模擬戦
気に入らない。
シャルロッテはこのスティーグという男が嫌いになっていた。
どれほど強いか知らないが、こんなに人をコケにする男は初めてだ。
シャルロッテは正義感が強い反面、融通が利かない面がある。
嫌いな奴はとことん嫌いで、評価を変えることは滅多になかった。
(一人では難しいかもしれませんが、こっちは4人。散々馬鹿にした報いを受けなさい。その上で、こんな特別クラスなど解体して差し上げますわ)
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さて、どうくるよ?
俺は生徒達の出方を窺った。
これは稽古だ。
あいつらの動きに合わせて動く必要があるだろう、そういうのは割と得意。
どっち道、アドルフに借りたこの剣は使うつもりはない。
この剣はあくまでも、あいつらに全力を出させるためにアクセサリーにすぎないのだ。
「わたくしが先手を打ちます。皆さんは追撃を」
シャルロッテの言葉に三人は頷く。
「凍てつく氷の刃よ。我敵を貫け!」
シャルロッテの言葉に応え、放たれる氷の刃。俺はそれをサイドステップで躱す。そこに――
「先生。いくっすよ」
氷の刃に追従し、ステラが走りこんできた。おっと、結構速いぞ。ステラの二刀のダガーが規則正しいリズムで右、左と俺を襲う。
俺はそれをさくさく躱していく。
「ちょっと正直すぎるな。せっかく二本あるんだ。もっと変則的に動けないか?」
「む、むぅー」
そこからさらにステラはがむしゃらに手数を増やしていく。速いがこれでは躱すのは容易だな。
お次は?
「先生。失礼します!」
こんな時でも律儀に挨拶をするのはもちろんクレアだ。大きく振りかぶって十分威力の乗った大剣を振り下ろす。
俺はこれもサイドステップで躱す。振り下ろされた大剣をそのまま横に薙ごうとするクレアだが。
「遅いな」
瞬時にバックステップをしてクレアとの間合いを空けてしまう。クレアが横の薙いだ時にはすでに俺はそこにはいない。
「あ、あれ?」
「まだまだっす!」
ステラがジャンプ切りで飛び込んでくる。俺のアドバイスを受け、さらにダイナミックに動くことにしたようだ。しかしどうにも隙がでかいな。
そういえば、セリスはどうした?
ステラの攻撃を躱しつつ辺りを見渡すと、セリスはこっちを見ながら前傾姿勢のまま、動かない。
いや、動こうとはしている、さっきから腰に力を入れて、また元に戻すを繰り返している。
(しょうがねーな。あいつは)
「よそ見ダメっすよ先生」
「飛んだり跳ねたり、よく動くなステラ。だが、そのスカートでそんなことしていいのか? さっきからパンツ見えてるぞ?」
「へ? ひ、ひゃーーーー!!」
ステラは顔を真っ赤にして両足を閉じ、座り込んでしまった。軽い感じのあいつでもこういうのは恥ずかしいんだな。
俺は次にセリスの所まで走る。
「よお。どうした。こいよ」
「っつ! いく・・・」
俺が目の前に現れて一瞬戸惑うセリスだったが、状態を低くし、正拳突きを放つ。なかなか威力が乗っているな。バックステップで後ろに下がろうとするが――
どん!!
「お」
セリスはダッシュして俺との間合いを瞬時に詰めてくる。静と動を使い分けた動きだ。悪くない。
そこからさらに、拳の連打。俺はそれを下がりながら躱していく。
気が付けば、三人に取り囲まれる格好になる。
「先生。お覚悟!」
「このセクハラ教師!!」
「・・・もっといく!」
三方向から休むことなく攻撃を仕掛けてきた三人。
だが、連携がうまく取れていない。まだまだ経験不足だな。
よし、これからはこの四人での連携に主軸を置いて修行させよう。
これでは躱すのは容易だ。
俺は合間を縫うように躱し、時に大胆に接近し、三人との距離を調整し、掻き回すように動く。
「はっ! どうしたどうした。三人がかりでも足りないか?」
「あ、当たらない」
「こんなに、振ってるのにぃ!」
「・・・はっは!」
当たらない当たらない。
そんな雑な連携では百年かけても俺に触れることは出来ない。
三人の顔に疲労が見え始めた。そこに――
「皆さん。下がってください」
十分に魔力を込めて出来上がった炎の玉をシャルロッテが放った。すぐさま下がるステラとセリス。
しかし、重い大剣を持ったクレアが逃げ遅れた。
まじーな。クレア巻き込むぞ。
本来の着弾点よりもずんと前に出て俺は炎の玉を片手で弾く。炎は地面に叩きつけられ軽く爆発した。
「そ、そんな。十分魔力を込めたわたくしの魔法を素手で!?」
驚愕するシャルロッテ。まあ、学生がやれる芸当ではないがな。
「一通り凌いだな。じゃあ俺の勝ちってことで」
「ま、まだです。凍てつく氷の――」
「ソコマデ」
一瞬でシャルロッテとの間合いを詰め、首筋に手刀を当てる。シャルロッテは息を止め、硬直し、ゆっくりと項垂れた。
「――こんな、ことって・・・」
「ふん。んじゃあ、今日の稽古はここまでって事で」
四人が茫然自失の中、俺は飄々と終了を宣言したのだった。