草木も眠る丑三つ時の前に。
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--草木も眠る丑三つ時の前に。
シェリスの相手を適当にこなして子供らが飯を食べ終わったのをきっかけにギルドを出て宿へと向かう。
子供らはもう歩く気力だけしか残っていないようで口を開くこともなく着いてくる。
ギルドから20分ほど歩いたところにある今晩の宿はランクで言えば中級の宿。
一人銀貨一枚という金額は向こうで言うと5000円くらいの価値。
普通なら安いビジネスホテルくらいしか泊まれない金額なのだが、こっちでは8畳くらいの部屋にベッド、机が付いてくるくらいの部屋に泊まれる。
安い所は銅貨3枚(1500円)から泊まれ、高いところだと金貨一枚(10万円)らしい。
そんな宿に5人で入り、子供らは男女で一部屋ずつ。そして俺の部屋。と分かれる。
子供らはベッドに寝転がったら即寝てしまったようで物音一つしない。
俺は…というとまだ寝付けなさそうなので一階に降りて主人にアルコールを頼みテーブルにつく。
宿の一階も食堂のようになっており、まだテーブルには10人ほどの客が飲み食いをしているのが見える。
「おまち」
主人自らがよく冷えたグラスにいっぱいの氷と指二本分くらいの蒸留酒を注いだものを持ってきてくれる。
割る様に冷たく冷やされた水も一緒に出してくれているところがにくい。
つまみに出されたボア肉のベーコンと芋揚げをつまみにチビチビと飲む。
「さてこれからどうなるかねぇ…」
手に持ったグラスの氷がカランと音を立てるのを見ながら思い耽る。
十中八九男爵の視角が来ると思うんだよねぇ、今晩に。
自警団のクィルもたぶん男爵の要求を突っぱねているだろうし、何より面子を潰されるのがとても嫌いな人種だろう、あれは。
今度は何人で来るのか知らないけど宿に迷惑かけるわけにはいかないよなぁ。
…というか子供らにはゆっくり休んで貰わないとな。
…
…
やるか。
テーブルを立ち勘定をすませ、宿の扉を潜る。
刀に手を添えた状態で中央広場に向かう。
後ろに数人の気配が付いてくるのを確認した上で。
広場に備え付けられている長椅子に座り、辺りの明かりが消え、月明かりだけになるのを待つ。
気配を探ると…10…15…15人か。
ずいぶん奮発したな。
少し離れたところにいる4人が男爵達だろうな。
ま、何人来ようとやることは変わらないんだけどな。
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それから1時間程椅子に座っているが向こうさんはまだ動く気配はない。
月明かりも雲で隠れたりして真っ暗になったりするがそのタイミングで襲ってくる様な気配がない。
何かを待っているのか。
それともただ単純にタイミングを計りかねているのか。
その時、空に一発の照明弾が上がる。
その照明弾は広場全体を照らし、昼間のような明るさになっている。
それがなにかの合図だったのか、俺を囲うようにゾロゾロと数人の男達が現れる。
「おまえさんがヒフミとかいう奴で間違いないな?」
黒布を顔に巻き付けて表情がわからないようにしている男達の内の一人が一定の距離を保った所で止まり、そう問いかけてくる。
「…だとしたら?」
「つまらん依頼だがおまえを潰せという奴がいる」
「なるほど。男爵も何を考えているのやら」
男はふむ。と考え込むような動作をするがすぐに考えるのを放棄したように
「なるほど。理解はしている、と」
「いやいや、今襲ったら男爵の仕業ですよ。って自分から言ってるようなものじゃないか」
「それもそうだな」
後ろ腰に隠していたのだろう大きめの短剣を手に取り、戦闘態勢を取る黒布の男達。
「んーと、やるということでよいのか?」
「そうだな」
よいしょっとと椅子から立ち上がり腰につけている刀を鞘から抜く。
「制限時間は?」
「人避けの結界を張ってある。結界術士が結界を張れなくなるまでだな」
「ふむ。じゃあ…思う存分にやれるな?」
自分でも引くくらい冷たい声が出たと思う。
その瞬間に押さえていた魔力を解放し俺も戦闘態勢を取る。
解放された魔力は所々でバチッバチッという紫電を走らせ、地面は凍り付き、結界に沿って暴風が吹き荒れる。
好んで使うのは氷属性なんだが実際俺は上位属性がほとんど使える。
聖属性とかそういう特殊属性以外は。だけども。
さすがにここまでとは思っていなかったのか後ろの方にいた黒布の男達の下っ端達はビビって動けないでいる。
「さて。来ないならこっちから行くぞ?」
雷属性を持たせ、青白い火花が出ている刀を軽く横に一度振る。
刃の軌跡に合わせて紫色の火花が後を引き、しばらくしてから消える。
身体強化によるブーストも併せて一気に踏み込み唯一口を開いていた黒布の男に上段からの縦一閃をお見舞いしようとする。
それに危なげなく短剣を合わせ横にはじかれる。
その瞬間蹴りも合わせるがそれもガードされたのでその勢いを使い距離を取る。
「ほう?」
「危ない危ない…さすがは『暴虐』と言ったところか」
「おやご存じで」
「それくらいは調べるだろう。黒髪黒目のカタナ使い。暴虐理不尽と言われた元Sランク」
短剣を構えたまま俺の隙をうかがっている黒布の男はジリジリと間合いを計っている。
そのタイミングで後ろから男爵の「早くやれ!」という怒鳴り声が聞こえる。
自分で来いよ。と一瞬そっちに目線を動かした瞬間に黒布が俺の顔を覆う。
しまった。と思った瞬間に腹に鈍い痛みを感じる。
黒布に覆われたまま刀を横に振るが手応えはない。
空いた左手で黒布を取ると間合いの外にすでに移動している。
なるほど。いい仕事するじゃないか。男爵め。
男爵を憎たらしく思いながらさっきまで相手をしていた黒布のおt…女?
「女だったのか、おまえさん」
「だからどうした。女であることはだいぶ昔に捨てた」
おー、よくある台詞第28位くらいの奴だ。
結構深くまで刺さったなぁ。
血が止まらないな。
なので。
とっととケリをつけようか。
「さて、今度はこっちの番だ。降参して男爵を差し出してくれるなら今のうちなんだがな」
「それは無理というものだろう?」
「ですよねー」
では。
刀を右手に持ち、空いた左手に、氷で同じような刀を生成する。
俺の本来のスタイル。二刀流。
今回は片方は実物じゃないけどしょうがない。
身体強化。フルブースト。瞬歩。
反則じみた加速で目の前の女の後ろに飛び、氷の刀で一瞬で首を刎ね飛ばす。
その勢いで後ろで震えていた黒布の男共を二刀で切り伏せていく。
腕が飛び、足が飛び、裂いた腹から臓物が飛び出る。
物理の刀に纏わせた紫電による焦げ付いた臭いとぶちまけられた血の臭いで辺りはものすごい臭いになる。
そして数分。
広場に立っているのは俺と男爵達3人だけとなった。
「さて。もうお前ら生きるのに満足したっていうことでいいんだよな」
結界のギリギリに立っていた男爵達に向かって刀をぶら下げた状態で一歩ずつ近寄る。
男爵は地面にへたり込んでイヤイヤするように顔を左右に振りながら泣き出している。
残りの二人は座り込んだ状態で放心状態となっている。
「よく聞く言葉だが…殺す覚悟のある奴は殺される覚悟のある奴だ。というのはわかるな?」
刀を突きつけても、後ずさる様に逃げていた男爵はもう逃げられていない。
「いい加減…やりすぎなのは自覚してるよな?」
もう男爵も放心し始めているのでとどめを刺そうと刀を振り上げる。
「さよならだ」
刀を振り下ろした瞬間。
ガラスが割れる様な大きな声が聞こえ、そこから男が飛びこんできて、振り下ろそうとしていた俺の腕に抱きついてきた。
「ヒフミ、そこまでだ。これ以上はだめだ」
腕に抱きついてきたのはクィルだった。




