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勝利の代償

 オリハルコンゴーレムを粉砕し、ふっと一息つく。


「なんとか通じたようだな」


 正直あれが通じなかったら打つ手がなかったぜ。

 仲間たちが集まってきた。どうやらあっちも終わったようだ。


「先生やりましたね!」

「すごかった」


 クレアとセリスが俺を称賛する。

 久々にしんどかったな。

 その時、不吉な音が聞こえた。俺の手元から。


 ピシィ!


 俺は手元に目をやる。するとダーウィンスレイブにほんの僅かではあるが、ヒビが入っていた。


「お、お兄様。ダーウィンスレイブに亀裂が!」


 アティシアが悲鳴を上げる。

 クレアとセリスも絶句する。

 ミューリはこの剣の価値を理解していないだろうが、皆の反応からよほどの名剣であると思ったようだ。


「やっぱり、こうなったか・・・」


 俺はと言えば、それほど動揺はない。実はこうなるのではないかと薄々感じてはいた。

 普通の剣では俺の技にはまず耐えられない。

 カラミティーブレイドをこの剣で使ったのは過去に一度、神獣と戦った時だけだったが、その時もダーウィンスレイブはギシギシと悲鳴を上げた。あの神獣以上の強度を誇ったオリハルコンゴーレムにあの技を使えばあるいは破損するのではないか。そんな気がしていたんだ。

 しかし、神をも殺す魔剣が耐えられないとは、改めて俺の技ってすげー。つーか怖え。


「神殺しの魔剣でさえもお兄様の技には耐えられないのですね・・・」


 しゅんとなってしまったアティシアの頭をなでながら俺は肩をすくめてみせる。


「ま、いいんじゃないか。元々過ぎた力だったんだ。こんなことめったにないだろうし、なんにしても倒せたんだからよかったじゃねーか」


 ミューリが申し訳なさそうに俺に謝る。


「あの、その剣、そんな大切な剣だったの? ごめんね。里の為に」

「いいって。さ、戻ろうぜ。住民も不安だろうしな」


 エルフ達は今もゴーレムの脅威に怯えているだろう。早く脅威が去ったことを知らせてやった方がいい。

 俺達はエルフの避難場所へと向かった。




*****


 妖精の森の中にあるある高い木の上。

 スティーグ達の様子をずっと見つめている鳥がいた。

 多くの動物たちがゴーレムに恐れ、逃げ出してしまっているというのに、その鳥はじっとスティーグ達を見続けてる。

 さしものスティーグも強敵を前にしてはるか遠くの視線には気付かなかったようだ。

 事の成り行きを見守っていた鳥はついに翼を広げて飛び立った。




*****


 オリハルコンゴーレムを討ち果たし、見事里を救った俺達をエルフ達は最大限の感謝で迎えた。

 その日は里をあげてのささやかな祝賀会が開かれ、里は大いに沸いた。

 ここしばらく沈んでいた里に笑顔が戻った。

 正直に言ってしまえば、俺はこういう誰かに感謝されたり称賛を集めるのは苦手だ。

 できるならとっとと休みたいのだが、今日ばかりはエルフ達が俺達をすぐに帰してはくれなかった。

 クレアやセリスは飲みなれない酒を飲んですぐにダウンしてしまった。

 残った俺やアティシアは遅くまで付き合わされることになった。

 そして、夜が明け、準備を整えた俺達は帰路につくことになった。



「やっぱり帰っちゃうんだよね」


 ミューリは寂しそうに俺達を森の外まで見送ってくれた。

 昨日までと一転してミューリから元気が感じられない。

 まあ、森の中はだいぶ荒らされてしまったし、これからのことを考えると気が重いのだろう。


「また何かあったら呼んでくれ。いつでもくる」

「なにもなくてもあなたから来てくれてもいいのよ?」

「ああ、そのうち寄る」

「・・・そのうち、ね」


 俺は首を傾げる。


「お前って、俺と別れる時いつも不機嫌じゃないか?」


 最初に俺が怪我が治って別れた時。次に礼の金を渡しに来た時。そして、今。たまには笑顔で別れをしていものである。


「あなたって・・・あーもう。わかんないかな!」


 俺は首をさらに傾げる。

 今回は俺達は里を救った英雄のはずじゃないのか? 何で機嫌が悪くなるんだ。いや、全然わかんねーぞ。

 と、アティシア、クレア、セリスをみるとみんなため息をしている。

 ん? あれはどういうリアクションだ? あいつらは解っているという事か。

 そして、俺だけわからない。なんだろうこのもやもやは。


「なんなんだよ。言ってみろよ」


 ミューリは額に手を当てるとため息をつく。この態度が軽くイラッとする。


「いいわ。わかった。態度で示す必要があるのね」


 そう言うとミューリは俺にずぃっと近づいてきた。もう目と鼻の先まで。

 そして、一瞬どう対応すべきか迷っている俺の唇に自分の唇を重ねた。


 チュ。


『あ! あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』


 連れの三人が絶叫した。

 俺も不覚にも一瞬の事で茫然としてしまった。

 事を起こした本人はちょっと照れたようにはにかみながら。


「そういうことだから!」


 それだけ言うとミューリは森の中に走って行ってしまった。

 俺は唇を指でなぞる。

 ふむ。


「やわらかい」


 そう呟いてふと振り返ると。


『むっす~~!!』


 おおっ! 三人が何故かめちゃくちゃ機嫌が悪い。

 目の前でいちゃつくなという事だろうな。

 しかし、あれはどういう意味だ? 感謝? 愛情表現? 

 こいつは難問だぜ。


 

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