を確かめる。


 勝つ。


 勝つ。


「勝つよ」






『さてさて、皆さまお待たせいたしました。本日、もっとも期待されているカード。なんと両者共に特別クラス。魔法使いのシャルロッテ選手とモンクのセリス選手です』


 シャルロッテとセリスが競技場中央に向かい合う。

 二人共気合が乗っている表情をしている。


「ついにこの時が来ましたわね」

「わくわくする」

「もし手加減をしたら」

「絶交」


『両者早くも熱い火花を散らしております。もうわたしも我慢ができませ~ん! それでは始めてもらいましょう。試合始め!!』


「いきます!」


 シャルロッテがまずは先手を打つ。

 詠唱破棄で得意の氷の槍を作り出す。その数、数本。呪文を唱え一、二本しか出せなかった以前とは比べ物にならない。

 対し、セリスはこの氷の槍を見事に躱し、セリスとの距離を縮めようとする。


「ならば!」


 シャルロッテはさらに氷の槍を生成。その数十数本。

 セリスは一瞬たじろぐ。


「だ、出し過ぎ」


 これはさすがに全弾は躱せない。いくつかは鉄甲でガードして攻撃を凌ぐ。その間にシャルロッテは再びセリスとの距離を開けた。

 魔法使いのシャルロッテとしてはなんとか自分の距離であるロングレンジで戦いたいところだろう。


『す、すごいすごい。なんだあの魔法は! 一瞬で氷を作り出しましたシャルロッテ選手。あれは詠唱破棄かぁ!?』


「詠唱破棄? なんで二年が使えるんだ?」

「馬鹿。問題はそこじゃないよ。見たか今の、十数本の氷を生成したぞ。あんなのできる魔法使いは三年にもいないよ」

「あのセリスって子もやるな。あのダッシュ力は相当走りこんでるぞ」

「体捌きも見事だった。普通はあれで決まってるよな」


 今の攻防で場内は大いに沸いた。

 これまでの試合とはレベルが違うからな。

 ここにいるクレアとステラの試合は一方的だったし。


「やっぱり、セリスのダッシュ力はすごいっすね。あたしももう少し走りこむかな?」

「あたし達はどうしても近距離戦を想定して見ちゃうからね。シャルロッテさんにとってあのダッシュ力を持つセリスさんはある意味最悪の相性だよ」


 ステラとクレアがそれぞれ今の攻防の感想を呟く。

 手数の多さや、横の動きはステラの方が速いが、直線のダッシュ力ならばセリスが上を行く。

 さっきは攻撃したシャルロッテが一本取った形だが、セリスのダッシュ力ならいずれ捕まる。

 さて、どうする?


「ならばこれはどうです! 風の刃よ!」


 シャルロッテは簡易的な詠唱を唱え、風の刃を作り出した。

 魔力を帯びた風の刃は不可視ではないがそれでも相当に避けにくい。

 先ほどの氷の槍は小さな動きで躱していたセリスであるが、今度は余裕をもって大きく躱す。その分、躱すことに精いっぱいでシャルロッテとの距離を縮められない。


「っつ! 根性」


 らちが明かないと考えたか、セリスは両腕をクロスさせ小刻みにダッキングしながら前に突進した。

 いくつかの風の刃がセリスの腕に当たる。しかし、保護の効いているこの会場では切り裂くまでには至らない。鞭で叩かれたようなミミズ腫れになったが、構わず前に出る。


「ご、強引な! 大地よ」


 風の刃では止まらないと悟ったシャルロッテは足元をトンと踏み鳴らす。

 地面が盛り上がり、岩の壁を作り出そうとしたのだろう。

 だが、今回はセリスの踏み込みが一歩勝った。壁が生成されるよりも早く、少し盛り上がった地面を飛び越えシャルロッテに迫る。


 ドス!!


「ぐっ! ぶ、ブーストぉ!!」


 セリスの拳がシャルロッテの胸にめり込んだ。たまらず、シャルロッテは身体強化魔法を使い、後方に離脱。追撃しようとしたセリスを氷の槍で足止めし、踏み止まらせる。

 シャルロッテが得意としているのは、火や氷といった熱量を操作する魔法だ。

 それ以外の魔法は今だ、初歩の魔法でも簡易的な詠唱が必要だし、生成に一瞬のタイムラグがある。そこを突かれた形だ。


『せ、セリス選手の拳がクリーンヒット! シャルロッテ選手苦しそうだ。まだやれるのか!?』


「ごほ、ごほ! む、胸の形が崩れたらどうしてくれますの?」


 痛みを堪えながら強がるシャルロッテ。

 確かに同じ女としてとっさとはいえ、胸を攻撃したのは申し訳ないと思ったのか、神妙な顔をするセリス。しかし、それも一瞬の事。


「・・・崩れるほど、ない」

「あなたに言われたくありませんわ!!」


 残念胸と絶望胸の寂しい舌戦が繰り広げられる。

 ケケ、なかなか笑えるな、けどまだまだ、こんなもんじゃないだろ。お前ら?

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