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スティーグは料理が得意

 ある日、授業を終え、帰宅の準備をしていた時。

 ふと、ステラが俺に尋ねてきた。


「そういえば先生っていつも食事はどうしてるんすか?」


 その一言で四人の興味は俺の食事となった。


「ミラさんが作ってるとか?」

「え! いえ、その~・・・」

「いや、ミラは作れん。俺が自分で作る」

「「「「ええーー!?」」」」

「ミラさん作れないんすか?」

「そ、そんなことないわよ。いつもみんなにお茶入れてるでしょ?」

「聞いたかお前ら。料理を作れるかと聞かれて、お茶は入れられると答える。これがミラだ!」

「「「「あ」」」」 察し。

「な、なによー!!」


 ミラは料理が苦手だ。どうにも不器用で作った料理はいつも生焼けだったり、逆に焦げていたり。作るたびに味付けがバラバラだったりする。食べられない、という訳ではないが進んで食べたいとは思わない。だったら自分で作った方がいい。


「え。でもじゃあ。スティーグ先生は料理できるんですか?」


 クレアがさも意外という感じで聞いてきた。

 失礼な奴である。俺はムッとしながら答えてやる。


「料理くらい作れる。つーか割と好きな方だ」

「本当ですか!?」

「本当なのよこれが・・・」


 ミラは悔しそうに俺の料理の腕を認める。


「・・・意外」


 セリスの素朴な一言に他の三人も首肯する。

 おのれ、こいつら。


「よし。お前らそこまで言うならこれから俺の家に来い。飯を食わせてやる!!」

「「「「おおおーーーー」」」」

「ちょ、いいの?」

「お前も来いミラ。いつもこれくらい作れるってことをこいつらに説明しろ」


 こうして俺達は俺の家に向かうことになったのだった。

 ちなみにアドルフは気配を察したのか、さっさと帰ってしまったようだ。あの野郎。

 そういえば引っ越してきてから、家に誰かを入れるのはこれが初めてだな。

 俺の家はこの学園からほど近い場所に建てられた。もちろん通勤の利便性を考えてのことだ。


「先生と、そのミラさんは、どどどどど同棲をしているのでしょうか!!」


 シャルロッテが顔を真っ赤にして俺に詰め寄ってきた。

 なんだかこいつ本当に最近おかしいな。もう少し落ち着いたキャラだと思っていたんだが、最近は俺と話す時は妙にそわそわして視線を合わせようとしない。しかし、会話が嫌という訳では無いようだ。


「そ、そんなわけないでしょう!! 別々よ別々!」


 ミラは顔を赤くして否定する。それを聞いてシャルロッテなぜか胸をなで下ろしているようだった。


「俺は別にかまわないんだぜ。そん時は手取り足取りじっくりと教えて――」

「な、何言ってるのよ。バカー。バカー!」

「ふ、ふしだらです!」

「て、手取り足取りてとり、足取り・・・」

「えろえろっすね~」

「・・・えろす」


 ミラの家は俺の向かいにある。俺を起こしに来たり、まめに掃除したりしている。

 そんな話をしているうちに俺の家に到着した。

 俺の家は独り暮らしの家にしてはだいぶ大きい。軍の方で無理をしたのかもしれないが、知ったことではない。正直な話ミラがいてくれてとても助かっている。一人だととても掃除が行き届かないのだ。絶対にミラには言ってやらないが。


「ここがスティーグ先生の家ですか?」


 クレアが俺の家を見上げ、驚きの声を上げた。シャルロッテ以外は驚いているが、さすがに貴族のご令嬢。特に大きなリアクションなし。

 家の中に入った四人は物珍しそうに周りを見渡していたが、それほど珍しいものはない。というか、引っ越してきて間がないのでそれほど家具自体がない。


「適当にソファーに座っていろ。今、支度をする」


 俺はさっさとキッチンに入るとエプロンを付けて、手頃な食材を探した。


「せんせいのエプロン・・・」


 セリスが驚愕の声を上げた。他の三人も驚きの声を上げた。


「あ? なんだよ。エプロンしないと汚れるじゃねーか」

「いや、ギャップすごすぎるっす」


 ステアは戦いてすらいるようだ。まあ、キャラじゃないのは認めるが仕方ないだろうに。油物は跳ねる。


「うるさい。静かに座っていろ」


 付き合っているのも面倒だ。さっさと作ってしまおう。


「あ、手伝います」


 クレアが立ち上がって、キッチンに入ってくる。


「いいから、座っていろ」

「そういう訳には」

「じゃあ、そこから大皿を出してくれ。取り皿とスープ皿も」

「わかりました」


 クレアの如才なさにミラを含めた四人に動揺が広がる。


「この子。できる」

「うう。普段は家令がしてくれるから」

「できる女っすねー」

「・・・素敵」


 俺はさっさと料理を作り始める。巨大な氷をぶち込んで作った即席の冷蔵庫から野菜を取り出し、サラダを作る。特製のドレッシングを使い。乾燥させたパンの小さく切りアクセントに使う。

 スープは昨日作っていた特製のコンソメスープを温め、パスタを茹でる。

 先にサラダを出しておこう。


「ほれ、サラダでも食っておけ」

「わあ、美味しそう」


 クレアが両手を合わせて喜び、ささっと皿を盛り分ける。ホント如才ない奴。


「うう、レタスがしゃっきっとしてて美味しい」 と、ミラ。

「このドレッシング濃厚ですね」 と、クレア。

「パンのカリカリがたまりません!」と、シャルロッテ。

「細く切った人参もシャッキッとしてるっす」と、ステア。

「・・・濃厚」 と、セリス。


 ふん。それくらいで驚いてんじゃねー。メインはこっちだ。

 特製のコンソメスープとカルボナーラの完成だ。

 片づけは後にして俺も食おう。


「おら、できたぞ」

「・・・いい、匂い」


 セリスが小動物のように鼻をひくつかせ寄って来る。ついでに皿を並べるのを手伝わせ、俺も一緒に食事にありつく。


「相変わらず美味しい、くく~」

「このコンソメスープ。すごく美味しいです。コクがあるのに透き通っていて濁りもなくて!」

「これは、うちの料理人より美味しいですわ!!」

「パスタもうまいっす。濃厚ですごくソースが滑らかっす!」

「・・・美味」


 それからは皆、話を中断し、食べることに専念。多めに作ったつもりの料理がどんどん減っていく。


「どうだ。俺の腕が分かったか!」

「「「「御見それしました」」」」


 生徒達は食事を終え皆、合掌。

 ふっふ。これで俺の威厳が保たれたぜ。


「あの先生。よかったらレシピを教えてもらえますか?」


 クレアがメモ帳を取り出し、そんなことを聞いてきた。

 レシピか。まあ、秘伝て訳でもないし。


「あ、それ、知りたいっす」

「わたし、も・・・」


 ステアとセリスも便乗してくる。うーむ、教えるのはやぶさかじゃないんだがな。


「わたくしは家に専属の料理人がいますので・・・」

「あ、じゃあ、食事も終わったし、シャルロッテ先輩はお帰りということで。あたし達はスティーグ先生に仲良く教えてもらいますんで。お疲れした~」

「!!! わ、わたくしにも教えてくださいませ」


 シャルロッテ。お前はいったいどうしたんだ・・・?


「ったく。お前ら訓練もそんな熱心じゃねーだろうが。・・・まあいい。これは食材が良いってのもあるから、全く同じものはできないかもしれないが、教えてやる」


 今回作った料理の食材の多くは馴染みにしている牧場から取り寄せたものだ。スープのベースの肉も、チーズも卵もその牧場の食材でなければこれだけの味は出ないだろう。


「まあまあ、この子達がやる気なんだから、教えてあげたらいいじゃない」

「つーかミラ! お前も覚えろ!」


 呑気に外野でエールを送ろうとしているミラを捕まえ、俺達はキッチンへと向かったのだった。

 こうして騒がしい夜は過ぎて行った。


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