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ダンジョン探索依頼

 ある日、俺は理事長室に呼び出された。

 俺を呼び出すとは太い野郎だ。ベネデット。

 といっても放課後までとくにやることのない俺は面倒ながらも足を運んだ。

 ノックなどしない。足でドアを蹴って部屋に入る。

 理事長室はいかにも“理事長室”といった風情の部屋だった。

 並べられて歴代理事長の絵画。表彰された大会優勝などのオブジェクト。そして、一人で使うにはかなり大きな机にベネデットは偉そうに座っていた。

 生意気にも後ろの窓からの日差しでベネデットへ後光がさしているかのように見える。

 イラっとした俺は、ニコニコ顔を浮かべるベネデットが座っているデスクには向かわずに、客用のソファーにどっさりと座り込んだ。

 暫く間の抜けた空気が流れた跡、いそいそとベネデットが俺の座るソファーの向かいに座った。

 気まずげにハンカチで額を撫でると、ベネデットは話を切りだした。


「お呼び立てして申し訳ありません。スティーグ先生」

「全くだ。用があるなら自分から来い」

「スティーグ先生は外部の人間を闘技場に入れてくれないじゃないですか」

「なら、終わるまで外で待っていろ」


 そう。俺は外部(俺とミラとアドルフ以外)の者を特別クラスの闘技場への出入りを禁止していた。

 こいつらの目的は解っている。

 俺の指導方針から、俺の強さの秘密を暴き、軍人の戦闘力を飛躍的に上昇させようというのがこいつらの狙いだということを。

 だが、俺の強さは修行によるものが全てではないので、どうしたって俺にはなれない。

 それが後ろめたいから訓練状況を見せないわけではなく、意地悪をしているわけではない(いや、これはちょっとある)俺がこいつらを入れない理由は至ってシンプルだ。

 それは生徒達が緊張して訓練に身が入らないから。

 俺にとってはどうということもないが、生徒達には理事長は学園のボス。

 どうしても緊張してしまう相手だ。

 それにこれを許すと今度は元帥などの軍部上層部の連中も見学に来るかもしれない。それを避けたかったのだ。


「せ、生徒達の様子はいかがですかな? その後の進捗は」

「まだまだ全然だめだが、まあ、最初よりはマシなんじゃねーの」

「そうですか。それはよかった」

「終わりか? じゃあな」

「いえ、本題はこれからです」


 めんどくさい奴だな。前振りがねーと話を始められないのかよ。


「実はこの学園の近くにダンジョンが発見されましてな」

「ダンジョン?」

「まだできて間もない若いダンジョンです。簡単に調べた限り、スライムやゴブリンしかおりません」

「で?」


 もう言いたいことは解っているが、一応先を促す。


「いかがでしょう。生徒達の実習もかねて、ダンジョン探索などは?」


 ダンジョン探索、ね。

 あいつらも徐々に戦いに慣れてきているが、やはり稽古は稽古。

 実戦に勝る経験はない。行かせるのは構わないが、こいつからの依頼ってのがな。


「何を企んでやがる狸爺?」

「企むなど、とんでもない」


 ベネデットは如何にも心外という風に首を振るが全く信用できない。

 推測できる狙いとしては、ダンジョンには攻略可能レベルが冒険者ギルド等によってランク付けされるので、ダンジョンのランクによってその者の力量をある程度把握できるわけだ。

 つまりはベネデットは訓練内容を非公開にされているのでハッキリ解らない生徒達の今の力量を測りたいのだろう。


「もちろん、万が一のことがあってはいけませんので、先生にも引率をお願いしたいのですが」

「ふ、ん。まあいいだろう。場所を詳しく教えろ」


 俺はダンジョン探索を引き受けることにした。


*****


 話が終わり、理事長室から出た後俺は適当に学園の中を散歩していた。

 闘技場は別校舎になり俺は本館には全くと言っていいほど出入りがないので、この機会にどんなものか見て回ろうかと思ったのだ。

 しかし、しばらくぶらぶらして、すぐに後悔する。考えてみれば学園なんて何かの催しでもない限り、外部の者が見て楽しいと思えるようなものはない。

 もうすぐ放課後になって、生徒達も帰宅するために廊下にあふれてくるだろう。そうなったら俺も注目されるだろうし、少し面倒だ。


「戻るか」


 闘技場の方に戻ろうかと思った時。


「これはこれはスティーグ先生ではないですか?」


 妙に髪がふさふさしている、年配の教師らしき人物が俺に話しかけてきた。


「どうですかな。特別クラスの生徒達の様子は? 私もねー、期待しているんですよぉ。噂では容姿で選んだとかバカバカしい話を聞きましたが、そんなことないですよね~? 我が国の英雄スティーグ先生なら立派に生徒達を導いてくれる。そうでしょう?」


 随分とねちっこい話し方をする奴だ。俺の嫌いなタイプだが、こいつは・・・


「誰だお前?」

「な! わ、わたしはこの学園の教頭のザンビエです!」

「ああ、確かにそんな感じだわ。教頭ってのはねちっこくて嫌らしいタイプがなるって法でもあるのかね」

「し、失礼な! あなたもこの学園にいる以上、教頭である私に少しは敬意を――」

「うっせえよハゲ」

「は、ハゲですと!!! し、ししし失礼な、私にはこの通り髪が」

「そうか? じゃあ、ちょっと引っ張ってみるか」

「!! ち、近づかないでください!」

「なんで?」

「わ、私の髪に触るなぁーー!」

「ハゲだから?」

「ち、ちがう」

「じゃあ、遠慮なく」


 俺が無造作に近づくと教頭は逃げ出そうとした。

 しかし、振り返る時に足をひねってすっころんでしまう。そして。


「「あ」」


 転んだ拍子にふさふさした髪が頭から離れ地面に転がる。そして教頭の頭皮は・・・


「いや、すまん。まさかつるっぱげとは思わなかったわ・・・」


 教頭の頭は髪が一本として生えていない見事なハゲだった。少しはあると思ったぞ。

 教頭は光の速さでふさふさを拾い上げると頭に装着し、俺を睨みつけた。


「だ、誰にも知られていない私の秘密を。許せんぞスティーグ! 覚えていろ。必ず後悔させてやる」


 俺を指さし、情けない捨て台詞を吐きながら教頭は走って行った。

 ・・・たぶん、公然の秘密と思うぞ?


 ひどくどうでもいいことに時間を費やした。さっさと戻るとしよう。

 すたすた歩いていき、廊下の曲がり角に差し掛かると誰かとぶつかりそうになる。


「あ、スティーグ」


 ミラだった。ここではミラのメイド服はかなり目立つが、それでも俺はこの服の着用をミラに義務付けていた。やはりメイドはいいものだ。


「おう。どうした?」

「そろそろ放課後になるのに、あなたが戻ってこないから心配になって」

「へぇ。俺を心配してくれたのか」

「何かやらかしてるんじゃないかって」


 何もしてないぞ。

 さっきの教頭は・・・あれは自爆だろう。


「もう戻るところだ」

「ん。行こう」


 二人はしばらく無言で廊下を歩いていたが、ミラが何気なく口を開く。


「あの子達どんどん強くなってるわね」

「まだまだだ」

「素人の私にも解るわ。動きとかが全然違ってきてるの」

「あいつらには元々それだけのポテンシャルがあったんだ。やり方を知らなかっただけでな」

(もしかして、あの子たちの選んだのは容姿とかじゃなくて・・・)

「あ? なんだよ」

「ううん。なーんでも」

「おい。引っ付いてくるな」

「いいじゃない。ふふ」


 なんだってんだ?

 まあいいか。今日もあいつらをしごいてやるかね。

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