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エリック行動に移す

 アティシアの事件が無事解決した日から、三日が経った。

 エリックの私室には現在二人の男性がいた。

 部屋の主であるエリックと、共謀者のカッカリコである。

 長テーブルに向かい合ってソファーで寝転ぶエリックとは対照的に、カッカリコは落ち着かない様子でソファーに腰を下ろし、ハンカチで額をぬぐっていた。


「で、いつになったらあの平民を連れてくるのだ?」


 肘枕をしながら、エリックはカッカリコを問いただした。

 カッカリコは視線を合わせようとせずに、しどろもどろで答えた。


「は、手を尽くしてはいるのですが、あのスティーグという男、腕っぷしだけではなく、それなりに頭も回るようでして」

「フン。平民の知恵などたかが知れているだろう」

「それにリセリア姫とラーゼン元帥なども、こちらの動きを探っているようです。あまり派手に動く事ができずに」


 一応、仕組んだすべての事件は、何人もの人間を通して自分達までたどり着けない様にはしてある。

 だが、これ以上、派手に動く事は避けるべきだ。

 少なくともしばらくは大人しくしていた方がいいとカッカリコは考えていた。


「チィ! 全く忌々しい。呪われた妹に父上の腰巾着めが!」


 エリックはガリっと自分の爪を噛んだ。


「いっそ、あの平民が教職に就いているというのなら解任してしまえばよかろう。ついでに、奴の教え子とやらも退学にしてしまえ」


 エリックはカッカリコの気苦労などお構いなしに、無理難題を言ってくる。


「それは難しいかと。あの学園は軍の直轄です。私の力は及びませんし、殿下が強権を振るえば国王の耳にも届くことでしょう」

「くぅ。何故父上は平民などに気を許すのか!」


 エリックのアーデル王に対する感情は複雑だ。

 認めてもらいたい気持ちはある。

 だが、そもそも、母の死の一番の原因はアーデル王が平民などを側室にしたからだ。

 その上、このところ口を開けば、『態度を改めろ』だの『国民に心を砕け』だのと、全く意味不明な事をのたまうばかりである。


「もうよい。そもそもこの様な回りくどい方法など私の好むところではない。我が騎士団を使い、あの無礼者を亡き者にしてくれるわ!」


 エリックの言う騎士団とは軍とは独立した王族直属の近衛騎士団である。

 当然、その実力はエルベキア最高峰。エリート中のエリート集団だ。

 その中で、更にエリックは自分と思想を同じくした者(貴族至上主義)を集めて騎士団を結成した。

 それがエリックの言う騎士団、通称『プリンスナイツ』である。


「で、殿下!? それは・・・」

「案ずるなサイオン卿。我が騎士団は私に絶対の忠誠を誓っている。父上の耳に入ることはあるまいよ」


 エリックはカッカリコが情報を洩れることを危惧していると勘違いしたようだが、それは違った。


「いえ、あの者に力で挑むのは危険であると具申致します」


 エリックは不快感を露にし、眉を吊り上げた。


「ほぉ。では卿はこう言うのか? 我が騎士団がたった一人の平民に劣ると?」

「そうは申しません。しかし・・・」


 エリックはカッカリコを鼻で笑った。


「臆病だな卿は。まあ、気持ちは解らぬでもない。あの者は平民にしてはそれなりに武勲を立てたようだからな。だが、兎角戦では噂に尾ひれがつくもの。あやつの評価も偶像であろうよ」

「・・・は」


 お前は戦の何を知っているのかとカッカリコは心の中でツッコんだ。

 エリックは戦に参加したことがない。

 それどころか、病弱を理由に、王族に生まれた男子の義務である剣の稽古もほとんどしたことがなかった。

 まあ、それはともかくとして、カッカリコは別にエリックの様に、平民が貴族よりも身体能力で劣っているとは思わない。しかし、噂話云々はエリックに同意見であった。スティーグの評判はそれほどまでに常識はずれであったからだ。


「これは決定である。異論はあるまいな?」

「御意のままに」


 カッカリコはうやうやしく首を垂れた。


(とはいえ、やはり保険はかけておかなければならぬだろうな)


 カッカリコは人知れずそう決意したのだった。




**************


 さっそくプリンスナイツに指示を出すべく、エリックは王宮内を闊歩していた。

 その時、反対方向からこちらに歩いてくる人物と相対した。

 リセリアである。

 エリックの眉が吊り上がった。

 自分の立場を危うくする、平民の血が混ざった憎き妹。

 この先、必ず排除しなければならない相手である。

 そんな敵意をむき出しにするエリックを歯牙にもかけず、リセリアは優雅に挨拶を交わした。


「あら、お兄様。ごきげんよう」

「・・・お前と交わす挨拶などない」

「あら、残念ですわね。ところで」


 言葉とは裏腹に、全く残念と思っていない様子でリセリアは続ける。


「先ほどまでサイオン卿とご一緒だったご様子ですが、何を話していらしたのかしら?」

「!? お前のあずかり知るところではない」

「最近、妙に仲がよろしいですわね。それほど親しい間柄だったかしら?」

「関わるなと言っている!」


 見られていた。

 しかも、頻繁に会っていることも知られている。

 こちらの様子を窺っている可能性が脳裏をよぎり、エリックはひどく焦った。


「何をするつもりか存じませんが、自身の力を過信すると立場を危うくしますわよ」


 言うだけ言って冷笑を浮かべると、リセリアは歩き去ってしまった。

 エリックは歯ぎしりする。

 つい感情的になってしまうエリックは、口でリセリアに勝ったことがない。


「今に見ているがいい。私が神に選ばれた存在であることを思い知らせてくれる」


 エリックはそう呟くと、プリンスナイツの元へと向かった。




 リセリアは首だけわずかに横に向け、立ち去るエリックの足音を聞いていた。


「そんなに早足でどこに行くのバカ兄? いよいよ何かやらかすつもりね」


 リセリアは眉をひそめた。


「差し当たって、まずはお父様へ報告しておきましょうか。スティーグにも伝令を走らせて・・・」


 リセリアは頭の中で、どう動くべきか計画を練り上げていった。

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