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一目惚れ

--一目惚れ


「じゃあおにーさん、またね?」

「はいよ。気をつけてな」


 街に着いた時にはすでに日も落ちかけていた。

 家や店が明かりをつけ始める時間なのでまだ通りは暗くはなく、安全に帰れるだろう。

 こっちを時たま見るために振り返りながら通りを駆けていくお嬢ちゃんを見えなくなるまでその場で見送る。


「さて、んじゃ俺らも宿に向かうか」

「畏まりました」


 斜め後ろに立つシルヴァに声をかけ、宿へと向かう。

 途中にある肉串屋台の前を通る旅にシルヴァが名残惜しそうにしているので気がつかないフリをして十本ほど買い与える。

 うん、尻尾がものすごい勢いで振られている幻覚が見える。

 欲しいなら欲しいと言えばいいのに。

 銀髪のイケメン執事が肉串入った袋を両手で抱えてニマニマしてる姿は貴重だぞ?


 宿についてすぐ、宿泊する人数が一人増えた事を主人に伝えて料金を払う。

 部屋は元々ツインの部屋だったから特に部屋の変更もなく、今までどおりの部屋を使うことになった。

 料理は肉料理で頼むと伝えるとやはり横に立つわんこの尻尾は激しく振られている。


 部屋に戻りやっと一息ついた所で机の前でお茶の用意をしているシルヴァにベッドの上から声をかける。

 椅子に座る様に促し、今後の方針を伝えておこうと思い、俺も席につく。


「今現在の俺の状況だが、半分依頼みたいなもので王都まで向かうことになっている」

「王都ですか。この街からだと確か飛竜便があったと思いますがそちらをご利用で?」

「いや、商隊の護衛みたいなものだから陸路で向かう。出発は明後日の朝だ」

「畏まりました。食事や水等の準備はいかが致しましょう?」

「その辺は商隊の方で用意してもらえる。肉が食いたかったら自分で買っておいていいぞ」


 準備に必要な金は拠点から持ってきているだろうから好きに使わせる。

 無駄遣いはしないだろうしな。


「主様、王都についてからはどうなさるのでしょうか?」

「王都についたら商隊も終わるしやることはなくなる。適当に王をやってるおっさんのところに顔でも出して終わりだな」

「しばらく王都に腰を据えるのでしょうか?」

「いや、その後は世界各地を回る。俺に合う場所を探そうと思ってな」


 入れてもらった紅茶を冷めないうちに口に含む。

 昔と変わらずいい味出すんだよなぁ、こいつ。


「武器はやはりあいつらしか考えられないからなぁ。王都の後に迎えに行く」

「あやつらですか…。正直気乗りがしませんが主様にはあの武器が一番お似合いです」


 「あいつら」というのが封印してある俺の二本の刀。

 魔改造しすぎて両方ともが意識ある武器インテリジェンス・ウエポンになってしまっている俺の愛刀。

 もう今となっては鑑定するのすら怖いくらいの性能の刀であるが、本気を出して戦う事があったらあいつら以外じゃないと武器が耐えられない。

 なので早めに取りに行くのは必要だ。


「私の様な眷属の回収は如何致しましょうか?」

「んー、それなー。どうしたもんかね」


 シルヴァ以外にも眷属としている魔物がいる。

 人化できるのが最低基準として何かしらで俺の手足になってくれる奴ら。

 いると便利だが、いなくても正直どうにかなる。


「近くに行って、会ったら、でいいかな」

「承知いたしました。眷属は私だけでよいということですね?」

「人の話を聞こうな?」


 鼻息を荒くしているシルヴァを生暖かい目で見ながらふと窓の外を見るとすでに夜の帳は落ち、家々の明かりも落ち始めている。


「よし。じゃあ俺は出かけてくるからシルヴァはここで待機な」

「お供します」

「着いてこなくていい。『待て』だ」

「ぐっ……わかりました」


 色街に行くのに連れて行くわけなかろう?

 女の子がみんなシルヴァの方に行ってしまったらやるせない。


----


 外壁側の比較的暗い場所。

 そこに、この街での色街は存在している。


 しかし色街にしては呼び込みもまったくおらず、店構えもかなり大人しめで、ぱっと見では色街だとはわからない。

 とはいえ、やはり窓から聞こえる艶やかな声や扉から投げ出されている男がいたりと、それっぽいところもあるのがわかる。


 その中でも一番奥にある館サイズの建物。

 そこに向かう。


 当然、門番の様ないかつい男が二人立っているが無視して素通りしようとしたら肩を捕まれ、止められた。


「すみません、お客様。紹介状はお持ちですか?」


 見た目の割には丁寧な言葉遣いの門番が肩を掴んだまま質問をしてきたが紹介状なんて持っていない。


「紹介状が必要なのか?」

「はい、当館は当エリア最高峰の娼館です。一晩最低でも金貨数枚という値段に見合う方であることが求められます」


 門番はそう言うと俺の前に立ちふさがるようにして門を塞ぐ。


「私達を力でどうにかして中に入ったとしても紹介状がなければ花の割り当てすらされませんのでご注意を」

「そうか。じゃあ出直すか。誰に言えば紹介状は貰えるんだ?」

「それは私共では判りかねます。ご自分の人脈にお尋ねください」

「わかった。じゃあ今回は諦めておく」


 諦めて娼館からは離れる。


 ……とでも思ったか。


 その足で娼館の裏手に回り、空歩を使い塀を乗り越える。

 気配を消しつつ娼館の側まで向かい、各部屋の窓を見る。

 明かりがついている部屋はまだ客がついていない娘の部屋。

 明かりが消えている部屋はもう客がついてお楽しみ中の部屋。


 …実に判りやすい。


 館よりすぐ近場にあった木に登り、明かりのついている部屋を見ると、四部屋の明かりがついていて、そのうち二部屋で動いている人影が見えた。

 そして残り二部屋の内、一部屋の明かりが唐突に消える。


 …客がついたのか?


 夜目に頼った程度で観察していると、明かりの消えた方の部屋の窓が開き、部屋の主であろう女性が窓縁にひじをかけ、夜の空を見ていた。


 腰下まである程の綺麗な黒髪で身長が低いせいかだいぶ幼く見える。

 体つきは窓縁に隠れている為はっきりとはわからない。


 その、月明かりに照らされている姿を見て…俺も惚けていた。


 …決めた。あの娘だ。


 木から飛び出し、空歩を使って宙を走り、開いている窓へと飛び込む。

 館の外では遅れて空気が破裂した音が響くが、その場所にはすでに俺はおらず、闇だけが存在している。


 廊下側からは従業員であろう男が「大丈夫か!」と各部屋に声をかけて歩いているのがわかる。

 娘も振り返り廊下からの呼び声に答えようとするところで、その目に見つける。


 俺は人差し指を口にあて、静かに。とジェスチャーをすると娘は軽くうなずいて、外からの呼び声には「大丈夫」とだけ答えた。


 しばらくして廊下の騒ぎは大人しくなり、そして物音もなくなる。


「いらっしゃいませ、お客様」


 娘は小声で挨拶をしてくる。

 その娘は月明かりに照らされ、やっと顔がわかった。


 ……綺麗だ。


「突然の訪問すまない。どうしても君に会いたかったのでね」


 歯が浮く台詞だが、正直頭が回ってないのでなんと話しかけたらいいかわからない。


「あら。受付を通らないで飛び込んでくる程情熱的に私を欲してくれているんでしょう?謝る必要はないですよ」

「あぁ。確かに今、俺は、君を欲している」


 窓際に立って月明かりを背にしている娘、扉の前で胡坐をかき、下から見上げている俺。

 なんともいえないこの状況だが、今この場、この時間が心地よい。


「そんなに緊張しないで?こちらでお茶でもいかが?」


 娘はテーブルの上に並べられているカップにお茶を注ぎ始める。


 ……これが後に俺の嫁になる、ロザリアとの出会いだった。




次回は2/5の予定です。

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