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来訪者

 ドラゴンを討伐した翌日。

  俺は自宅でゆったりと茶を啜っていた。

 自宅は街から少し離れたところにある一軒家だ。それほど広いわけではないが、気ままな一人暮らしだ。気にすることでもない。

 もっとも今は一人って訳じゃない。

 俺の隣には茶を入れてくれた人物がいた。


「茶葉が開ききっていない。蒸し時間が足りない。50点だ」

「もう。せっかく入れてあげてるのに、ありがたく思いなさいよね」


 俺に対して物おじせずに偉そうに話すこの女はミラという。身に纏っている服はメイド服。セミロングまで伸ばした赤毛と、大きな瞳が特徴の娘だ。

 ある時、俺の家にやってきて、頼んでもいないのに俺の周りの世話を焼き始めたので、どうせならとメイド服を着せてみた。最初は「なんでよー!」とか言っていたのだが、今では気に入っているようだ。

 昼はカフェでバイトをしていて中々評判の看板娘である。


「お前が家に押しかけてきてそろそろ半年か?」

「押しかけるって・・・もっと言い方ないわけ?」

「ふん。それなのに茶一杯、満足に入れられないのか? 料理のスキルが今一つ上がらないなお前は」

「うるさいわね! り、料理はこれまであんまりしてこなかったから・・・」

「それなのに俺の世話をしてやるって息巻いてきたのか? メイド服まで来て」

「この服はあんたが着せたんでしょうが!」


 いつものようにすぐ声を荒げて喚きだすミラ。そんなミラが何かに気づいたように窓の方を見る。


「スティーグ。高そうな馬車がこっちにくるわ」

「あっそ」

「身なりの良さそうな人たちが乗っているみたい」

「あっそ」

「この家に来るみたい」

「追い返せ」


 俺は即座にミラに命じた。

 上流階級の人間が俺に用?

 面倒な予感しかしない。先日のドラゴンの件かもしれないな。あれは正当防衛でこっちは被害者なんだが。もしそれで何か言われたら、経緯をしっかり伝えねばなるまい。

 ノックがした。俺はきっちり追い返せと言ったのに、玄関から戻ってきたミラは外の連中をリビングに招き入れてしまった。

 ミラに非難の視線を送ったが、ミラは素知らぬ顔だ。

 入ってきたのは四人。

 そのうちの二人は知っていた。

 一人はこの国の軍事の長。ラーゼン元帥。いかにも軍人といった雰囲気を纏った男だが、そろそろ髪が怪しい。

 もう一人は財務大臣だ。あまり日に当たっていないのか、白い肌で痩せている男だ。俺はどうにもこいつが気に入らない。蛇の様な目をして、俺を睨んでいるからである。

 あとの二人はまるで知らない顔だった。

 一人はモノクルをつけた学者風の男。財務大臣とは別種だろうが、こっちも机仕事だろうか。

 最後の男は他の三人よりもずっと若い。他の三人はどれも四十を超えているだろうが、こいつだけはおそらく三十前半。白髪も交じっていない。服は豪華で貴族がよく着ているようなきんぴかの服で、その上からでもわかる隆起した筋肉と鋭い眼光が、こいつも軍人であることを物語っていた。


「スティーグ殿お久しぶりですな」

「何しに来た?」


 入れてしまったものは仕方がないので、リビングのソファーに座らせ、ミラには不味い茶を出すように言いつけた後、仕方なく用件を聞いた。

 ひどく気が進まない会話なので、俺はダレきっていた。向かいのソファーに腰掛け、足はだらしなく机の上に乗せ、完全にくつろぎモードに入っている。

 若い男(俺の方が若いけど)は俺の態度に何か言いたげであったが、おそらく上司である元帥が何も言わないので、眉間にしわを寄せながらも黙っていた。


「聞きましたぞスティーグ殿。ドラゴンを討伐されたと」

「やっぱりその話か」


 元帥は早速本題に入ってきた。

 なんといっても戦ったのが町中だったからな。目撃情報はわんさかいただろうし。


「言っておくが俺は被害者だぞ? 直接の被害も出ていないだろう?」

「いえいえ。咎めに来たわけではありません。さすがですな」

「大したことはない」

「古代竜を倒してそんな風に言えるのはあなたぐらいのものです。ちなみに、いくつもの商会や冒険者ギルドが、倒したドラゴンの素材の所有権をめぐって話し合っておりましてな。放置しているようですが、あれはそのままにしておくつもりですかな?」


 そうか。考えもしなかったな。ドラゴンの素材はどの部位であっても貴重だ。捨てるところなしと言われている。それも古代竜が丸々一頭となると、とんでもない額が動くに違いない。


「任せる。好きにしてもらって構わないと伝えてくれ」

「よろしいのですか?」


 俺には貯金がたんまりとある。

 本来であれば大騒ぎする様な大金が手に入るが、今は必要ない。

 金ってやつはあればあるほどに欲しくなり、落ち着かなくなる。

 程ほどが良いのだ。


「構わないさ」

「町も潤うでしょう」

「ふん。そうゆうことならたっぷり恩に着せておくさ。話は終わりか? じゃあ帰れ」

「貴様!!」


 先ほどから俺に物言いたげだった若い男が、とうとう声を荒げた。しかし、元帥が素早く手で制したので、しぶしぶ引き下がった。


「申し訳ありませんな」

「気にするな。よくあることだ。で? まだ何かあるか?」

「単刀直入に言いましょう。その武力、我々にお貸しいただきたい」

「またその話か・・・」


 やはり面倒な話になった。俺はさらにソファーに体を埋める。

 これまでにも何度もあったのだ、この手の話は。

 それなのにこいつらはいくら断っても性懲りもなく期間を開けてやってくる。正直うんざりだった。


「キリューズ城塞都市の防衛戦。国を脅かした吸血鬼、それも真祖の討伐。そして先の大戦での活躍。他にも噂話などを加味すると、あなたの武勇伝は枚挙に暇がない。どうか、我が軍にその名を連ねて頂きたい」


 俺は頭をガシガシ掻きながら答えた。


「キリューズに旅先で立ち寄ってな。その時たまたま隣の国がちょっかいかけてきたから力を貸しただけだ。あのスケベ吸血鬼野郎はいい女を百人は眷属にしちまった。それに、このミラにも手を出そうとしやがった」


 ちょうど茶を入れてきたミラは話を聞いて、うつむいて苦い顔をした。

 当時、ミラは俺の馴染みのカフェの看板娘だった。

 俺とも親しくしていたミラにある時、相談を持ちかけられた。

 巷で騒がれている吸血鬼に今晩、迎えに行くという手紙が届いたと。

 知らぬ中でもないし、これ以上美人がいなくなるのは人類の損失だ。俺は協力を申し入れ、吸血鬼を討伐した。真祖だとは思わなかったが。

 真祖は吸血鬼の中でも特別な存在だ。並みの吸血鬼とは大人と子供、いや、それ以上の開きがある。

 先日のようなドラゴンとの戦いみたいに、力押し一辺倒では倒せずに手を焼いた。

 それ以後、何故かミラはカフェの仕事を辞め、街から離れた俺の家に通い詰めている。

 とはいえ、それでは生計が保てないので、昼間だけはカフェで働いているが。


「し、しかし、先の大戦はスティーグ殿が志願して参戦されたはずです」

「あー、確かになぁ」


 ふと、思い浮かべる。

 以前参加した大戦の事を。

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