銀狼時々執事
--銀狼時々執事
「おう、帰った」
目の前で伏せの姿勢をして俺に挨拶をしている銀狼の前に立ち、顎の下を撫でる。
かなりの大きさなので顎しか撫でられないがそれでも気持ちいいらしく目を細めている。
隣で呆然としているお嬢ちゃんは未だに事態を把握していないが、そろそろ戻ってくる頃だろう。
「変わりはなかったか?」
『はい。数人が小屋を使用した以外は特に』
「そうか。ありがとうな」
『もったいなきお言葉』
銀狼と話しているとお嬢ちゃんの再起動が終わった様で俺の服の裾をつかんできた。
「おにーさん。わんこ?」
「わんこだな」
「もふもふだねー」
「もふもふだな」
「この子おにーさんと喋れるの?」
「ん?あぁ。そうだな」
転移チケットの機能のおかげでこういった人ではない者とも違和感なく会話は出来る。
きっとお嬢ちゃんにはクゥンとかガウみたいな声に返事をしているおかしい人の様に見えたのだろう。
『主よ、その娘はどうしたのでしょう?』
「あぁ、側にいたから連れてきた。悪意は感じないから大丈夫だろう」
『了解致しました』
「さて、そのままの姿も非常に撫でがいがあっていいんだがそろそろ人化してくれんかね」
『これは失礼を致しました。少々お待ちを』
そういうと銀狼は光りだし、光が収まった時には目の前に適度に年を重ねた雰囲気の銀髪の執事が立っていた。
腰辺りまである銀髪をオールバックにし、後ろで縛り、片眼鏡をかけ、俺よりちょっと高いくらいの身長で細いけど筋肉質な執事。
真っ黒の執事服に銀髪のコントラストがとても綺麗に映えている。
街中に行けば女性が黄色い声を上げる様な顔の作りといい、物静かな雰囲気といい、イケメンってのはこういう奴のことを言うんだろうな。と心の中で嫉妬する。
そしてお嬢ちゃんはまたフリーズしたらしく目を見開いて銀狼だった執事を見ている
「お待たせしました。主様」
「おう、すまんな。銀狼のままだとこの子に話が伝わらないからな。家の中にも入れないし」
「そうですね。考慮不足でした。お嬢様、失礼致しました」
「い、いえ。大丈夫です!」
急に声をかけられたお嬢ちゃんはあたふたと手を前で振っているが動揺は抑えきれないようだ。
「人化を見たのは初めてですか?」
「う、うん。わんこだったのに人になってる。どっちが本当の姿なの?」
「どちらも本当の姿ですよ。銀狼である姿も。今のこの人である姿も。どちらも主の僕であるシルヴァです」
「シルヴァさんね!よろしく!」
ちなみにこのシルヴァという名前。銀だから。という安直な理由でつけられたものではないぞ。
本当だからな。
「して主様。今回のご滞在は長く出来るので?」
お嬢ちゃんと話していたシルヴァが振り返り問いかけてきたので「あぁ」とだけ答える。
するとシルヴァが感極まった表情をし、俺の側にかけよってきた。
「ではこれより主様のお世話をさせていただきます」
「お世話って…」
「前回はお役目を言い渡されてからすぐ居なくなってしまわれたので。今回はきちんと奉公させていただきます」
「いやまぁ…そうだけどさぁ。まぁいいか」
この問答は答えが変わらないと思い早々に打ち切る。
「じゃ、家入るか」
「はい」
「楽しみっ!」
それぞれの返事を背中に受け、家の扉を開ける。
そこは埃やカビの匂いなどせず、未だに誰かが住んでいたような空気を感じる。
あぁ、懐かしいなぁ…。
整理してあるように見えて乱雑に物を配置しているこの棚とか、机の上に放り投げた図鑑とか。
何人がここを使えたのかは知らないけど、この世界で生きていく上で必要な知識や物はここで手に入れていけたのだろうか。
「そういえば主様。あれらがありませんがいかがなさったのでしょうか?」
「ん?」
「あの小煩い小娘達です」
あぁ。
「あいつらにはまだ会いにいってない。そのうち行く予定だけどな」
「なんと。私に一番最初に会いに来ていただけたと。感無量です」
違うけどな?
「ねぇねぇ、おにーさん。探検してもいい?」
「危ないものが多いから触ったりするなよ?後、家から出るなら遠くまで行かないこと」
「はい!」
お嬢ちゃんはさっきからずっとうずうずしてたからな。
好きに散策するがいいだろう。
どうせぱっと見でわかる場所はこの部屋しかないし。
隠し部屋を見つけられたら大したものだ。
まぁ速攻で外に出て行ったから部屋の中は興味がなかったのだろう。
「主様。今後はどうするご予定ですか?」
「んー、まぁとりあえず王都かな。その後はあいつらに会いに行って、後は住みやすい場所を探す」
「了解致しました。では旅をするということですね」
「そうなるな」
「ではこちらで準備をしておきます。例の部屋には入っても?」
「かまわない。必要だと思うものを準備しておいてくれ」
「承りました」
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「おにーさん、そろそろ帰らないと夜になっちゃう」
「お、もうそんな時間か。じゃあ帰るか」
部屋にある椅子に座って果実酒を飲んでいたら散策が終わったお嬢ちゃんが戻ってきてもうすぐ夕方なのを知らせてくる。
「そんじゃ帰りますか」
立ち上がり、シルヴァとお嬢ちゃんを連れて家を出る。
「まぁまたすぐに来ることになりそうだけどな」
そして一行は街への岐路に着く。
次回は2/3の予定です。




