予期せぬ遭遇
それからは四人の快進撃が始まった。
元々ゴブリンやスライムしかいないはずのダンジョンだ。
警戒を怠らなければ、こいつらがそもそも苦戦する難易度ではない。
それだけの鍛え方はしている。
宝箱発見以降もモンスターは何匹も現れたが、四人は連携を取り、慎重に確実にモンスターを屠り、探索を続けていった。
そして、通算五度目の宝箱を開けた。
「これまでの成果は?」
「やくそう×三。どくけし草一。銅貨三枚っす」
なんともしょぼい成果である。
最初の内ははしゃいでいたステラだったが、獲得する毎に意気消沈していく。
ダンジョンもそろそろ終わりが見えてきたかに思えた時。俺は奥からこれまでここでは感じたことのないプレッシャーを感じた。
・・・嫌な予感がするな。
「さて、そろそろ戻るか」
「まだ、奥があるみたいですけど?」
とっとと帰還した方がいいと思って言ったのだが、クレアが奥を見て訝しむ。
「太陽がないからわからないかもしれないが、そろそろ戻らないと日暮れまでに帰れんぞ」
「え、もうそんな時間ですの?」
シャルロッテが驚く。洞窟内では時間の感覚が掴みづらい。注意しなければならない事柄だ。
ずん。
今度は音が聞こえてきた。
この奥からだ。
「俺はさっさと帰って寝たいんだ。この後も馬車を運転しないといけないんだぞ」
ずん。
「でも、こういうのってお約束があるじゃないっすか。最深部には結構レアなお宝が」
ずん。
「ねーよ。こんなしょぼダンジョンに。さっさと帰るぞ」
殊更に帰ろうと強調する俺に、ステラは何かを感じた様だ。
しまったな。不自然になってしまったか。
ずん。
「先生? なんか聞こえないっすか?」
ずん。
くそ、ステラの奴。無駄に耳が良い。
そして、その時を迎えた。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーー!!!!」
洞窟の奥からとんでもなく大きな咆哮が響いた。
「な、なに!?」
ずん、ずん、ずんと巨体が移動して来る。音がどんどん近くなってきた。
俺は松明を奥に投げ、奥を照らす。
割と高くて広い洞窟内であっても天井ぎりぎりに巨体がその姿を現した。
「ドラゴンゾンビ・・・」
ドラゴンのなれの果て。
アンデットと化したドラゴンが死肉を揺らして現れた。
チィ! 死せるドラゴンが理を外れ、低級しか通れないダンジョンの扉を無理やりこじ開けてきやがったか。
やっぱりこういう事があるんだよ。もっと真面目に調査しやがれ。
今のこいつらには荷が勝ちすぎている。
上級冒険者が対処するレベルのモンスターだ。
俺は即座に撤退を呼びかけようとした時――
ボン!!
シャルロッテの放った炎がドラゴンゾンビに直撃した。
「みんな。落ち着いて隊列を組んで!」
クレアの呼びかけで前衛三人は武器を引き抜き構える。
俺は正直驚いた。
仮に中堅クラスの冒険者でも、不測の事態に取り乱すというのに。
こいつらは戦るつもりだ。
この強大な敵に。
こいつらに俺は確かに言った。
ここを初心者コースと思うなと。
思考を止めず考え続けろと。
この四人は俺の教えを忠実に守り、自分にできることを実践しようとしているのだ。
「はっ」
自然。俺は自分がにやりと笑っていることに気が付く。
こいつらに対し、初めて心から感心した。
正直に言って俺はこいつらを、それ程鍛えるつもりはなかった。
生徒のレベルのちょい上くらいまで鍛えてやれば十分だと、そう思っていた。
だが、気が変わった。俺はガラにもなく、教師らしく指導意欲が湧いてきた。
あくまでこいつらが望むのならばだが、更に上のレベルまで引き上げてやる。
だったら、お前らでこのドラゴンゾンビを相手に戦って見せろ!