ドワーフの洞窟
ドワーフが住んでいるのは地下深い洞窟だ。
遥かな昔、魔族領に移り住むこともなく、こちらの世界に残ったドワーフ達は人間社会から逃げるように隠れ潜み、地下の洞窟に移った。
いや、彼らからしてみたら隠れている気などないのかもしれない。
元々ドワーフは土の精霊の眷属。洞窟と相性がいいのだろう。
今回の冒険は前回のエルフの救出の様な緊急事態ではないため、学園側に馬車を用立ててもらい、十日ほどの旅になった。
そもそも今回はアティシアがお留守番な為に飛行魔法などで移動するといった荒業ができない。
五年前にエルフの里を出てから俺はエルベキアに落ち着くまで三年ほど放浪の旅をして、見識を広めてきたが、ドワーフの洞窟にはまだ行ったことがなかった。
聞くところのよるとドワーフの洞窟は学園から南の位置にあるらしい。
馬車に揺られること十日。
何度か村により寄りながら俺達はドワーフの洞窟を目指した。
そして、きっちり十日目。ドワーフの洞窟らしき大きな洞窟を発見した。
「ここがドワーフが住んでいる洞窟か」
当たり前の事であるが、ドワーフが住んでいますなどという表札はないので、はっきりとは分からない。
馬車を最寄りの村に置いて世話を任せると、俺達は洞窟内部に向かった。
「なんか、ひんやりしてるっすね」
ステラが腕を組みながら身震いする。
南とはいえ、季節が季節だからな。
俺は羽織っていた外套をステラにやる。
「あ、あざっす」
ステラは妙に嬉しそうに俺の外套を羽織るとぎゅうと外套を抱きしめるように腕をまわした。
「・・・迂闊」
「うまくやりましたわね」
シルフィーとシャルロッテが何故か悔しそうにしている。なんだろう?
しばらくランプの明かりを頼りに奥に進んでいたが、そのランプが必要なくなるあることが起きた。
ヒカリゴケだ。
「あ、明るい」
ミラがさも不思議そうに洞窟に生えているヒカリゴケを見回す。
「天然のヒカリゴケじゃないな。おそらくはドワーフ達が住みやすいように品種改良したものだろう」
俺はランプを仕舞いながらヒカリゴケを注意深く見る。
これでこの洞窟が何者かの手が加わっていることがはっきりした。
これほどのヒカリゴケを植える理由などここに根付く以外に考えられない。
と、前方から何者かの気配を感じた。
「止まれ」
俺は皆に呼びかける。
若干、緊張をはらんだ俺の声に皆はすぐに応じる。
「誰だ?」
俺は奥の気配に呼びかける。すると、前方からドワーフが現れた。
数は一人。
ドワーフは巨大な槌を持ち、いきなり俺に襲い掛かってきた。
「うおおおおおおお」
「って、おい!」
いきなりの事で驚く俺の前にシルフィーが躍り出る。
俺を守ろうと剣を引き抜き構えるシルフィーを俺は抑えた。
「先生?」
向かってくる者はすべて返り討ちの信条の俺だが、これからものを頼む種族をいきなり撃退したのでは、交渉が難航する。
俺は向ってくるドワーフの槌を掴み、槌ごとドワーフを軽々と持ち上げた。
「う、うわわあああ。な、なんて力だ。やっぱりおめえバケモンか?」
「馬鹿言え、こんなイケメンの化け物がいてたまるか。なんで俺を襲う?」
「そ、それはこっちのセリフだぜ」
「なんだと?」
ドワーフは言葉が通じないだろうか?
言ってることとやってることが違う。
「最初の襲ってきたのはお前らだろうが」
「なんだって?」