ドワーフの鑑定
俺は鞘からダーウィンスレイブを引き抜いた。
傷ついて尚、ギラリと光るその美しい刀身にドワーフの長老は目を見開いた。
「こ、こいつは・・・」
俺から渡された剣を恐る恐る受け取ると長老は再度唸る。
「この剣はまさか・・・」
それから長老は黙ってしまった。
剣をじっと見つめ、ためつすがめつじろじろとあらゆる角度から見て回した。
意外な事に傷のついている箇所はほんのわずか見ただけでそれほど注意深くは見なかった。
長老はもう一度唸ると更に刀身を見回した。
俺にはそれがとても長い時間に感じられた。
この剣が元に戻るのかどうなのか、それだけでも知りたかったが黙ってじっと長老が結論を出すのを待った。
しばらく経って長老はふぅっと一息つき、剣を俺に返した。
そして、最初に意外な言葉を口にした。
「この剣はまだ使える」
それには俺たち全員が面食らった。
「それはこのままこいつを使えって事か?」
「そうだ」
「だが、傷が・・・」
「傷、ね。こいつは傷ついてなんていねーよ」
俺はその言葉に眉をひそめた。
ドワーフがなぞなぞ好きとは思わない。長老はこれで率直に言っているのだろう。
だが、武器の素人の俺にはその言葉の意味がよくわからなかった。
「そ、そんなはずがないでしょう。ほら、ここに傷があるじゃないですか?」
黙っていられなくなったステラが傷のある個所を指差して長老に詰め寄った。
しかし、その傷を見ても長老はしれっとしている。
「だからなんだ?」
「いや、だからって、ええ?」
ステラは長老が意地悪をしているのかふざけているのか区別がつかないという様に頭を掻きむしった。
俺は長老の目を見る。
長年、王族なんてやっていたせいか、俺は人の目を見ればその人物が何を思っているのかなんとなく察することができる。長老の目はどこまでも真っ直ぐだった。ふざけたことをするような人物ではない。
と、するならば、この鑑定には何か意味があるのだろう。
「おめえさん。この剣を使ってどれくらいだい?」
「約五年てところか」
「ふん。おめえさんにはまだこいつの声が聞こえないらしいな」
「声・・・?」
長老は頷いて、ダーウィンスレイブを見つめる。
「そいつの声を聞いてやりな。そいつはおめえさんと話したがってるぜ」
「・・・わかった」
こうして、俺達は長老の家を後にした。
「なんなの? あれなんなの?」
ステラはぷんぷんと腹を立てていた。
他のメンバーも思うところがあるのか、いい顔をしていない。
シルフィーが首を傾げる。
「剣の声を聞けって、よくわかりませんが」
「ですよね。あの人、単に剣を直せないからあんなこと言ったんじゃないですか?」
ステラは長老の態度にかなりお冠のようだ。
しかし、これにデボが反論する。
「うちの爺は偏屈だが、できないことはできねえっていうぜ。あの爺がああいう言い回しをしたってことは意味があるんだ」
爺呼ばわりしているが、さすが長老だけあって人望はあるらしい。
初対面の俺達ではわからないことがデボには解ったのだろう。
「つうかよ。おめえさん。マジで何者だよ。なんだよあの剣は? 俺達は長年武具を鍛えてきてるけどよ。あんなの見たことねーよ。とんでもない業物だぜ」
「ま、だろうさ」
「あれが傷つくってのもどういうことだよ。人間の作った武具であれが傷つくなんてありえねえぜ。それこそオリハルコンとでも戦わない限りはな?」
まあ、正にそれと戦ったわけなんだが、言うと色々とややこしくなりそうだな。
それとそう。オリハルコンで思い出した。
「なあ、デボ。確か人間を一人捕まえてるんだったよな?」
「ああ、この奥の牢屋に閉じ込めてるぜ」
「ちょっと会わせてくれないか?」
「ああ? 盗人にあってどうするってんだ?」
デボは少し警戒した。俺達は人間だ。盗人の仲間とは思われてはいないだろうが、同じ種族の情にほだされて、逃がすのではないかと思ったのかもしれない。
「決まってるんだろう? ちょっと聞いてみるのさ」
俺は凶悪な顔で笑って見せた。
それは連れの人間たちも思わず引いてしまうほどの笑顔だったという。