世界都市と世界
あるところに、世界都市という街があります。
世界都市は名前の通り、世界の都市です。
世界に街をつくり、世界中の街を監視し、世界中の街を育てている街です。
この街は、すべての街の外にあります。
つまり、世界中にある街の、街でない場所はすべて、世界都市なのです。
しかし、世界中にある街の人々は、この街があることを知りません。
知らないからには、その街を呼ぶことはありません。
それでも世界都市というからには、街であるからには、そこには誰かがいるのです。
誰が住んでいるのかというと、たったひとりの人です。
その人は、世界中の街の外から、世界中の街を見て、世界中の街の人々のために街を与えたり、街から街へ人を移動させたりしました。
それがその人の育て方でした。
地上の世界が嫌だという人々には地下の世界を、街を離れたくない人々にはどこにも行けない場所を。
平和の象徴でも使い方を誤れば毒になり得ることを教え、夢のような話には夢で終わるだけの何かがあり、本で世界を知ることはできても人の全ては本には書かれておらず、楽をすればするはずだった苦労を何かで払わなければなりません。
街一番のお金持ちでも愛は持てなかったし、どんなに食事が好きでも料理ができなければ無意味でした。
山に囲まれても人々は不幸ではなかったけれど、雪ばかりの街では不幸であることすら人々は知りませんでした。
街を監視し続けてきたその人は、いま別の問題を抱えていました。
街も人もよく育ちました。
しかし紙や水ですら時間が経てば朽ちてしまうもので、街も人もいずれは終わりを迎える時が来ます。
街に一人だけのその人だって例外ではありません。
けど、多くの人々が住んで家族を繋げていく世界中の街と違って、世界都市にその人はたった一人です。
生きているからには死ななければならないため、死なずに生きながらえることは不可能だし、他の街を行き来することも招き入れることもできません。
悩みに悩みつづけ時間は流れ、とうとうその人は息を引き取りました。
からだはそこに倒れ、もはや動くこともなく朽ちていくだけですが、魂だけとなったその人は、からだという荷物がなくなったため、世界中の街の外の世界都市の更に外に世界があることに気づきました。
そこはたくさんの街の集合体のような大きな街が、またさらにたくさんある世界でした。
たくさんあるのに、境界線が曖昧で、どこからどこまでがその街なのかわかりませんでした。
その人は、この曖昧な境界線なら生きていくことは容易いだろうと思い、その中のひとつの小さな街に行き、新しい人生を送ることにしました。
ところが、ほんの少し居座ってみるとそこは、境界線が曖昧なだけに、人々は境目や区別にとても敏感で、他の街へ移り住むことはひどく困難でした。
魔法が全く無い代わりに科学はとても飛躍していて、遠くへ行くのも遠くの誰かと話すことも、お金で愛を買う人も料理を作ってくれる人も、花を売る人も、どこにでも誰もがいました。
思えば、人のいる街で暮らすのは初めてでした。
生きているからには死ぬ日がいずれ来ますが、ここに来たように、また以前の街に戻ることを願いながら、その人は今も、魔法のない現実の世界を生きていることでしょう。