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模擬戦

 気に入らない。

 シャルロッテはこのスティーグという男が嫌いになっていた。

 どれほど強いか知らないが、こんなに人をコケにする男は初めてだ。

 シャルロッテは正義感が強い反面、融通が利かない面がある。

 嫌いな奴はとことん嫌いで、評価を変えることは滅多になかった。


(一人では難しいかもしれませんが、こっちは4人。散々馬鹿にした報いを受けなさい。その上で、こんな特別クラスなど解体して差し上げますわ)


*********


 さて、どうくるよ?

 俺は生徒達の出方を窺った。

 これは稽古だ。

 あいつらの動きに合わせて動く必要があるだろう、そういうのは割と得意。

 どっち道、アドルフに借りたこの剣は使うつもりはない。

 この剣はあくまでも、あいつらに全力を出させるためにアクセサリーにすぎないのだ。


「わたくしが先手を打ちます。皆さんは追撃を」


 シャルロッテの言葉に三人は頷く。


「凍てつく氷の刃よ。我敵を貫け!」


 シャルロッテの言葉に応え、放たれる氷の刃。俺はそれをサイドステップで躱す。そこに――


「先生。いくっすよ」


 氷の刃に追従し、ステラが走りこんできた。おっと、結構速いぞ。ステラの二刀のダガーが規則正しいリズムで右、左と俺を襲う。

 俺はそれをさくさく躱していく。


「ちょっと正直すぎるな。せっかく二本あるんだ。もっと変則的に動けないか?」

「む、むぅー」


 そこからさらにステラはがむしゃらに手数を増やしていく。速いがこれでは躱すのは容易だな。

 お次は?


「先生。失礼します!」


 こんな時でも律儀に挨拶をするのはもちろんクレアだ。大きく振りかぶって十分威力の乗った大剣を振り下ろす。

 俺はこれもサイドステップで躱す。振り下ろされた大剣をそのまま横に薙ごうとするクレアだが。


「遅いな」


 瞬時にバックステップをしてクレアとの間合いを空けてしまう。クレアが横の薙いだ時にはすでに俺はそこにはいない。


「あ、あれ?」

「まだまだっす!」


 ステラがジャンプ切りで飛び込んでくる。俺のアドバイスを受け、さらにダイナミックに動くことにしたようだ。しかしどうにも隙がでかいな。

 そういえば、セリスはどうした?

 ステラの攻撃を躱しつつ辺りを見渡すと、セリスはこっちを見ながら前傾姿勢のまま、動かない。

 いや、動こうとはしている、さっきから腰に力を入れて、また元に戻すを繰り返している。


(しょうがねーな。あいつは)


「よそ見ダメっすよ先生」

「飛んだり跳ねたり、よく動くなステラ。だが、そのスカートでそんなことしていいのか? さっきからパンツ見えてるぞ?」

「へ? ひ、ひゃーーーー!!」


 ステラは顔を真っ赤にして両足を閉じ、座り込んでしまった。軽い感じのあいつでもこういうのは恥ずかしいんだな。

 俺は次にセリスの所まで走る。


「よお。どうした。こいよ」

「っつ! いく・・・」


 俺が目の前に現れて一瞬戸惑うセリスだったが、状態を低くし、正拳突きを放つ。なかなか威力が乗っているな。バックステップで後ろに下がろうとするが――


 どん!!


「お」


 セリスはダッシュして俺との間合いを瞬時に詰めてくる。静と動を使い分けた動きだ。悪くない。

 そこからさらに、拳の連打。俺はそれを下がりながら躱していく。

 気が付けば、三人に取り囲まれる格好になる。


「先生。お覚悟!」

「このセクハラ教師!!」

「・・・もっといく!」

 

 三方向から休むことなく攻撃を仕掛けてきた三人。

 だが、連携がうまく取れていない。まだまだ経験不足だな。

 よし、これからはこの四人での連携に主軸を置いて修行させよう。

 これでは躱すのは容易だ。

 俺は合間を縫うように躱し、時に大胆に接近し、三人との距離を調整し、掻き回すように動く。


「はっ! どうしたどうした。三人がかりでも足りないか?」

「あ、当たらない」

「こんなに、振ってるのにぃ!」

「・・・はっは!」


 当たらない当たらない。

 そんな雑な連携では百年かけても俺に触れることは出来ない。

 三人の顔に疲労が見え始めた。そこに――


「皆さん。下がってください」


 十分に魔力を込めて出来上がった炎の玉をシャルロッテが放った。すぐさま下がるステラとセリス。

 しかし、重い大剣を持ったクレアが逃げ遅れた。

 まじーな。クレア巻き込むぞ。

 本来の着弾点よりもずんと前に出て俺は炎の玉を片手で弾く。炎は地面に叩きつけられ軽く爆発した。


「そ、そんな。十分魔力を込めたわたくしの魔法を素手で!?」


 驚愕するシャルロッテ。まあ、学生がやれる芸当ではないがな。


「一通り凌いだな。じゃあ俺の勝ちってことで」

「ま、まだです。凍てつく氷の――」

「ソコマデ」


 一瞬でシャルロッテとの間合いを詰め、首筋に手刀を当てる。シャルロッテは息を止め、硬直し、ゆっくりと項垂れた。


「――こんな、ことって・・・」

「ふん。んじゃあ、今日の稽古はここまでって事で」


 四人が茫然自失の中、俺は飄々と終了を宣言したのだった。

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