筋肉は見ている。どこにでもいる。
--筋肉は見ている。どこにでもいる。
美食大会も終わってウィステリアちゃんとも合流。
三位の目録を持ったウィステリアちゃんはほくほく顔をしている。
すぐ街からいなくなっちゃうのに貰ってもうれしいものかねぇ
「売るからいいの」
とのことだ。
現金な子だ。
「今日のイベントはもう終わりかな?」
「そうみたいですね。後は屋台でも回りますか?」
「そうだな。遊戯屋台とかもあるみたいだし制覇してみるか」
弓矢や棒手裏剣みたいなものを使った的当てとか、くじ引きみたいなのとか、型抜きまである。
近い順に屋台制覇だな。まずは弓当てか。
「じゃあまずは的当てだ。おやじ、5人分だ。いくらになる?」
「はいよっ。30マッスルだよ!」
…ん?
「ほら、早く。俺の上腕二頭筋が君のマッスルを待っている」
…他に行ったほうがいいのだろうか。
どうりで他の店と比べて空いているわけだ。
とりあえずそこに一回銅貨1枚と書いてあるのだが…5枚でいいのか?
「金じゃない。筋肉をよこせ。俺にはわかる。お前も同類だと」
「決め付けるな。俺にそんな趣味はない」
俺に向かって筋肉アピールをするな。
「俺の僧帽筋が仲間を探している。さぁ恥ずかしがらずに…」
後ろを向いて肩甲骨から上の筋肉をぴくぴくさせているおっさん。
Tシャツのような薄い服を着てはいるのだが…そこから盛り上がっている筋肉がキモイ。
「もう筋肉はいいから的当てをさせろ」
「俺の筋肉を褒めてくれてありがとう!じゃあ早速用意するから待っててくれな!」
そういうとおっさんは裏に行き、弓矢を5セット持ってきた。
筋肉は「良い」と何か勘違いしているな、このおっさん。
ちなみに代金は普通に銅貨5枚だった。
そしておっさんは屋台の中で的の前に立ち…上半身を露にした。
「さぁ当ててみろ。俺の大胸筋に当てたら特賞だ。腹直筋なら金賞、大腿筋なら銀賞、それ以外なら銅賞だ」
「筋肉の名称でいうな。あとキモイ。つかおっさんが的なのか」
おっさんに当てれば、というか部位限定で狙えとか。あたらない自信でもあるのか?
「師匠、本気でやっていい?」
ウィステリアちゃんがさっきから汚いものを見る目でおっさんのことを見ながら弓の弦の張り具合を確認している。
うん、魔力を籠めるのはやめようか。
「いいぞいいぞ!むしろ全力で来い!」
暑苦しいわ。
「もういい、お前ら。…当てろ」
用意された矢は5本。
子供らが構えた矢はおっさんの体に突き刺さっ…たかのように見えた。
「残像だ」
うん、むかつく。
仕留めるか。
「おっさん。俺もやるぞ」
「おう。俺の全身の筋肉がお前を待っている」
大胸筋をぴくぴくさせながらサイドチェストの体勢で俺をあざ笑っている。
キモいわ…マジキモい。
「師匠、まだダメ。私たちの矢がまだ残ってる」
ウィステリアちゃんが弓を構えたまま俺の前にすっと割り込んでくる。
おおう、もう矢どころか弓や弦にまで魔力通しておられる。
「あー、もう当たらなかった-!なんだよあのおっさん!」
「ふははは。筋肉を育てていないガキんちょなんぞの矢なんて当たるわけないだろう!筋肉を鍛えろ!筋肉を!」
ルブラとウォートは矢を使い果たした様で悔しそうに弓をおいている。
マヤカちゃんは最初から諦めていた様で悔しがってはいないが…おっさんを汚物のように見ている。
まぁキモいしな。
「…必中…誘導…分裂。付与速度増加」
おいおい。ガチだな。
つかこんなに弓のスキル持ってたっけ…?
「おお、いいぞいいぞ。俺の大臀筋もピクピクしてるぜ」
ラットスプレッドバックだっけか。このポーズ。
ほら、子供達どころか歩いている人すらどん引きだぞ、それ。
「弓術技能彗星乱舞」
ウィステリアちゃんが弓スキルを使用すると同時に放たれた矢が十数本に分裂し全てがおっさんへ向かっていく。
おっさんはまた残像を使うが、よけた方向に半分の数の矢が曲がっていく。
それすらも残像でよけたおっさんに向かい更に残りの半分が追跡する。
だんだんおっさんの残像の速度が遅くなってきて、最後に残った一本が。
おっさんの心臓の場所に突き刺さる。
「み、見事である…」
崩れ落ちるおっさん。そしてそれをドヤ顔で見下ろすウィステリアちゃん。
なんだろう、このウィステリアちゃんの覚醒度合い。
特賞がなにかわからないが、特賞の所にあった箱を一箱、もらっていくぞ。とだけ声をかけてとっとと屋台から離れる。
「リア、すごかったじゃないか!」
「ほんと。いつの間にあんなこと出来るようになってたの?」
「すごかったねー」
子供らはさっきのウィステリアちゃんの弓術に興奮している様子。
…さっきのあれを駆除するために覚醒したのかね。
まだまだ伸びるな、この子らは。
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…その後宿に戻るまで、街の至る所からの視線を感じた。
振り返っても誰もいない。
気配察知にはひっかかるのだが…いざそこに行ってみると誰もいない。
そんなことが数回ではすまない程続く。
気のせいじゃないはずなんだがなぁ。
「筋肉はいつでも君を見ている。こちら側へ来るのを待ってるよ」
はっ。
耳元でおぞましい事を言われて振り返ったがそこにも誰もいない。
…早くこの街から出なければ。




