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死闘。ドラゴンゾンビ

 シャルロッテの援護射撃を受けて、三人の前衛はドラゴンゾンビに突進した。


「はああ!!」


 クレアが大剣を振り回す。

 大剣は対人戦よりもむしろ大型のモンスターと相性がいい。

 ドラゴンの鱗は非常に硬いが、こいつはドラゴンゾンビ。肉質が変化している。重量のあるこの大剣ならば。


 ざくぅ!


「通る!」


 わずかではあるが剣は確かにドラゴンの鱗を弾き、肉を切り裂いた。


「こぉぉぉぉ」


 セリスが息吹を吐く。

 体がぼんやりと光り始め、徐々にそれが拳に集まっていく。

 そう。セリスはただの武闘家ではなくモンク。実家の教会から聖なる加護を受けている。対人戦ではあまり意味をなさないが、相手がアンデットであるドラゴンゾンビなら?


「はぁ!」


 裂帛と共に突き出された拳がドラゴンにめり込む。ジュウと焼くような音が聞こえ、ドラゴンゾンビの体に確かなダメージを与える。


 「ぐぎゃーーー!」


 ドラゴンゾンビが堪らず悲鳴を上げる。


「ああん。なんだよ。これじゃあ、あたしが一番火力不足じゃんか!」


 ステラは愚痴りながらもドラゴンの足を切りつける。

 しかし、さすがにただのダガーではドラゴンの鱗を切り裂くことができず、極薄い跡が残るだけだ。


「なら!」


 ステラは持ち前の身軽さで器用に飛び回り、ドラゴンゾンビが状態を低くした時を狙って翼の被膜を狙う。


 ざく!


 浅いが確かに翼を傷つけた。


「よし。ここなら少しは通る」


 ステラは更にジャンプして翼を狙おうとするが。


「ステラ! 不用意に跳び上がるな」


 俺の忠告も空しく跳び上がって身動きが取れなくなってしまったステラを目掛け、虫を叩き落とすように、ドラゴンゾンビが腕で叩く。


「う、うああああああああ!!」


 叩かれたステラはそのまま地面に叩きつけられそうになるが――


 ふわり、と。


「あ、あれ?」


 俺の風の魔法がステラを包み込み、緩やかに地面に着地させる。


「先生!」

「お前はすぐに調子に乗る。何度も同じ攻撃を単調に繰り返すな」

「は、はい!」


 ダメージを確認し、深く傷を負ってないことを確かめるや、ステラは再びドラゴンゾンビに突貫する。

 ジグザグに動き回り、ドラゴンゾンビの注意を引こうとしているのだ。


「こうなりゃ、囮にでもなってやる!」


 ステラが動き回っている今も他の三人は攻撃を続ける。

 ドラゴンゾンビはステラを鬱陶しそうにしながら踏みつけようとするが、回避に専念しているステラは難なく避ける。

 他の面々は隙ができたドラゴンゾンビに徐々にダメージを与えている。

 しかし。

 ドラゴンゾンビもただやられているばかりではない、体をぐるりと回し、尻尾を鞭のようにしならせ、前衛三人を弾き飛ばす。


「「「きゃーーーーーーーー!!」」」

「みなさん。大丈夫ですの!?」


 シャルロッテが魔法で牽制しつつ、三人に駆け寄る。


「い、たったた~」


 これが大型モンスターだ。どれだけ、こちらが攻撃を与え、徐々にではあるがダメージを蓄積させても、一撃でチャラにしてしまう。

 それに立ち向かうには純粋な戦闘能力だけでなく、諦めることのない不屈の闘志が必要だ。

 ここで心が折れるようであれば――


「うん。大丈夫。打撲程度だよ」

「いけるっすよ」

「・・・まだまだ」


 三人は立ち上がり、再び構える。


「はっ!」


 俺はまた笑ってしまう。そうか、まだやるか。

 シャルロッテが牽制で炎の魔法を放つ。

 三人は再び前に出た。

 ドラゴンゾンビは鬱陶しそうに、再び尻尾パンチを繰り出す。


「そう何度も!」


 三人は間合いを開け、今度は尻尾を躱す。

 敵の攻撃に注意しながら再びこちらの攻撃を再開した。

 しばらく膠着状態が続く。こちらは攻撃を続けているも、ドラゴンゾンビはなかなか倒れない。

 ドラゴンゾンビも攻撃を繰り出すが、注意深く観察している四人にはなかなか攻撃を当てることができなかった。

 ふと、ドラゴンゾンビが後退を始めた。


「効いてる?」


 希望的観測をするクレア。しかし、それは誤りだ。

 後退し、全員が射程に入ることを確認したドラゴンゾンビは大きく息を吸う。


「ブレス!!」


 洞窟で逃げ場のない中、吐き出されたブレスが全員を巻き込む!


「「「「きゃーーーーーーーーーー・・・ぁぁああ?」」」」


 しかし、ブレスが四人を焼き尽くすことは決してない。

 俺の作り出した風の結界が、隙間なく、淀みなく全員を包んでいるのだから。


「「「「先生!」」」」

「ぼさっとするな! 奴はブレスを吐き出して息切れしているぞ。畳み掛けろ」

「「「「はい!」」」」


 前衛三人は突貫する。


「みなさん。足を集中攻撃してください!」


 シャルロッテの指示を受け、三人は足を狙う。

 火力の足りないステラだが、クレアが付けてくれた傷口を狙い、ここぞとばかりにがむしゃらに切りまくる。

 セリスも攻撃の手を休めない。


「離れて二人とも。はぁあああああ!!!」


 二人が離れるのを確認し、傷つけ続けた足首をクレアの大剣がフルスイング。足首を切断した。


「がああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 悲鳴を上げ、ドラゴンゾンビが前のめりに倒れる。

 そこに――


「今!!」


 シャルロッテが溜めに溜めた大火球を崩れ落ちてきたドラゴンゾンビの顔面に叩きこんだ。


 ドッオオオオオオオオオオオオオン!!


 ドラゴンゾンビの顔が崩れ落ち、沈黙した。


「や」

「「「「やったーーーーーーー!!!」」」」

「勝った! 勝ったよぉ」

「やりました。ドラゴンゾンビを倒しました!」

「ドラゴンゾンビって上級の冒険者がパーティー組んで倒すくらいの大物っすよ」

「や、やったーー!!」


 珍しくセリスも大声で喜ぶ。

 まあ、これはそれだけの大金星だな。

 このまま、終わればだが、な。


 みちみち・・・


「「「「え?」」」」


 頭を失ってなお、ドラゴンゾンビはゆっくりと起き上がり、最後の力を振り絞って、自分を倒した人間を押しつぶそうと倒れこんでくる。


「「「「うそーーーーーーーーーーー!!!」」」」


「・・・はぁ」


 どっぱーーーーーん!


 生徒達目掛けて倒れるドラゴンゾンビを俺は横合いから蹴り飛ばした。

 超重量が宙に舞う。


「「「「え?」」」」


 俺はため息をして首を振る。


「やれやれ、詰めが甘いな。アンデットがその程度で止まる筈がないだろうが」


 首だけ後ろを向け、馬鹿生徒達を半眼で睨む。

 四人はパクパクと口を動かし目を丸くしている。

 重い音を立てて地面へと倒れたドラゴンゾンビは、再び立ち上がろうと体をゆする。俺はニヤリと笑ってダーウィンスレイブを抜き、ドラゴンゾンビを睨む。


「よぉ、うちの生徒共の修行相手になってくれてありがとうな」


 首が無くなろうと、戦意はまるで衰えていないようで、今度は俺を押しつぶそうと倒れこむ。


「生前は力のあるドラゴンだったろうにな。せめてもの手向けだ。食らいな」


 ダーヴィンスレイブを振りかぶると剣から黒い光が溢れ出す。

 渦巻く力の奔流。

 洞窟が振動し、上から小さな石のかけらがパラパラと落ちてくる。


「「「「あわわわわわわ!!!!」」」」


「じゃあな!」


 剣から放たれる黒い斬撃。それがドラゴンゾンビを一刀両断にする。

 ついでだ。

 手がかすむ程度に剣を振り回し、ドラゴンゾンビは原形を留めずに八つ裂きに分解されていく。

 事が終わり。ぱんぱんと手をはたき。剣を収めた俺は四人にガンを飛ばす。


「詰めが甘い!」

「「「「な、なななな」」」」

「なんなんですかその剣! 武器屋の娘として気になります!!」

「今、ドラゴンゾンビを蹴りでふっ飛ばしましたわよねぇ!?」

「先生。いくらなんでも無茶苦茶でしょーーーー!!」

「・・・規格外すぎる」


 俺に詰め寄り、まくし立てる四人。

 しかし、今はそんなことはどうでもいい。


「うっさいわ! お前ら最後の最後でつめが甘いんだよ。相手はドラゴンゾンビだぞ。その本質はもう竜じゃなくてアンデットだ。頭がなくなったくらいで止まる訳ないだろうが!!」

「「「「う」」」」


 せっかく上級クエストをクリアしたというのに説教を食らい、しょぼくれる四人。


「そもそもだ。俺がブレスを防がなけりゃ、お前らあの時点で全滅だぞ。自分達だけで討伐できたわけじゃないんだよ」


 しょぼーーーーーーーーーーん・・・・・・・・・


「はぁ。まあ、あれが出てきても戦意を失わず、冷静に対処できたことだけは褒めてやる・・・」


 途端、四人は俯いた顔を上げ、笑顔で微笑み涙ぐみ始める。調子のいい奴らだ。


「俺がいたから気が大きくなっていたのもあるんだろうが、お前らだけならあんなのが出てきたら即撤退だ。わかったか!」

「「「「はーーーい」」」」


 ち。こんな笑顔じゃ説教になりゃしねぇ。

 ん?

 俺はドラゴンゾンビの肉片の中から光るものを発見した。

 

「これは?」


 拾い上げてみると、それは非常に珍しいドラゴンの素材。


「ドラゴンオーブ」


 売れば一攫千金の超極上のレアアイテムだ。

 こんなのを落とすなんて、生前はかなり力のあるドラゴンだったのだろうな。


「先生。なんですかそれ?」

「ケケ。ちょっとした臨時収入だ」

「お宝! お宝っすか。山わけですよ先生」


 ステアが今日一番の笑顔で目を輝かせる。しかし、こいつらにはちょっと過ぎた報酬だな。


「しょうがねーな。今度ご褒美をやる。もう外は日が暮れてるぞ。今日は帰るぞ」


 こうして、特別クラスの初の課外授業は幕を閉じた。

 思わぬアクシデントに見舞われたが、まあ、終わりよければなんとやら。

 こいつらにとっては貴重な経験となっただろう。

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