家事見習いと嫁候補ときどき駄犬
ちょっと時間オーバーしました(´・ω・`)
年内最後の更新です!
--家事見習いと嫁候補ときどき駄犬
頭と耳を撫でられ続けて腰を抜かしてしまったリルをそのままベッドに座らせたままシルヴァが買ってきたものを確認する。
風呂道具、石鹸、タオル類、下着や着替えが人数分、肉串十本。
…風呂に関係ないものがあるなぁ。
「これはなんだ?」
串袋に入れられ、さらに袋に入れられていた肉串を手に問い詰めると「…小娘の分です」と下を向いて返事が返ってきた。
じゃあ問題ないな。
「リル、これは君の分だそうだ。食べてしまいなさい」
「えっ、シルヴァおにーさんの分は…」
「いらないそうだ。そうだよな?」
「…はい」
よだれをたらして涙を流しながら返事をするな。
リルも袋から出た肉串を二本だけ手に取り「残りは食べきれないから食べて?」とシルヴァに渡している。
そんなに食べたかったのか…?一応飯もちゃんと食わせているつもりなんだが…。
わかったから涙を流すな。好きに食うといい…。
「リルはアルファミラの家で見習いとして雇うことにした」
「おや。お飼いになられるので?」
肉串を頬張りながら返事をするな。
「飼う、という言い方は好きじゃないな。技能を仕込んで最終的には家の管理を出来るようにさせたい」
「わかりました。後ほど聞いてみましょう」
「じゃあ連れて行く前にとりあえず風呂だ。俺は先に入ってくるからその後にお前らで入れ」
「かしこまりました」
いまだに肉串を頬張っている二人を置いて風呂道具一式を持ち、風呂へ向かう。
湯船にはあふれるくらいの湯がはられており、部屋全体に湯気が篭っている。
湯船から桶で湯を汲み、足先から徐々に流して行き、身体全体の汚れを軽く取る。
やはり清潔で綺麗にするのと違ってさっぱり度合いが違うな。
石鹸を新しい布にこすりつけ泡立て身体を洗う。
髪もあわせて洗うが石鹸だけだとゴワゴワになるかもしれないな。
全身洗い終わって湯船に浸かる。
湯の温度は39度
体中の疲れが溶け出すような感じがまた心地よい。
十五分ほど湯に浸かって一心地ついた後は風呂から上がり、二人を風呂場に追いやる。
その間、上の部屋に戻り、扉の最終確認をする。
問題ないな。
繋げないまま扉を開け、外に出ると王都の賑やかな雰囲気がかろうじて聞こえる程度の喧騒。
日も沈みきっていて酒場以外の店はもう店じまいをしているだろう。
明日だ。
明日…ロザリアはどんな返事をしてくるだろうか。
断られたらどうしようか。
無理やりにでも連れ去るべきだろうか。
…子供でもあるまいし。夜眠れなかったとかだったら恥ずかしすぎるぞ。
とりあえず二人が風呂から上がったら屋敷に移動して、そこで寝よう。寝る努力をしよう。
その後風呂から上がってさっぱりした二人の着替えを待って屋敷に移動し、それぞれの部屋で眠る。
夜中に急に行ったのに応対に滞りのなかったランクスはさすがだな。
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夜が明けて、朝食を取る前に朝礼のようなことをするらしく、玄関前のロビーで俺の前に使用人達が整列している。
普段は前に立つのはランクスらしい。
「いつもご苦労。今日は君らに一人、部下をつける。名前はリル。見てのとおり狐獣人だ。一人で家守が出来るまで育ててほしい」
俺の言葉に合わせて隣に立つリルが頭を下げる。
メイドの何人かの目が血走っているのは見ない振りをしてやろう。
メイド長の様な長身のスラっとした女性が一歩前に出て「かしこまりました」と頭を下げた後、リルを連れて別室へ連れて行く。
「では後はいつもどおりにしてほしい。解…散?してるのか」
リルの後を目でおって振り返ったときにそう言おうとしたらすでに誰もいなかった件。
人の話は最後まで聞こうか。
食堂に移動して朝食を食べる。
今日のメニューは白パンと肉入り野菜スープと目玉焼き。
ちょっと足りないくらいだがどうせ後で屋台に行くことを考えるとちょうどいい量なのかもしれない。
「ランクス、ちょっといいか」
朝食を食べ終わり、食器を下げに来たランクスに声をかけると「奥方様の件ですね。頑張ってください」と返された。
…うん、まぁなんだ。頑張ってどうにかなるものなら頑張るがな。
聞くとシルヴァはすでに街に出ていていないらしい。
なんでも必要なものがあって買いにいくとのことだ。
リルはメイド長の下、まずは掃除から仕込まれているみたいだ。
まだ怯えている所もあるが、覚えはいいとの事なのでおまかせしてしまおう。
「じゃあ俺も出てくる。昼まで時間を潰してから向かうから夜までには戻れると思う」
「わかりました。御武運を」
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日が落ちてくるにつれて緊張の度合いが進んでくる。
皇帝竜と戦うことになった時ですらこんな風になった記憶はない…。
俺らしくもない。
行くか。
色街を通り過ぎ、月夜夢まで迷いなく進む。
まだ娼館自体開いている時間ではないが、入り口を守る門番に身請けの話を主人としたい、と伝えると中に通してもらえた。
ロザリアにはすでに身請けの話はしてあること、返事は今日貰うことになっているということ。
返事がよいものだった場合、今日すぐにでも連れて帰りたいこと。
Sランク冒険者であること、この街に拠点があること、そして、買い受ける金があること。
緊張したままのたどたどしい口調で目の前に座る老人に伝えきる。
「…ロザリア嬢の事情は伺っておいでですか?」
「種族のことなら聞いたぞ。それ以外にもなにかあるか?」
「いえ。それ以外には大きなものはありません。そもそも金に困って当娼館に来たわけではないですから」
「小さなものもあるのか。俺でどうにかなる問題か?」
「いえ、娼館の後達の育成と顧客への説明なのでこちらで対処する問題です」
「そうか。…ならそちらは頼んだ。必要な金はいくらになる?」
たとえ一万枚だろうと出すがな。
「そうですな…。五百枚といった所でどうでしょうか」
「問題ない」
即答で答える。
というか安いもんだ。
「当娼館の三華の一人なのでそれなりのお値段を提示させていただきましたが即答とは…」
「それだけ惚れてるってことだよ。言わせんな恥ずかしい」
「では後は当人同士の話し合いで決めてくだされ。受付開始まではロザリア嬢はあなた様の貸切にしますゆえ」
「わかった」
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ロザリアの部屋の前に通され、緊張の度合いが最高潮になる。
さすがに足が震えて前に進めない程まではいかないが。
落ち着いた素振りを装い、扉を軽くノックする。
しばらくすると扉が開き、部屋の中からロザリアが顔を出す。
ロザリアは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに軽く微笑み、「中へどうぞ」と手を取ってくれた。
部屋の中、中央に配置されているテーブルにつき、ロザリアが茶を入れてくれるのを見ている。
茶を入れ終わったカップを俺の前に置き、自分の分も注ぐ。
「…いらっしゃいませ。お久しぶりですね」
「…いらっしゃいました。久しぶり」
いや、いらっしゃいました。ってなんだよ。
どんだけてんぱってるんだよ。
「…すまん、緊張している。」
「私もですよ。まずはお茶でも飲んで落ち着きましょうか」
程よく外気で冷やされた部屋の中であったかいお茶を飲む。
ゆっくり、ゆっくりと。
一度呼吸をゆっくり大きく吸い、大きく吐く。
そんな俺の素振りを見てロザリアはクスクス笑っている。
「…よし。ちょっと緊張が解れた。話をしよう」
「はい。私の身請けの話ですね」
「違う。身請けじゃない。君を嫁に迎えたい」
「はい…。わかってはいます。でも、ほんとに、いいんですか?私で」
「『で』じゃない、『が』だ。君でいいんじゃない。君がいいんだ」
ロザリアはテーブルに視線を落としてぽつぽつと自分の事を話始める。
元は小さな農村の生まれで両親は小さい時に病死していること。
元々一般魔術師並ではあるが魔術の特性があった為、王都の学院に召集されていたこと。
そして…吸血鬼という種族は、生まれついてのものではなく、街道を移動中に襲われた吸血鬼に噛まれ、発症したものということ。
…なんだ、劣化吸血鬼なのか…。
まぁ真祖でもなんでもよかったんだが。
一般人にはそれでも脅威なのかね。
「前にも言ったとおり、君が何者でもかまわない。血が欲しいなら俺が生きていられる程度なら何度でも吸うといい。…人に戻りたいなら戻してやる」
テーブルに目線を落としていたロザリアが急に顔を上げ、俺の顔を見る。
「…戻れるんですか?」
「吸血鬼に噛まれて吸血鬼になった者は…言うなれば、『なりそこない』だ。対処の方法はある。教会なんかが秘匿して『神の御技』とか言っているけどな」
ロザリアは驚きの顔を隠せず、そして冷静を装えないようだ。
かわいい。
「え、いや、でも、だって。教会では無理と言われ、逆に魔物扱いされ、いままで隠して生きていたのに…。なんだったの…」
大事なことなので何度でも言おう。
うろたえているロザリアもかわいい。
「種族のことだけが懸念だったのであればそれで解消だ。娼館の主とはすでに話はついている。後は君の返事だ」
ロザリアの目に合わせて顔を見る。
…ロザリアの目から大粒の涙が流れ始めるのを大人しく見る。
「私…。私は…幸せになっていいんでしょうか…」
「もちろんだ。幸せになる事を邪魔する権利は誰にもない」
「…そうですね」
服の袖口で目の周りを拭い、いつもの微笑を向けてくる。
「では、改めて…。ロザリア、俺の嫁になってくれ」
「はい……といいたいところですが、まだダメです」
今度は俺がびっくりした顔になっているのを見てロザリアがクスクスと笑う。
「今日は…私を貸切にしてくださいませ。身体の相性は見なくてもよろしいんですか?旦那さま?」
「そりゃもちろん…」
見るだろ?




